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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.11.10]

ロイヤル・バレエ団、ヌニェズとソアーレスの『白鳥の湖』

 10月4日、ロイヤル・バレエの08・09バレエ・シーズンが、その幕を開けた。演目は『白鳥の湖』。初日を主演したのはマリネラ・ヌニェズとティアゴ・ソアーレス。
キャラクター色の強いソアーレスがシーズン初日に、ジークフリート役を踊ることに首をかしげた批評家も少なくはなかったが、現在同バレエ団が最も世界的に売り出したいペアなのであろう。

 写真家と一部の関係者のみが集まった非公開のゲネプロが行われたのは10月1日。
ソアーレスは1幕の登場シーンよりノーブルで、マイムや立ち振る舞いも男性的で包容力にあふれ、演技と所作においてはこの役を踊る準備が充分できていた ことを印象付けたが、英国五大新聞とダンス雑誌の批評家がプレス席に揃ったシーズン初日の10月4日は、1・2幕にやや緊張が見られた。

Photo/Angela Kase

 一方ヌニェズは2幕の登場の場より女王としての気高さと我が身の悲哀を物語り、演劇性を重視する英国の批評家たちに巧みにアピールしてみせた。
残念だったのは、ヌニェズが身体に塗った白いドーランが湖畔のアーダージオを踊るうちに、ジークフリート役ソアーレスの横顔や軍服の胸にベッタリとついてしまうハプニングがあったことか。 
ロマンティックな湖畔の場面の終わりで、ロットバルトの呪いによって引き離され、舞台上手に消えたオデットを想い片手を差し伸べるエンディングで、王子ジークフリートを演じるソアーレスの右の横顔が、まるでピエロのように真っ白になってしまっていた。

 初日の公演が盛り上がりを見せたのは3幕からであった。
ヌネェズはロットバルト役のソーンダースと舞踏会に登場直後より華やかな雰囲気で舞台を支配し、またここぞとばかりに持てる舞踊技術を発揮。アラベスク とグラン・セゴンドでのバランスで微動だにしない強さを見せ、観客を沸かせた他、グラン・フェッテでもダブルやトリプルを披露し炎と化した。
その後は上り調子で、4幕の悲しみと絶望の表現には南米出身の踊り手の二人ならではの雄弁さがあったし、ロットバルトとの闘いにも観客に手に汗握らせる臨場感があった。

『白鳥の湖』のペア・デビューとしては合格点に達していたとはいえ、ソアーレスについていえば、足のポジションや脚のラインに古典バレエの王子ダンサーに必須である理想的なラインが見られない。
また見せ場である3幕のグラン・パ・ド・ドゥのソロにおいてもダンスール・ノーブルらしいエレガンスで観客を酔わせることができないばかりか、それに代わる超絶技巧をも持たないことが、英国ロイヤル・バレエ団のシーズン初日を飾るダンサーとしては淋しかった。

 ヌニェズは演技に所作にダンス・テクニックに、持てるすべてをふるったにもかかわらず、思ったほど強く心に響かなかった彼女の個性には『白鳥の湖』のような悲劇的作品よりも、『リーズの結婚』のような明るいバレエのほうが似合うのであろう。

Photo/Angela Kase

 日本出身のダンサーたちは、新シーズンも作品の要所で活躍を続けている。
『白鳥の湖』初日では、1幕の重要な見所の一つであるパ・ド・トロワに崔由姫が抜擢され、エレガントなアームスやポアント使いと音楽性を振るい、共演者で あるホセ・マルティンやローレン・カスバートソンらと共に、シーズン初日を華麗に彩った。ほかに3幕の宮廷大舞踏会で、小林ひかるが6人の花嫁候補の一人 を、平野亮一がマズルカの一人を踊った。
今年ローザンヌ・コンクールで日本人として唯一受賞し、ロイヤル・バレエに研修に来ている高田茜も、既にコール・ド・バレエの一員として研鑽を重ねている。
また蔵健太は1日のゲネプロで3幕のスペインの踊りの出演。男の色気と存在感を十二分に発揮し、大きな光を放っていたが、4日の初日は軽い故障のため降板を余儀なくされ残念であった。

 同バレエ団ではシーズン開始前から怪我人が相次ぎ、シーズン開幕時にロホ、コジョカル、ラム、マクッレーら人気ダンサーが怪我で降板。開幕前後に 多くの配役変更がなされファンや関係者を大いに嘆かせた。コジョカル、ラム、マックレーの3人については、年内の舞台復帰がほぼ絶望視されている。

 一方、産休中のゼナイダ・ヤノースキーは10月12日に無事第一子を出産。人気オペラ歌手の夫サイモン・キンリーサイドとの間に生まれた男の子はオーウェンと名付けられたという。
(撮影2008年10月1日 舞台は10月4日の初日を鑑賞)

Photo/Angela Kase