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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2009.06.10]

ロイヤル・バレエがバレエ・リュス100年記念『レ・シルフィード』『火の鳥』ほか上演

The Royal Ballet
英国ロイヤル・バレエ
Mikhail Fokine :"Les Sylphides" "The Firebird"
Alastair Marriot :"Sensorium " The World Premier
ミハイル・フォーキン『レ・シルフィード』『火の鳥』
アリステア・マリオット新作『センソリウム』世界初演

ロイヤル・バレエ団は5月4日より21日まで、『レ・シルフィード』と『火の鳥』、アリステア・マリオット振付による新作『センソリウム』を上演した。
 
今年は稀代のバレエ興行師セルゲイ・ディアギレフが率いたロシア・バレエ団がパリで初めて公演を行ってより100年ということで、世界的に同バレエ団演目のリバイバルや、ガラ公演、映画の上演や関連イベント、エキシビションが多数行われている。ロイヤル・バレエ団による『レ・シルフィード』と『火の鳥』も、ディアギレフのロシア・バレエ団が世界のバレエ界に与えた影響力を回顧し、称える目的での上演された。

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初日の『レ・シルフィード』のプレリュードには、当初アリーナ・コジョカルが予定されおり、彼女を観られるものと期待したファンも多かったが、『ジゼル』全幕で舞台復帰したコジョカルが大事をとって小品集主演を降板。崔由姫が代役をつとめることになった。

当初崔の相手役は、怪我をしたフェデリコ・ボネッリに代わってイヴァン・プトロフが踊ると発表されたが、結局、舞台写真家が招聘された5月2日のゲネプロと公演初日、およびファースト・キャストの公演日はすべてヨハン・コボーがつとめた。
プトロフの降板の理由についてはバレエ団から一切説明がなく、今シーズン初めからダンサーの怪我と降板劇に翻弄されたロイヤル・バレエ・ファンや一部の関係者の胸には、またしても釈然としないわだかまりが残った。

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『レ・シルフィード』といえば帝室ロシア・バレエの流れをくむマリインスキーが得意とする演目。プレリュード、ワルツ、マズルカを踊る主演バレリーナ3人および女性群舞のすべてには、ロシア・バレエの優美なポールド・ブラ(腕の動き)や、流麗な足の運びが要求される。
男性主役を初演したのはヴァスラフ・ニジンスキーであるが、若かりし日のニジンスキーが得意とした大きな跳躍よりも、空気の精からインスピレーションを得る詩人の静謐にしてエレガントな佇まいや、プレリュードを踊るバレリーナとの詩情あふれるパートナーシップが要求される役である。

今シーズン、抜擢とコジョカルの代役をつとめて大活躍の崔は、このバレエでバレリーナとして本人の個性である繊細な身体表現とエレガンスの粋をみせ、ラウラ・モレーラやローレン・カスバートソン、ヘレン・クローフォードといったバレエ団の先輩たちを向こうに回して見事な主演ぶりを見せた。
ヨハン・コボーは跳躍や一部のムーブメントに衰えがうかがえたが、空気の精を踊る崔に極限の浮遊感を与える確かなサポート技術を駆使し、ベテランらしいパフォーマンスを見せた。
ラウラ・モレーラは、通常アレグロでのシャープな跳躍やパを得意とする踊り手。静謐さやエレガンス重視のこの作品への彼女の抜擢を疑問視する関係者もいたが、ふたを開けてみると本人の持つ音楽性や機敏さといった美質が大いに生かされ、作品後半のワルツでの腕と脚のコーディネーションが白眉であった。

私が観た最終日は、ゲネプロやファースト・キャストでマズルカを踊って素晴らしかったローレン・カスバートソンが体調の不調を訴え降板。『ジゼル』のパ・ド・シスや2幕のミルタのお付きで、ここ1ヶ月ほど大活躍したヘレン・クローフォードが代役として手堅いパフォーマンスを見せた。

崔は今シーズン『くるみ割り人形』の金平糖の精、『ラ・バヤデール』のニキヤ、『レッスン』の生徒役、『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』のピンクを踊るなど目覚しい活躍を見せ、2月には英国舞台批評家協会賞の女性スポットライト賞を受賞。イギリスのバレエ関係者やファンの間で「大型新人」として話題で人気急上昇。来シーズンますますの活躍が期待されている。

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5月21日の最終日に『火の鳥』のタイトル・ロールを踊ったのはロベルタ・マルケス。王子イヴァンはヴァレリー・フリストフ、プリンセスをクリスティーナ・アレスティス、魔王コスチャイはギャリー・エイヴィスがつとめた。

小柄ながら跳躍にバランスに強靭な舞踊技術を持つマルケスに、火の鳥は似合いで好演ではあったが、リアン・ベンジャミンや吉田都、佐久間奈緒といったこの役を得意とするスターによる同作品を観慣れている私の目には、マルケスによるタイトル・ロールは小粒に映り残念であった。
バレエ団のダンサー総出演の作品の中心で群舞を踊らせ、悪を成敗する王子イヴァンを助ける火の鳥役には、技巧や美貌以上にダンサーのスター性が何よりも大切である。
フリストフの王子イヴァンは可もなく不可もなく、といったところ。当日作品を引き締めたのは、おどろおどろしい魔王コスチャイを踊ったギャリー・エイヴィスであった。

日本人ダンサーでは、小林ひかるがプリンセスを、蔵健太が三日月の剣を奮うインドの騎士を、平野亮一がコスチャイのボディ・ガードを踊り、それぞれ好演した。

4月22日夕刻に行われたロイヤル・バレエ09/10新シーズン演目発表のプレス・コンファレンスにおいて、芸術監督モニカ・メイソンは今シーズン限りでプリンシパルのアレクサンドラ・アンサネッリがバレエ団を退団すると発表した。
アンサネッリはニュ−ヨーク出身。NYCBの元プリンシパルとしてバランシン作品を得意にした。06年に英国ロイヤル・バレエ団に移籍以降は、演技に開眼。アシュトンの『田園の出来事』や『ラ・バヤデール』のガムザッティ、『オンディーヌ』のタイトル・ロールに美貌とコケットリーを奮った。
アメリカ人である彼女に対して、英国の一部の批評家は辛らつであったが、本人はオフ・ステージでも常にきちんとメイクをし、身だしなみに手を抜くことのないエレガントな女性で、女性として魅力的であるだけではなく、非常に優れたバレリーナであった。

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アリステア・マリオットの新作『センソリウム』は、リアン・ベンジャミンとアンサネッリ、トマス・ホワイトヘッドとルーパート・ペネファーザーの男女各2名と、群舞の女性10名に振付けられた小品。
女性プリンシパルは白、男性主役と女性群舞は水色の衣装で清涼感あふれる色彩が新鮮で、ドビュッシーの謎めいたスコアも耳に心地よかった。

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ベンジャミンとアンサネッリは時に姉妹のようにも見え、それぞれの相手役と身体能力の極限をふるって難解なパートナーリングに挑んだ。
振付にはウィールドンやマクレガーの影響が顕著にうかがわれ、マリオットらしいオリジナリティは見られなかった。

群舞ではローラ・マクロッホが好演。ローザンヌ・バレエコンクールでバレエ団研修賞を受賞し、研修を続け、この秋からバレエ団に正式入団の決まった高田茜も抜擢され、大人びた雰囲気と音楽性で群舞の中にあって堂々光を放っていたのが印象的であった。
(2009年5月21日 ロイヤル・オペラハウス 写真は5月2日の最終ドレス・リハーサルを撮影)

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