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アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase 
[2008.01.10]

バーミンガム・ロイヤル・バレエの平田桃子がクララ、デビュー

9月下旬にシーズンを開幕、10月にロンドン公演を行ったバーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)は、その後『エドワード2世』(11月でご紹介) を持って、英国地方公演を行った。地方公演では、女性主役を踊っていたエイリスの故障により、2001年のローザンヌ・コンクールからロイヤル・バレエ・ スクールに留学後、03年にバレエ団に入団した平田桃子が難役イザベラに挑戦、デビューしたという。

13年ぶりの日本公演に先立つ11、12月は、本拠地バーミンガム市ヒポドローム劇場で、ピーター・ライト卿によるBRB版『くるみ割り人形』を上演した。
11月30日の初日は、バレエ団最高の古典ペアである佐久間奈緒と曹馳が、金平糖の精と王子、キャロル・アン・ミラーがクララを主演した。
12月2日、イザベラ役を征服して好調の波に乗る平田桃子のクララ役デビューを観るために、一路バーミンガムに向かった。

ピーター・ライト卿のバレエ作品群といえば、『白鳥の湖』『ジゼル』『コッペリア』などどれも物語仕立てが非常にしっかりしており、幼い観客にも非常に分かりやすく、演出もまた巧みで魅力的なことで知られている。
ライト卿によるBRB版『くるみ割り人形」では、クララの母は元バレリーナ、クララは将来母のようなバレリーナになることを夢見ているバレエ学校の生 徒、という設定である。1幕のパーティーの場面で母が踊りを披露するのは、有名バレリーナであった昔を知るパーティー客に請われて踊るのであり、クララは また自宅のクリスマス・パーティーに招待されたバレエ学校の同級生たちと共に踊る。

当日の1幕の主な配役は、クララを平田桃子、クララの母に美貌のアンドレア・トレディニック、マジシャンという設定のドロッセルマイヤーにドミニク・ア ントヌッチ、クララと踊る相手役に03年のローザンヌ賞受賞者で入団2年目にしてソリストに昇進したジョセフ・ケイリー、ユーモア溢れる踊りを披露するク ララの祖父役にバレエ団の往年のダンサー、マイケル・オヘア(ケヴィン・オオヘアの兄)が扮した。

クララとくるみ割り人形 王子登場 ドロッセルマイヤー

  平田とケイリーは10代の少年少女役が殊の外似合いで、確かな舞踊技術と青春を謳歌するフレッシュな魅力をふりまき満場の観客を魅了。平田はド ロッセルマイヤーから、くるみ割り人形をもらい大きな部屋を移動する足の運び(パ・ド・ブレ)もまるで氷上を滑るように優雅で、まさに満を持したクララ役 デビューであった。

多数の兵隊を率い、ねずみの王様とねずみ軍と果敢に戦う、くるみ割り人形には休団から久しぶりに復帰した人気ダンサー、山本康介が扮し、包容力とシャープな技巧を披露した。

王子役は、10月の『エドワード2世』(11月号でご紹介)のタイトル・ロールで、その独自の役作りを見せたジェイミー・ボンドが扮した。20代初めで ありながら、非常な役者であるボンドは王子役を踊るのも容姿の良さに頼らない。少女クララを見つめる眼差し、傾けた首のラインには優しさがあふれ、クララ を踊りに誘うアームスの指先、ステップをつむぐつま先に見られる所作が何とも優美で、世界の婦女子が夢見る心優しい王子様を、演技力と所作といった容姿以 外の技量で見事に体現。この作品においても「演技力に秀でた王子役ダンサー」としての稀有な才能をエレガントに証明して見せたのである。クララ役の平田と は身体的なバランスも良く、舞台栄えするペアであった。

女性群舞だけが優美に踊るロイヤル・バレエ版とはちがい、BRB版の「雪の国」の場面では、「雪の精」に導かれ踊る女性の「粉雪」の群舞と共に、「風」 の男性群舞4人も活躍する。長身で手足の長い男性4人が美しいラインのグラン・ジュテをつむぎ、女性の粉雪たちを華麗に舞わせるのである。

「雪の精」のキャロル・アン・ミラーが華やかな跳躍技を披露するのに触発されたのであろうか? ソリストのジョゼフ・ケイリーと共に03年のローザンヌ・ コンクールに出場、翌年ソウル国際コンクールで金賞を受賞したBRBの風雲児アーロン・ロビンソン(入団3年目)が、他の男性群舞3人の倍以上はあるかと 思われる一際高いグラン・ジュテを見せ、ヒポドローム劇場に集まった老若男女の目を奪った。

クララ
  2幕の冒頭、平田が大きな白鳥に乗って三日月輝く凍てついた冬の夜空を宙乗りで現れると、ファンタジーに満ちた演出に満場の観客から感嘆の声が上がった。
2幕の各国の踊りでは「アラビアの踊り」の男性3人のうち一人を入団2年目の厚地康雄が踊った。長身で容姿に恵まれた厚地は白人並みのプロポーションの持ち主で、欧米人ダンサーの間にあっても全く違和感がない。
「ロシアの踊り」をジェイムス・バートン、フェアガス・キャンベル、キット・ホルダーというバレエ団きっての明るい個性の男性たちが、はじける技巧で観客 を大いに楽しませてくれた他、ジョゼフ・ケイリーが「中国の踊り」に再登場。コミカルに踊り、表現力のあるところを観客や関係者に印象付けた。

BRB版のクララは、これら「各国の踊り」のダンサーたちと共に踊る、活躍の場の多い大役である。平田は1・2幕を通じて始終落ち着いており、主役オー ラにあふれる堂々の主演ぶり。特に「葦笛の踊り」の4人を率いて笛を持って踊る場面の、音楽性あふれるフットワークや、腕の運び(ポール・ド・ブラ)など に、実力と冴えた優美さを見せた。

アラビアの踊り」 中国の踊り
スペインの踊り ロシアの踊り
葦笛の踊り 花のワルツ 花のワルツ
グラン・パ・ド・ドゥ
  そのクララが魔法使いドロッセルマイヤーの力で、念願の主演バレリーナに変身して踊るという設定の「金平糖の精」には、今シーズン初めにロイヤル・バレ エ団から移籍したばかりのナターシャ・オートレッドが扮した。古巣ではクララを演じていたアーティストである。オートレッドは、当日の観客席で大きな瞳を 輝かせて食い入るように舞台を見つめる子供たちを、包み込むような慈愛とあふれる人間性を見せ、大いに好感が持てる。
一方相手役のジェイミー・ボンドは、跳躍の一つ一つをバレエの基本であるプリエを充分に使い切ってきちんと着地、マネージュの腕の使いが何ともエレガントで、古典バレエの主演ダンサーに最も大切なステージ・マナーに秀でていた。
この2人は今回が初顔合わせであり、ゲネプロ撮影時はリフトやパートナーリングにやや問題が見られたが、本番舞台では難解なリフトやパートナーリングも見事にクリアし、将来が楽しみな組み合わせである。

王子 グラン・パ・ド・ドゥ グラン・パ・ド・ドゥ

現在のBRBは、佐久間奈緒と曹馳を中心に、アントヌッチ、トレドニック、ヴァロなどの実力派、山本康介やオートレッドのような優れた技巧と人間味あふ れる魅力的なダンサー、イアン・マッケイやボンドのような自国出身の王子ダンサーをはじめ、平田やケイリー、ロビンソン、ロイヤル・バレエで活躍するス ティーブン・マクラエと同年ローザンヌ・コンクール出場のアレクサンダー・キャンベル、入団2年目にして活躍し始めているトリニダット出身のセリーヌ・ギ デンズや厚地など若い才能も多数ひしめく、非常に充実したバレエ団である。
ライト卿やビントレーによる優れた演目とダンサーの魅力については、この記事が出る頃には、すでに日本のバレエ・ファンの皆様にも大いに納得して頂いていることであろう。
(※写真撮影日と鑑賞日のキャストが一部異なります)