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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.04.10]

ミックス・プログラム(ロイヤル・バレエ)

 今シーズンのロイヤル・バレエのプログラムで目を引くのは、バランシーンの作品の多さと、ロイヤル・ バレエのために振付けられる新作の多さだ。3月5日に始まったミックス・プログラムは、『アポロ』とカンパニー初演となった『テーマとヴァリエイション ズ』のバランシーン2作品が、アラステア・マリオットの『チルドレン・オブ・アダム』(世界初演)をはさむ構成だった。

『チルドレン・オブ・アダム』
 ロイヤル・バレエのプリンシパル・キャラクター・アーティストであるマリオットにとって、メイン・ステージで 2作目となるこの作品は、アメリカの詩人、ウォルト・ホゥィットマンのいくつかの作品から着想を得たとのこと。マリオットにとっては初めての「ナラティ ヴ・バレエ」になり、音楽はクリストファー・ローズ(Christopher Rouse)、セット・デザインはアダム・ウィルッシャー(Adam Wiltshire)が手掛けた。


ベンジャミン、ステパネク

マックレー、ステパネク

ステパネク、マックレー、
ベンジャミン

一組の男女が幸福そうに踊っていると、眠りから覚めた男の弟がそこに割って入ってくる。どうやら、兄弟で同じ女性を好いてしまっている。女性(リアン・ ベンジャミン)は兄(ヨハネス・ステパネク)を好いているが、弟(スティーヴン・マックレー)には恐れを抱いているよう。
一見してすぐ、弟は身体的にも精神的にも何かしらの弱さを示している。それによって、周囲の人々からも疎まれている様子。再び兄と若い女性の前に現れる 弟。何かの衝動に突き動かされ、弟は兄を殺めてしまう。すべてから見放され後悔の念に苛まれる弟の前に兄の亡霊が現れ、二人で踊り始める。踊り終わったあ と、兄は弟を許す。



マックレー、ベンジャミン

マックレー、ベンジャミン

 物語は、立場は逆だが、聖書の「カインとアベル」の物語を想起させるであろう。また、性の衝動も重要なポイン トとして盛り込まれている。何人かの批評家は、この時代に「物語バレエ」にあえて取り組んだマリオットの勇気を称えてはいた。更に言えば、最後の弟と兄に よるパ・ド・ドゥは美しく形づくられていた。
が、これがすぐに再演される、更に多くの観客にすんなりと受け入れられる作品である、とは即座には言いがたい。振付全体を通して、そこかしこにケネス・ マクミランの影が見えてしまう。やはり兄弟間の不安定な心理描写を扱ったマクミランの『マイ・ブラザー、マイ・シスターズ』の場面が蘇り、そのイメージが 舞台で進む物語を凌駕してしまった。マクミランは間接的な表現で、舞台上に鮮明な心理的確執を再現した。マリオットは、直接的な表現を多用することによ り、物語の輪郭をぼやけさせてしまった。一例をあげると、性の衝動を表現するのに、股間を押さえる、というのは安易すぎないだろうか。マリオット自身がど こまでマクミランの影響について意識しているのかは判らないが、次回作へのプレッシャーは相当なものになるのではないかと想像する。
 なんとも形容しがたい作品にもかかわらず、物語バレエの伝統が深く流れるロイヤル・バレエのダンサーたちの踊りの水準は高かった。主役3人は、それぞれ の役への理解はとりわけ深かったように思う。日ごろメイン・ロールを踊ることが少ないステパネクの柔らかな動きと、マックレーのシャープな動きが合わさる 場面は、強く印象に残った。

『チルドレン・オブ・アダム』

ステパネク、マックレー

(センター)リアン・ベンジャミン

『チルドレン・オブ・アダム』

『アポロ』、『テーマとヴァリエイションズ』

『アポロ』
カルロス・アコスタ
『ア ポロ』が前回上演されたのは、2003年4月の「ヌレエフ追悼」のプログラムでだった。今回の初日の主要キャストは、そのときと全く同じで、カルロス・ア コスタ、ダーシー・バッセル、マリアネラ・ヌニェス、マーラ・ガレアッツィのプリンシパル・ダンサー4人。前回、自分がどんな印象を持ったか記録を読んで みると、今回と全く同じで、アコスタとバッセルの洗練された存在感に強く感銘を受けていた。ヌニェスとガレアッツィが悪いというのではなく、むしろバッセ ルとアコスタのこれまでの経験が美しいフォームで舞台上に表現されていたといったところだ。



マリアネラ・ヌニェス

『アポロ』
マリアネラ・ヌニェス


バッセル、アコスタ


 
『アポロ』
  ガレアッツィ、バッセル、ヌニェス 

1947年にバランシーンが創作した『テーマとヴァリエイションズ』がロイヤル・バレエのレパートリーにこれまで入っていなかったのは、意外だった。ネオ・クラシカルのチュチュ・バレエのお手本ともいえるような振付で、どうしてこれまでロイヤルが取り入れなかったのか。
初日、プリンシパル・ロールを踊ったのは、アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーのカップル。コジョカルは重力を感じさせない軽やかなジャンプ、目にも とまらない細かい足の動きに全く無駄がなく、まるで美術品そのもの。漸く、数ヶ月ぶりに舞台に戻ってきたコボーも、ブランクを感じさせず、自身の踊りと パートナリング双方で、良い動きだった。この二人が舞台に一緒にいると、それだけで舞台を観る幸福感が高まる。


アンサネッリ、カスバートソン、
チャップマン、モレーラ

『テーマとヴァリエイションズ』
アリーナ・コジョカル


コジョカル、コボー


『テーマとヴァリエイションズ』