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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2010.06.10]

吉田都さよなら公演と同じ頃、崔由姫が『シンデレラ』主役デビュー

The Royal Ballet 英国ロイヤル・バレエ団
Cinderella by Sir Frederick Ashton
Yuhui Choe's Title Role Debut
フレデリック・アシュトン振付『シンデレラ』
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4月中旬、吉田都がロイヤル・バレエ団と2回にわたるロンドンでのさよなら公演を行っていたのと時を同じくして、ロンドンではロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)とコロシアム劇場で日本出身の複数のバレリーナが古典の大作を主演していた。
 ROHではロイヤル・バレエの崔由姫が17日の昼の部に『シンデレラ』の主役デビュー。
コロシアムではバーミンガム・ロイヤル・バレエのロンドン公演が行われており、ライト版『眠れる森の美女』のオーロラ姫役を初日20日と最終日24日を佐久間奈緒が、21日の昼の部は平田桃子が踊った。
 
当初、崔はセルゲイ・ポルーニンを相手役に4月17日(昼)に1回主演するだけの予定であったことから、イギリスのバレエ・ファンは、デビューにして1度限りの公演を見逃すことのないよう早くからチケットを購入していた。
崔の全幕作品主演は『くるみ割り人形』『リーズの結婚』に続いてこれが3作目。
関係者もファンも崔がダンス技術や音楽性に不足のない踊り手であることは充分承知である。
また演技力、全幕作品の登場シーンから観客の心を惹きつけ物語の世界に誘うスター性についても、4月5日にブライアン・マロニーと踊った『リーズの結婚』で本人が存分に証明してみせただけに『シンデレラ』全幕主演への期待が高まっていた。
当日は シンデレラの父をクリストファー・ソーンダース、意地悪なお姉さん役をアリステア・マリオットとジョナサン・ハウエルズ、魔法使いをスランチェスカ・フィリピ、ダンス教師をホセ・マルティン、春の精をエリザベス・ハロッド、夏の精を小林ひかる、秋の精をサマンサ・レイン、冬の精をクレア・カルヴァート、ジェスタはフェルナンド・モンタノ、王子の友人を ヨハネス・ステパネク、蔵健太、平野亮一、アンドレイ・ウスペンスキーが踊った。
 
崔は1幕の登場直後の場面で亡き母を想い涙する姿が可憐で、父役のソーンダースに見つけられ抱きしめられ尚も涙する場面で、既に多くの観客に感情移入させバレエの最後まで関係者やファンの心を鷲づかみにして話さなかった。
ほうきを舞踏会での相手にみたてて踊るソロで見せる音楽性豊かなステップや軽やかな跳躍、意地悪なお姉さんたちとのやり取り、四季の精の踊りを見守る姿も何ともチャーミング。華麗に変身した後、馬車で宮殿に向かう後姿、2幕で王子に手をとられ舞踏会場への階段を下りる姿には、主役デビューのバレリーナらしいすがすがしさにあふれていた。

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男性主役のポルーニンはウクライナ出身。ロイヤル・バレエ・スクール留学中の2006年にローザンヌ賞、ユース・アメリカ・グランプリ、第6回セルジュ・リファール・コンクール3冠の覇者となり世界の注目を浴びた。入団3シーズン目、今年20歳。将来を大いに嘱望される大型新人である。
 ロイヤルの若手男性ダンサーとして現在、オーストラリア出身の23歳、スティーブン・マックレーと双璧をなす存在だが、輝く笑顔と白い歯が印象的な明るい魅力のマックレーとは対照的に、東欧出身のポルーニンは若さに似合わぬ陰影や落ち着きの持ち主。
イギリスのバレエ・ファンの多くが『シンデレラ』の王子に代表される明るくチャーミングな王子役は似合わないのではないか? と心配していた。
だが登場の2・3幕を見ても暗さは微塵も感じられず、舞踏会場に現れたシンデレラに魅せられ、跳躍技を駆使して理想の女性を追うシーンでは、若さから繰り出す高くエレガントな跳躍を披露して観客の目をくぎづけにした。
 
崔とポルーニン組は4月9日に行われた『シンデレラ』のゲネプロでも全幕踊って、友の会のメンバーや招聘写真家たちの前でいち早く同作品主演を果たした。
その際は2幕のパ・ド・ドゥのポーズで、音楽以上にポーズ静止させ王子とシンデレラの愛の高揚を見せたいポルーニンと、音楽と共にポーズを締めくくりたい崔の気持ちが食い違う場面があったが、正式デビュー当日である17日(昼)は新人2人とは思えぬパートナーリングを練り上げて一切、破綻がなかった。
この日の夜の部は同じ作品を吉田都とスティーブン・マックレーがつとめた。
週末ということもあり、熱心なファンは昼夜2公演観て、吉田と崔、マックレーとポルーニンというそれぞれ魅力的な、だが異なる個性を持つペアの妙技やフレッシュな魅力を堪能した。
 

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マーゴ・フォンティーンやルドルフ・ヌレエフが君臨したコベントガーデンの大舞台で、アシュトンの『シンデレラ』という非常に英国ロイヤル・バレエらしい演目を、昼は新人の崔が、夜はベテランの吉田が主演した。
準主役クラスには蔵健太や小林ひかる、平野亮一、高田茜(夜の部で秋の精を踊る)がいる、群舞にはローザンヌ・コンクールから研修生としてバレエ団に受け入れられた根元里菜、高田樹の姿もあった。
日本のバレエ界が輩出し、世界的に活躍するダンサーの多くを目の当たりにして、バレエという芸術を日本という異なる土壌に根付かせるべく人生を投げ打った多くの先達の情熱に想いをめぐらせた1日であった。
 
夏で終了する今シーズン、1度だけの『シンデレラ』主演予定であった崔とポルーニンは、その後アリーナ・コジョカルとルーパート・ぺネファー主演予定日に、急遽2度目の主演を果たす嬉しいハプニングに見舞われた。また年末の同作品再演時にも主演する予定だという。
(2010年4月17日(昼)ロイヤル・オペラ・ハウス。写真は4月9日公開ドレス・リハーサル)

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撮影:Angela Kase
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