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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.04.10]

ウィリアム・タケットの2作品

2006年から今年にかけて、ウィリアム・タケットはかなり多忙だ。年末・年始、ロイヤル・オペラ・ハウスの リンベリー・スタジオ・シアターで『The Wind in the Willows』の再演、ロイヤル・バレエへの新作『七つの大罪』(4月)、ROH2プログラムの新作である、スティーヴン・ソンドハイム作の『Into the Woods』の演出、また芝居への進出も予定されている。そんな中、3月上旬に、タケットの二つの旧作を見た。一つは、リンベリーでの『タイムコー ド』(2005年作)、もう一つは、サドラーズ・ウェルズ劇場で、イングリッシュ・ナショナル・バレエによる『カンタヴィルの幽霊』(2006年作)。
両作品に共通するのは、最近のタケットの振付では既に定番となっている、ダンサーによる台詞(『タイムコード』)、録音されたナレーション(『カンタ ヴィルの幽霊』)と、純粋に踊りだけではない点だ。また、双方とも「家族向け」ということが強調されてはいたが、『タイムコード』はより実験的、『カンタ ヴィルの幽霊』のほうは娯楽作品としてかなりの水準にあったように思う。
 

  『タイムコード』は、ROH2プログラムの一環である「教育」の目的にあわせて創作された作品のようで、舞台を初めて観る子供たちに、間近でダンサーがど う踊るのかが判るようにかなりシンプルな振付だった。ただ、時間の矛盾を題材にした台詞は、小学生くらいの子供たちが舞台を目で追いながら理解するには、 ちょっと詰め込みすぎていたようだ。付け加えるなら、英語を母国語としない日本人にもかなり厳しかった。途中、台詞を追うのを諦めた。
ダンサーはロイヤル・バレエのコール・ドから4人、更に主役の科学者は舞台俳優が演じた。45分の舞台が終わると、客席にいたタケット、舞台上のダン サーやミュージシャンが子供たちからの質問に答える時間が設けられていた。観るだけでなく、子供たちがパフォーミング・アーツに興味を抱くきっかけになれ ば、という趣旨が見て取れた。

『タイムコード』


オスカー・ワイルドの同名の物語を題材に、新たにマイケル・ウェストが書き下ろした脚本を元にした『カンタ ヴィルの幽霊』は、バレエ・カンパニーへの全幕作品ということで、実験色は殆ど感じられなかった。不満に感じたのは、「バレエ」作品として振付の出来はか なりいいものだったので、ナレーションを入れる必要が本当にあったのかどうか、ということ。全幕物で頻繁にナレーションが入ってしまうと、舞台への集中力 が削がれてしまう。どうやら、タケットの考えでは、作品の流れを理解してもらうためにナレーションがあったほうがいいのでは、とのこと。しかしながら、観 客が舞台から刺激されて次第に想像を働かせ、よりいっそう舞台に親近感を覚える、というのも「物語バレエ」に重要な点だと思う。
その点を除けば、家族が楽しめる舞台だった。振付に超絶技巧はほとんどなかったが、場面ごとの振付一つ一つに 意味を見出すことができる判り易いものだった。舞台全体からは、「これはイギリスでしか創られないバレエ」と感じた。一方で、全体の雰囲気から、何とはな しに漫画家の坂田靖子の代表作としてあげられることの多い、『バジル氏の優雅な生活』を連想した。「イギリス」という国に好意的なイメージを抱くバレエ・ ファンにはすんなりと受け入れられるバレエかもしれない。
プログラムの中で、タケットは、アシュトンへの想いを語っている。歳を重ねるにつれ、「物語バレエ」を創作するにあたって、彼自身がアシュトンのスタイ ルにどれほど惹かれているかが鮮明になってきているそうだ。彼の創作意欲が「バレエ」にとどまるのか、それとも広範な分野にわたるのかはこれからの評価次 第だろう。彼が初めてみたバレエ作品は、アシュトンの『リーズの結婚』とのこと。ならば、イギリスらしい、ナレーションがなく、身構える必要のないバレエ を、タケットが近いうちに創作することを期待する。