アコスタは、ロンドン公演を前にボリショイの本拠地、モスクワで既に踊っている。素晴らしい舞台だったようだ。ロンドンでも、アコスタとボリショイのダ ンサーたちとの踊りの違いは顕著だったものの、アコスタは彼の『スパルタカス』を創り上げたとの高い評価を贈られていた。 公演前に出たインタヴュー記事によると、ウィールドンとボリショイのダンサーたちとの創作過程は、「Agony(懊悩)」の一言に尽きると。まず、ボリ ショイのダンサーが持つ動きと彼がダンサーに望む動きが全くの両極端にあったこと。この創作過程は、バレエ・ボーイズの二人、ウィリアム・トレヴィットと マイケル・ナンの二人によってビデオ収録されていた(イギリスでの放映は今年12月の予定)。あるとき、ウィールドンが何度説明しても、彼が望むリフトを ダンサーたちが掴めないままでいたとき、ナンがカメラを置いて、リフトを実際にやって見せて漸く前に進むことが出来たとか。 一度コミュニケーションが出来上がれば、ダンサーの理解は早かったそうだ。が、さらに別の障害が。それは、かつて、ダンサーとして輝かしい踊りを舞台で 披露していた、ボリショイ・バレエの教師陣。ダンサーたちがウィールドンの動きを習得するそばで、「You don’t look nice doing this, that movement is too sexual, it’s not classical enough, the costume is wrong」、と。あるときウィールドンはダンサーたちにこう言わなければならなかったそうだ。 「信じて欲しい。僕は君たちを醜くみせることはしない」。 こうして出来上がった『Elsinore』。ハムレットにインスパイアされた、プロットレスの25分の一幕もの。老獪なイギリスのバレエ評論家もどのよ うに評価するか明確には出来なかったようだ。面白い指摘だったのは、ボリショイのダンサーたちが、ウィールドンの「アシンメトリ」な動きを彼らのものにす るにはもう少し時間がかかるだろう、という点。 公演が成功に終わったからであろう、ボリショイ・バレエを率いるアレクセイ・ラトマンスキー芸術監督の方針に疑問を示す報道はなかった。が、彼の契約は 2008年の夏まで。契約を延長するかはいまだに発表されておらず、ボリショイ・バレエが長期安定にはいるかどうかは、彼の去就次第のように思う。
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