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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.06.10]

ロイヤル・バレエ『真夏の夜の夢』

 『真夏の夜の夢』といえば巨匠アシュトン卿が、シェイクスピアの戯曲を独自の舞踊スタイルと英国的ユーモアのセンス、そして視覚的な「美」にこだわりバレエ化したもの。
 暗い夜の森に妖精王オベロンとその妃タイターニア、妃のお付きの妖精たち、2組の人間のカップル、彼らに間違って惚れ薬を振りかけてしまういたずら者の妖精パックが登場。
 デイヴィッド・ウォーカーによる幻想的なデザイン、美しい衣装に、女性コーラス付のこの作品は、初演以来イギリスのバレエファンにこよなく愛されてい る。初演はアントワネット・シブレーとアントニー・ダウエルで、この作品が、後に有名となるパートナー・シップの発端であったといわれている。
 これまでにバレエ団の日本公演で披露されたほか、東京バレエ団も上演しているので、日本の皆さんも良くご存知のことであろう。
 初演のシブレー、ダウエルの他、90年代はサラ・ウィルドーとブルース・サンソム、ヴィヴィアナ・デュランテとウィリアム・トレヴィット組など、日本でも高い人気を誇ったダンサーたちがこのバレエを主演していた。

ベンジャミン、ハウエルズ ハウエルズ


 今年4~5月にかけてバレエ団では、多くのダンサーが怪我に倒れ、そのため『真夏の夜の夢』もキャスト変更が相次いだ。日本で昨年コボーの代役でオベロ ンを踊り、イギリスより一足早く同役デビューを飾ったスティーヴン・マックレーも、怪我のためコベントガーデンでの主演のチャンスをのがしてしまった。
 5月21日は、現在このバレエを踊らせてヨーロッパ最高のペアであるコジョカルとコボー主演のはずが、コジョカルの降板によりロベルタ・マルケスとヨハン・コボーに変更となった。
 マルケスは小さな身体に似合わぬ成熟した大人の女のコケットリーで、妖精の女王タイターニアを踊り、要所で得意のポアントでのバランスを披露。
 コボーは大小の跳躍も優雅かつ芸術性たっぷりにまとめ、流麗な腕使いと目にもとまらぬ旋回技を見せたほか、オベロン役に重要な目と目線使いも魅力たっぷ り。北欧人の彼ならではのやや神経質で時に周囲を冷ややかにナルシスティックに見渡す様子は、驕慢な妖精王オベロンに実によく似合うのであった。
 またパックに扮したポール・ケイも素晴らしかった。大きな跳躍で何度も夜の森に空高く浮かび上がってみせたが、ケイの素晴らしさは決してその技巧にあるのではない。作品の中の自分の役や立場をよく理解する舞台人としてのカンの良さと、品性の良さ、自然な演技にある。
 『田園の出来事』でもそうであったが、この日も主役(のコボー)をきちんと立てながら、自分の魅力を存分に振るってみせるので、観客は皆この好感度あふれる若者に魅了されてしまうのである。
 またこの日は、主要な妖精4人のうち3人を小林ひかる、べサニー・キーティング、崔由姫の技に容姿に優れたバレリーナが踊り「お楽しみ」が多かった。

ベンジャミン、ワトソン ストイコ


 28日は、怪我で降板のマックレーに代わってイヴァン・プートロフがオベロンを踊った。タイターニアは21日と同じくマルケス。パックはマイケル・ストイコであった。
 マルケスとプートロフの2人は、共に小柄で幼く見える容姿が妖精役に非常によく合い、まるでアーサー・ラッカムの妖精絵本の中から抜け出したかのようであった。
 この日は2組の恋人たちのハーミアを美貌のシンディ・ジョーダン、ライザンダーをルーパート・ペネファーザー、ヘレナをローラ・マクロッホ、ディメトリ ウスをヨハネス・ステパネクが踊った。4人皆演技が巧みで、恋人たちの喧嘩から仲直り、結婚までを、実に鮮やかに演じ、踊り、主役・準主役が拮抗すること で作品に豊かなふくらみを持たせた。
 ジョーダンとペネファーザーという長身の人間ぺア、マルケスとプートロフの小さく儚いながら摩訶不思議な力と魅力を持つ妖精ペアという視覚的な対比もまた興味深かった。
 オベロンとタイターニアのデュエットには難易度の高いリフトや、共に手を握りあってのアラベスクからパンシェのバランス、手を握り合って、あやとりのよ うに体を返す振付など、身体能力の高さや熟練のパートナーリングが必要とされる。主演2度目のプートロフは難しいサポートも無事クリア、ソロでは巧みな旋 回とエレガントな腕使いが印象に残った。
(2008年5月21日、28日ロイヤル・オペラ・ハウス)

『真夏の夜の夢』