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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.05.12]

ロイヤル・バレエ団『女王陛下に捧ぐ』

 オリジナルの『女王陛下に捧ぐ(オマージュ・トゥ・ザ・クィーン)』は、フレデリック・アシュトン卿が、現エリザベス女王の戴冠を祝して1953年に創作したもの。
バレエは「大地」「空気」「火」「水」という4つのエレメントをテーマとする小品からなるが、創作初期のアシュトンは、戴冠式を意識してイギリスを代表 する4人の女王である「エリザベス1世」「アン女王」「ビクトリア女王」「新女王エリザベス2世」をテーマにすることをも考えていたという。

プロローグ プロローグ

この作品は女王陛下に捧げられた作品であると共に、マーゴ・フォンテーンを頂点として、ベリル・グレイら個性あふれる美しいバレリーナを数多く有した当 時のロイヤル・バレエが、バレエ団の女王たちをロイヤル・ファミリーや観客に披露する作品でもあった。だが5年後の58年を最後に、上演されることなく長 い眠りについていたのである。

「地」
  バレエ団は2年前、創立75周年記念シーズンに作品のリバイバル上演を考えたが、現存するダンサーをくまなくあたっても振付を覚えている踊り手が殆ど 残っておらず、「空気」を除いて復元が不可能とわかった。その後、「大地」「水」「火」のセクションをロイヤル・バレエ・スクール卒でバレエ団に在籍した 過去を持つ世界的振付家デイヴィッド・ビントリー、マイケル・コーダー、クリストファー・ウィールドンに依頼した。そして、当時の時代がかった雰囲気はそ のままだが、飛躍的に技術が向上した主役男性による魅力的なソロも存分に楽しめるオムニバス・バレエが出来上がった。

今回の再演では初日の「大地の女王」にリアン・ベンジャミン、その配偶者である「大地のコンソート」にボネッリ、「水の女王」を吉田都、「水のコンソー ト」をフリストフ、「火の女王」にサラ・ラム、「火のコンソート」をエリック・アンダーウッド、4つのエレメントを統べる大役である「火の精」を蔵健太、 「空気の女王」をアンサネッリ、「空気のコンソート」をマカテリが踊った。

「地」小林、佐々木
  初日4月23日は、イングランドの守護聖人、聖ジョージの日。この作品のリバイバルにふさわしい日の夜、4人の女王の中で最も輝いていたのは大英帝国勲 章受勲の吉田都であった。流れるようなアームス、正確無比にして美しいポアント使いと、エレガントな女性としての佇まいは他を圧倒し、バレリーナ吉田が君 臨する場の高さを、観客や関係者に深く印象付けた。
男性では怪我からの復帰以来、よりパワーアップしたボネッリが、22日に「コベント・ガーデン友の会」会員を招待して行われた最終ドレス・リハーサルと初日に「大地のコンソート」を踊り、存在感と持てる技量をあまねく披露し、観客を熱狂させた。

「火」ラム、アンダーウッド
  主演バレリーナについていうと翌24日の配役は初日を凌ぐ豪華さで、まるで女王陛下ご臨席のガラ公演を観ているかのようであった。
「大地」をガリアッツィ、「大地のコンソート」をマーティン・ハーヴェイ、「水」を吉田とフリストフ、「火」をヌニェズとソアーレス、「空気」をロホと ペネファーザーが踊ったのである。吉田と共に、ヌニェズとロホが美しさと技巧、スター性を存分に発揮してみせた何とも豪奢な一夜であった。
「火の女王」で見せるヌニェズの妖艶、「空気の女王」を踊るロホのパ・ド・ブレで舞台を渡るだけで観る者をうっとりさせる甘やかで優雅な魅力と煌く技 巧、ロホを支え最終章を優雅に締めくくったペネファーザーのロイヤルのダンスール・ノーブルらしい節度あるエレガンスが、観客を大いに酔わせたのである。

蔵健太は06年の復刻版世界初演時にスティーブン・マックレーが踊った「火の精」に挑戦。様々な跳躍技を立て続けに披露する技巧派ダンサーのための難役 で、出演ダンサーの中心に君臨する。中性的できらびやかな技巧を披露するマックレーに対して、蔵は天賦の音楽性を奮うと共に、マクレーが表現することのな かった「全エレメントを統率する者としての包容力と威厳」を見せ、興味深かった。
吉田、蔵以外の日本出身ダンサーに目を向けると、小林ひかると佐々木陽平が「大地のパ・ド・シス」、崔由姫が「火のパ・ド・カトル」で両日出演。昔から英国紳士を彷彿とさせるノービリティー(品性の良さ)を見せる佐々木には、是非コンソートも踊ってほしい。

「火」サラ・ラム 「火」サラ・ラム 「火」ラム、アンダーウッド
「火」蔵健太 「火」蔵健太 「空気」アンサネッリ、マカテリ
「空気」アンサネッリ、マカテリ 「水」フリストフ 「水」吉田、フリストフ
「地」ボネリ 「地」ボネリ

フィナーレ 吉田都(中央)
  『セレナーデ』のカスバートソン、『ラッシュズ』のコジョカル、『女王陛下に捧ぐ』の吉田、ベンジャミン、ボネッリ、フリストフ、ヌニェズ、2作品に個 性を際立たせたロホとペネファーザー。吉田やベンジャミンといったベテランと共に、バレエ団では新しいスターが生まれ、次々と頭角を現している。夏の日本 公演の充実が充分予想される今日この頃である。
(2008年4月23、24日 ロイヤル・オペラ・ハウスにて鑑賞 22日最終ドレス・リハーサル撮影)
※お詫び
文中、「水」と「空気」の記載が一部間違っておりましたので修正いたしました。読者のみなさまにはご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。(08.6.2)