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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2009.04.10]

英国ロイヤル・バレエ団 新『イザドラ』世界初演、『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』

The Royal Ballet
Kenneth MacMilla:"Isadora " Jerome Robbins :"Dances at a Gathering"
英国ロイヤル・バレエ
ケネス・マクミラン『イサドラ』、ジェローム・ロビンズ『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』

 ロイヤル・バレエ団は3月11日より21日まで、新『イザドラ』と『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』を上演した。

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 新『イザドラ』は、モダンダンスの先駆者であるイザドラ・ダンカンの一生を描いたバレエで、故ケネス・マクミランが81年に振付けた全幕版を、バレエ団芸術監督モニカ・メイソンの依頼を受け、画家であるマクミラン未亡人が改訂したもの。今シーズン最も話題の作品として、シーズン開幕前より関係者やファンの熱い期待が寄せられていた。
マクミラン未亡人は、2時間2幕のオリジナル版を、マルチメディアを導入して1時間に改訂。音楽は81年の原典版を作曲したリチャード・ロドニー・ベネットのオリジナル・スコアを、衣装はバリー・ケイが担当した。

 世紀末のアメリカに生を受け、舞台芸術の首都であるロンドン、ベルエポックの時代のパリ、ドイツ、革命前の帝政ロシア、革命後のソビエトを駆け抜けた奔放なイザドラ・ダンカン役に抜擢されたのは、タマラ・ロホとイザベラ・マクミーケン。ロホは以前にアシュトン振付の抽象バレエの小品『イザドラ・ダンカン風ブラームス5つのワルツ』でもダンカンに扮したことがあり、その豊かな体はダンカンを演ずるに似合いであったし、バレエ団きっての女優である彼女が、今回ドラマティック・バレエ作品において、どのようなイザドラ像を作り披露するかに周囲の期待が集まっていた。またダンカンというバレリーナ冥利に尽きる役を得たファースト・ソリストのイザベラ・マクミーケンは、シーズン途中ながら3月20日に『イザドラ』を踊ってバレリーナとしての13年のキャリアに終止符をうち、引退することを発表しファンを驚かせた。

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 3月11日の世界初演をファースト・キャストのロホで観た。
幕が上がると青い大海原の映像を背景にクリーム色のドレスに裸足のイザドラ(ロホ)が舞台を自由自在に闊歩し、駆け抜ける。音響装置からは、ダンカンのモノローグが流れ、映像・ダンス、音楽と主人公の独白によって、観客に一人の女傑の類稀なる人生を伝える趣向であった。

 ロイ・フラーに触発され自らの舞踊スタイルを確立、深みのある舞台作品に興味をしめさない母国アメリカの観客を嫌い、舞台芸術の帝都ロンドンに渡り、若く才能あふれる舞台デザイナー、エドワード・ゴードン・クレイグ(エドワード・ワトソン)との熱い、だが波乱含みの恋におちるイザドラ。自らの舞踊学校を設立し、自らの公演活動だけでは学校を維持できないと、時の大立者であったシンガー・ミシンの創設者パリス・シンガー(ギャリー・エイヴィス)に近づき愛人の立場と彼の金銭的支援を受けながらも、タンゴ・ダンサー(リッカルド・セルヴェーラ)や、浜辺の若者(ブライアン・マロニー)などと奔放な恋をする女。その一方で子煩悩な母親でもあったイザドラを、二人の子供の溺死という悲劇が襲う。

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 ロシア革命を支持し、赤い布を持って公衆の面前で踊り、ブーイングを浴びせられ、観客への反抗に自らのドレスを破り裸の胸をあらわにして警官に逮捕される熱い信念を持った一人の女。第一次世界大戦を生き抜き、革命後のソビエト政府の招待を受け、停電した劇場で一人ランプを片手に踊る孤高のダンサー、イザドラ。

 61分の作品の中に一人の女の真実が鮮やかに浮き彫りにされ消えていった。マッツ・エクの『カルメン』に続き、古典バレエとは全く異なるダンカンの舞踊スタイルを見事に体現したロホが素晴らしい。演技者としても様々な男たちと浮名を流す女の情念と、2人の子供を失った母としての悲劇の対比が見事である。共演者としてはロホと共に子供を失った慟哭の演技が忘れがたいパリス・シンガーに扮したギャリー・エイヴィス、タンゴ・ダンサーとしてシャープなパフォーマンスを披露したリッカルド・セルヴェーラが印象に残った。

 ここ数年映像や音響など21世紀的なマルチ・メディアの技術を取り入れた作品の多くが、さしたる成功を収めない中で、新『イザドラ』は最先端の技術を非常に有効に取り入れた最も良い例として今後も再演されることであろう。

 マクミラン未亡人はこの作品を元ロイヤル・バレエ団芸術監督で、生前ケネス・マクミランとマクミラン作品を支持し、『マノン』などの優れたマクミラン作品をバレエ団の演目に残すことに心を砕き、今年1月に亡くなったノーマン・モリスに捧げている。

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『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』は、昨年5月に振付家ジェローム・ロビンスの没後10周年を記念して上演されて以来10ヶ月ぶりの再演となった。

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Dance Cube昨年6月号の写真でご紹介したアリーナ・コジョカル、サラ・ラム、フェデリコ・ボネリらの怪我により、同じ作品ながら今回はファースト・キャスト(ゲネプロ撮影キャスト)の配役がだいぶ様変わりすることになった。

3月11日はピンクを崔由姫(コジョカルの代役)、モーヴをローレン・カスバートソン、アプリコットにラウラ・モレーラ、グリーンの女性をリアン・ベンジャミン、男性をエドワード・ワトソン、ブルーの女性にサマンサ・レイン(サラ・ラムの代役)、男性にヨハネス・ステパネク(ホセ・マルティンの代役)、ブラウンをヨハン・コボー、パープルをベネット・ガートサイト、ブリックをセルゲイ・ポルーニンが踊った。

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 10人のダンサーの中で私の目を奪ったのはエドワード・ワトソンとローレン・カスバートソンである。2人の類稀なる音楽性と至芸が可能にするショパンの流麗なピアノ曲の視覚化ともいえるソロとデュエットには、ただただ酔わされるばかりであった。

 現在ロイヤルきっての演技派男性プリンシパルとして知られるワトソンだが、踊り手としての彼が最も他の追従を許さぬ魅力を発揮するのは、バランシン(やロビンスのこの作品)に代表される音楽の視覚化をテーマにしたアブストラクト・バレエを踊った時である。男性離れした柔軟な肢体を存分に使いきって音楽と戯れ同化するワトソンの芸術は、観客の目に何と美しく映ることか。
またピンクを踊り、フレッシュにして愛らしい個性で観客にコジョカル不在を忘れさせ、作品を見事に引き締めたのは崔由姫であった。

 シーズン初めから多数のプリンシパルの怪我による降板に泣いたロイヤル・バレエだが、数々の降板劇は結果として若く才能あふれるダンサーに多くの活躍の場を与え、彼らを大きく羽ばたかせて、バレエ団を活性化させた。
首の怪我と手術により長期降板していたアリーナ・コジョカルも、近々コヴェント・ガーデンの舞台に戻ってくるという。プリンシパルと若手のさらなる活躍が期待されるロイヤル・バレエの今後に注目したい。
(2009年3月11日ロイヤル・オペラ・ハウスの初日舞台を鑑賞。3月10日の最終ドレス・リハーサルを撮影)

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