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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.04.10]

ロイヤル・バレエ、モニカ・メイソン監督インタビュー

  カンパニー創設75周年を祝う2シーズンが終了するまであと数ヶ月というところで、ロイヤル・バレエのモニカ・メイソン監督に単独でインタビューすること が出来た(2月22日)。部外者の想像を超える、文字通り「分刻み」の多忙なスケジュールの合間をぬって伺ったなかで、ロイヤル・バレエのファンのみなら ず、バレエに興味がある多くの読者が惹きこまれるであろう、監督自身のとても貴重な経験も語っていただいた。
さらに、先ごろ発表になったばかりの日本公演(2008年7月)についての想いも伺うことが出来た。筆者自身、何度も話に惹きこまれた。印象に残ったの は、メイソン監督が抱いているカンパニー、ダンサー、観客、そしてバレエへの尽きることのない情熱。今回は、インタビューの流れのままに構成した(インタ ビュー、翻訳とも筆者。またインタビュー文の中では一部を除き敬称略)。



メイソン監督

メイソン監督とロイヤル・オペラの監督
アントニオ・パッパーノ

----05/06、06/07と2シーズンにわたるロイヤル・バレエ創設75周年を祝うシーズンが終わりに近づいています。監督自身、カンパニーはどのようなことを成し遂げたと思われますか。

『眠れる森の美女』
 昨シーズン、とても嬉しく思ったのは、いくつかの新しい作品をカンパニーのレパートリーに加えることが出来たこと。そして、カンパニーにとってたいへん重要な75周年を迎えることが出来たことね。
私自身にとって刺激になったのは、カンパニーの歴史を振り返る過程で、レパートリーを再考することだったわ。とりわけ大きな挑戦だったのは、『眠れる森 の美女』を新たに制作したこと。私にとっては新しいプロダクションを創造することは初めての経験だったので、自分がこのプロダクションを完成させられる、 ということをいつも自分に言い聞かせていたのよ。


『眠れる森の美女』
アリーナ・コジョカル(オーロラ)

『眠れる森の美女』
コジョカル、コボー

----それは、「監督」として初めて、ということですか。
いいえ、私のキャリアの中で初めての経験だったの。
  クリストファー・ニュートンの助けは大きかったわ。彼のことは、私がロイヤル・バレエに入団した49年前から知っているし。彼の記憶はいつも鮮明で、いつ もこの作品についてのしっかりしたアイデアを持っているの。大きな作品なので、舞台セット、コスチュームを含めて多くのことを決めていかなければならな かったから、少なくとも(上演の)一年前には、準備を始めていたわ。
  加えて、大きな成果として、グレン・テトリーの『月に憑かれたピエロ』をレ パートリーに加えることが出来たこと。素晴らしい作品だし、私が初めてランベールで観て以来、その考えは変わらない。グレンもロイヤル・バレエが『ピエ ロ』を上演することを望んだし、嬉しいことに、彼はリハーサルにも参加できた。結果として昨シーズンは、グレンの80歳の誕生日とカンパニーの75歳の誕 生日を同時に祝うことができたのは本当に嬉しかった。
  今シーズン後半に『ピエロ』の再演が決まっていて、グレンもロンドンにまた来ることを楽しみにしていたの。でも、亡くなってしまって(1月26日に死去)それも叶わなくなってしまったのは、本当に悲しいこと。

『眠れる森の美女』
“ガーランド・ダンス”

----先ほど仰られたように、この2シーズンにいくつか新しく、そして興味深い作品をロイヤル・バレエはレパートリーに取り入れましたね。
グレンの作品もそうだけど、例えばフレミング・フリントの『レッスン』は全く新しいレパートリーね。それと、 ヨハン・コボー(カンパニーのプリンシパル・ダンサー、デンマーク出身)が携わった『ラ・シルフィード』はとても美しい舞台だったわ。ブルノンヴィル・ス タイルは、ロイヤル・バレエにとっては慣れた様式ではないので、大きな挑戦だったのも事実だけど。

『ラ・シルフィード』
タマラ・ロホ、フェデリコ・ボネッリ
 05/06シーズンは、とても忙しいシーズンだった。そして、幸せなシーズンでもあったと言えるかしら。
06/07シーズンは、長い間上演していなかったグレンの『ヴォランタリーズ』を再び舞台に持ってこられたことが印象に残っているわ。私自身、ダンサーたちの踊りは素晴らしかったと思うし、グレンもとても喜んでくれたのよ。
それと、ウェイン・マックグレガーの『Chroma』とクリストファー・ウィールドンの『DGV』の二つの新作は、カンパニーにとってとても大切な演目になったといえるわね。実際、両作品は多くの賞にノミネートされているし。
新作、旧作にとらわれず、すべての作品がカンパニーにとって意味があると思います。ダンサーたちが一生懸命取り組めば、カンパニー全体に自信が漲るのがわかるわ。なされた努力を判って貰えるのは、ダンサーたちにとってはとても大切なこと。
 

『レッスン』
セナイダ・ヤナウスキー

『レッスン』
ヨハン・コボー

----カンパニー、それとダンサーは毎日、何かしら変化していると思われますか?
毎日、とは言い切れないけど、私自身、監督としてカンパニーが何かに挑戦し、触発されるのを見るのは嬉しいこと。ダンサーたちは、アーティストとしてい つもインスパイアされるべきだと思うし、それはとても重要なことだと思います。それが毎日、というのは難しいかもしれないけど、常に自分たちの周りに創造 性と何かしらの刺激を持つことはとても大切だ考えています。でないと、何も変わらないのではないかしら。

----別の質問を。良い、悪いは置いておいて、ロイヤル・バレエはカンパニー内に多文化(Multi Culture)、つまり多国籍のダンサーが多く所属しています。この点についてどのような考えをお持ちですか。
まず一般論として、現在のイギリスでは、多文化について語られる機会が昔と比べるとずっと多いという現実があるわ。それを踏まえた上で言えることは、ロイヤル・バレエは、多国籍のダンサーが所属するという状況に長くあるということ。
私の前に誰かが数えたことがあるかどうかは知らないのだけど、2年前のあるプレス・コンファレンスの前に、私自身が純粋に知りたくて(国籍を)数えたこ とがあるのよ。その時は、国籍の数は25だったの。現在ももし同じ状況ならそれはそれで興味深いことだと思うわ。ただ、この状況はロンドンの多文化を表し ているとも言えるのではないかしら。
私自身、このような状況(ダンサーの多国籍化)をつねに保とうしている訳ではないのよ。単に、現在のカンパニーが、こうあるとしかいえないわね。
微妙なポイントだから、ちょっと付け加えると。監督して常に探しているのは「才能」、そしてカンパニーに合うダンサー。ロイヤル・バレエ・スクールを例 に考えてみましょう。スクール自体、既に国際的に知られているし、多くの生徒が世界中から集まってきています。彼らは、当然のことながら、才能が認められ ている生徒ばかり。そういう、世界中から集まった多くの才能ある生徒たちの中からカンパニーに合う特別な人材を探すということに、国籍はそれほど重要では ないわ。私が知りたいのは、生徒たちがどれだけ素晴らしいトレーニングを受けてきたか、そして、どの生徒、ダンサーがカンパニーに何か特別なものをもたら してくれるのか、ということね。

----そのような状況の中で、過去3年くらいの間に、特にプリンシパル・ダンサーの世代交代が続いているように思います。ロイヤル・バレエの伝統は、どのように受け継がれているのでしょうか。
伝統がどのように受け継がれていくかを実際に見ることは、常に興味深いことね。(ロイヤル・バレエには)どんなときもある世代のダンサーから次の世代の ダンサーへと伝統が受け継がれているわ。私も、私と同世代のダンサーたちに、リハーサルにできるだけたくさん参加してもらって、若い世代を教えてもらえる ようにしています。アントワネット・シブリー、リン・シーモア、デイヴィッド・ウォール、そしてアンソニー・ダウエルのように、アシュトンやマクミランと 共にいて、且つ、彼らの代表作に初演しているダンサーたちが若いダンサーと一緒に舞台を創り上げていくことは、カンパニーにとってとても大切なことです。 更に、アシュトンやマクミランによって振付けられた役を、彼らから直接指導されたダンサーから教えてもらうのは、そのバレエが創作された時の場の雰囲気を 感じることにもなると思います。その場にいなかった人では、そうはいかないでしょう。
私がカンパニーに参加した頃(1958年)のことを思い出すわ。その頃は、ディアギレフ・バレエに参加していたダンサーたちが、私より上の世代のダンサーや私たちを教えにカンパニーに来ていたことがあるのよ。
素晴らしかったわ。純粋に、彼らに触れてみたかった。彼らが、1910年代のパリで、ディアギレフと一緒にいたことを考えると、なんて特別なことだったか。
例えば、タマラ・カサーヴィナがマーゴ(・フォンテイン)に『火の鳥』を教えに来るということを聞いたとき私は思ったの。「世界初演の夜まで、誰も聴い たことがなかったすばらしい音楽にのって、火の鳥を初めて踊ったカサーヴィナがマーゴと一緒にリハーサルをするなんて」。タマラはマーゴに教え、そして、 マーゴが私に『火の鳥』をコーチしたとき、「マーゴは、タマラが彼女に伝えたことを私に教えてくれるに違いない」、と私は感じました。今、私が若いダン サーに『火の鳥』を教えるとき、私は、マーゴが私に教えてくれたことを彼らに伝える。このように続いていくものだと思っています。
大切なのは、貴方の歴史や知識と次の世代とのリンクを、どうやって保っていくか、ということだと思います。
もちろん、「現在」のことも忘れてはならないわ。新しい世代に振付けられる新しいバレエ。振付家と共に役を創り上げたダンサーは、その鮮明な感覚を20 年後の次の世代に語っていくでしょう。とても力強く、ダンサーたちの創造力を刺激するような、初演の夜の興奮を再現するようなこともあるでしょう。

----いちロイヤル・バレエ・ファンとして、今シーズンはアシュトンの作品が少ないことに残念に思いました。レパートリーのバランスを保つということは難しいのでしょうか。
 また一般論から始めると、すべてにバランスをとるのは難しいし、大切なのは、そのバランスが正しいかどうかを見極めること。
アシュトン・イヤーが終わったとき、私は、2シーズンもしくは3シーズンくらいアシュトンの作品を休ませなければと思いました。でも、ダンサーたちには アシュトン・イヤーは素晴らしいシーズンになったようだわ。特に何人かの若いダンサーたちがシーズン終了直後に私にこう言ってきたのよ。「たくさん踊っ て、ようやくアシュトンの巣晴らしさが理解できました」、って。たくさん踊って理解を深めれば、ダンサーたちはもっとうまくなるわ。
これは何もアシュトンに限ったことではなくて、どのような振付にも言えること。今シーズン、私たちはバランシーンの作品を多く取り上げています。という ことは、(アシュトンを踊るときとは)違う人々がカンパニーを訪れダンサーたちを指導することになる。それは、ダンサーたちが何かしらの「特色 (Flavour)」を得る機会でもあるわ。

『アポロ』
ダーシー・バッセル
  現在、パトリシア・ニァリィが私たちと一緒にいて、『アポロ』と『テーマとヴァリエイション』を指導しています。彼女 がいつも熱心にしていることの一つは、ダンサーたちに、リハーサルの場にあたかもバランシーンが彼らと一緒にいるように感じさせることです。彼女はいつ も、バランシーンを部屋にいるようにしているの。「ミスター・バランシーンは、これが嫌いだったわ」、「ミスター・バランシーンはいつもこれを望んでいた のよ」、「これが、ミスター・バランシーンをいつも笑わせていたことなの」、「これが、いつもミスター・バランシーンが見たがっていたことなのよ」。
バランシーンは、パトリシアにとっていつでもヴィヴィッドな存在なの。同じくらい、彼女は私たちの中で、バランシーンがヴィヴィッドな存在であって欲しいのよ。
私がいつも思うことは、常にいろいろな違った作品のバランスを心に留めておこう、ということですね。
レパートリーのバランスという点で、もう一つ考えなければならない事があります。それは、ある振付家と、別の振付家の間にある「違い(leap)」です。時に、ダンサーたちにとってこの違いを理解し、克服するのはとても難しいことです。
ある振付を覚えようとするとき、ダンサーがすべきことは、まず、彼らの身体にその振付を十分に理解させること。それが終わってから、次の振付に取り組む ことが出来ます。でも、このような理想的な状況がいつもあるとは限りません。古典バレエの準備をすると同時に、マクミランの『春の祭典』のリハーサルに参 加することだってあるからです。
例えば、数シーズン前にマッツ・エックの『カルメン』をレパートリーに加えたときのこと。ダンサーたちはすぐに、この振付が要求する動きが、どれだけ身 体的に厳しいかを理解しました。プロフェッショナルなダンサーとして、彼らは自分たちのすべての筋肉がどこにあってどう動かせるかを理解していたと思って いました。ところが、『カルメン』のリハーサルを始めてすぐに、彼らは自分たちが持っていたとは知らなかった筋肉を、この踊りのために使わなければならな いことを理解したのです。当然のことながら、痛みが伴います。そしてその痛みを受け止めなければなりません。そうでなければその振付を自分ものには出来な いからです。
このようなプロセスがいつも上手くいくとは限らないわ。時に監督として、「違い」を克服できないダンサーをキャストから外す決断をしなければならないこともあるのよ。

----今の話を伺って思ったのは、昨晩の「『白鳥の湖』(2月21日)、怪我で出演できなかったダンサーがかなりいたようでしたが。
怪我人はそれほど多くはなかったのよ。ただ、お腹に来る風邪が流行っているみたいで。ほら、ダンサーたちはいつも一緒にいるでしょ、どうもお互いにうつしあっているみたいなのよ。
でもね、これは時季の問題だと思うわ。2月、どんよりした天気、シーズンの折り返し地点。これはパターンね。古典バレエ、モダン、コンテンポラリー、演目の種類には関係なくこの時季はダンサーたちの疲れがたまるタイミングなのかもしれないわ。
こういう状況がいつ起きるかなんて、誰にも予想できないのも事実。時には、シーズン開幕にたくさんの怪我人が出るなんてこともあるわね。難しいのは、プ リンシパル・ロールでけが人が出たりすると、状況が雪ダルマ式に大きくなってしまうこと。実際、昨晩はたくさんのキャスト変更をしなければならなかった わ。

----でも、素晴らしい舞台でしたよ。
  ありがとう。昨晩は別の用件で観ることが出来なかったのだけど、今朝、舞台がとても素晴らしかったと聞いてとても嬉しかったわ。

----レパートリーについてもう少し伺いたいことがあります。長い間取り上げられていない演目がある一方で、他のカンパニーからもってきたい、全く新しい演目が有ると思います。「新しい演目」について伺えることはありますか。
  4月に次のシーズンの演目を発表するので、今は具体的なことは何もお話できないのよ。でも、次のシーズンでも新しい振付を取り上げる予定でいます。
いつも、他のバレエ団から、新しい振付を持ってくることについて考えています。例えば、『ラ・シルフィード』や『オネーギン』は、今ではカンパニーの演目のなかでも重要な位置にあるわ。この2作品を演じられるのは嬉しいことです。
一方で、別のタイプのバレエ作品があります。どうしてもプログラムに採り入れたくて、ようやく上演した。いくシーズンか続けてみた。繰り返し上演するう ちに、何かしらの不満が見えてくる。そうなると、そういった演目は、自然と滅多に上演されなくなる。難しいのは、観客の皆さんの前で演じてみないことには 判らないこともたくさんあるということね。
この例えのほうが判り易いかもしれないわね。人々がワインについて語るとき、「このワインは移動(travel)させても全く問題ない。でも、あのワインは移動させられない」、と。これは、バレエ作品についても同じだと思います。
あるバレエ作品は、世界中、多くのバレエ団で頻繁に、好んで上演される。ところがあるバレエは、そのバレエが作られたカンパニーの外に出ることを好まない。

----今のそのワインの例えを伺って思い浮かべたのは、モーリス・ベジャールです。ベジャールも今年80歳の誕生日を迎えました。昨 年、今シーズンのプログラムが発表される前に考えたのは、「ロイヤル・バレエ、ベジャールの作品を上演するかな? いや取り上げないだろう」、と。彼の作 品はあまり旅をしないのではないかと。
  面白い見方だと思うわ。同様なことは、観客にも当てはまると思います。例えば、グレン(テトレイ)は、アメリカよりもヨーロッパで、そして同じ北米でもカナダで受け入れられたのよ。こういったことは、常に起きているわね。
作品とカンパニーについて考えるとき、個人的に今とても興味があるのは、ボリショイ・バレエやマリインスキー・バレエです。彼らは、今では扉を大きく開 けて、アシュトン、バランシーン、マクミラン、そしてウィールドンなどのこれまで取り上げてこなかった振付家の作品をどんどん上演しているわ。
ちょうどクリストファー(・ウィールドン)はボリショイに新作を振付けたけど、その作品をどうしても観てみたいの。どんな風にクリストファーがボリショ イのダンサーたちにステップを教えたのか、とても興味深いわ。洋服を個人にあつらえるように、クリストファーは(他とは)違った振付をしたと考えている の、何故って彼らはロシアのカンパニーだから。
クリストファーの作品について面白いことがあるのよ。気がついたのだけど、彼がニュー・ヨーク・シティ・バレエに振付けた作品は、ロイヤル・バレエに振 付けた作品とは、ほんの少しだけどステップの具合が違うのよ。NYCBのレパートリーは、私たちのとは何かが違っているの。彼がこの点について意識的に やっているのかどうかは判らないわ。でも、ボリショイ・バレエへの振付だったら、NYCBとロイヤルの間の違いよりも、より大きな違いが有るのではと考え ているのよ。
----ここからは監督自身のことを伺います。まず、「監督」として過ごされる典型的な一日を教えてください。
(ちょっと困ったような表情で)典型的な一日なんて、ないわね。毎日が、将来のことと現在のことを同時に解決していくようなものだから。例えば、昨日は朝 から怪我人や病気のダンサーの知らせがたくさんあり、急いでキャストの変更を考えなければならなかったわ。「カレント・クライシス」をどう解決するかに取 り組んでいました。私たちはそんな状況を「ファイアー・ファイティング」と呼んでいるのよ。
それと同時に、「将来」起きるであろうたくさんの事についても考えなければならない。例えば、あるダンサーが引退を考えている、といったことなどね。ミーティングの間、私たちは、本当に多くのことを話し合います。
ある日は、丸一日電話につきっきり。あくる日は、全く電話はなくて、その代わりダンサーの話を聞くのに多くの時間を費やすわ。あるダンサーが何かの問題 を抱えているとか、プリンシパル・ダンサーが海外の公演にゲスト出演するというのであれば、日程の調整と、先方の監督と話さなければならないこともある。 ロイヤル・バレエがゲスト・ダンサーを迎えるときも同じね。
たとえスタジオにいる時間がなくても、ハウス内には居たいわね。それに、どんなに忙しくても、毎日スタジオに行ってクラスやリハーサルは見たいわ。
ある日はオーディションが予定されているかもしれない。オーディションがあれば、多くの人と会い、話し合わなければならない事がでてくる。別の日には、 スクールに行ってディレクターと話し合うことがあるかもしれない。ある時は、シューズやコスチュームについて解決しなければならない事が起きるかもしれな い。普通の生活ではありえない状況で、たくさんのことに取り組んでいる毎日ね。
数分で解決すること、10分くらいで済むこと、そして大きなプロダクションを抱えていれば、何ヶ月にもわたって考えなければならない事がある。毎日、多くのことが幾重にも重なりあっている中で過ごしている、っていたところかしら。

----ダンサーとしてロイヤル・バレエで活躍されていた頃、どのような思いで過ごされていたのでしょうか。どんな喜びを感じていたのでしょうか。
  私が若かった頃、私は踊りたかった。他の何よりも、踊りたかった。そして、踊ることの喜びを表現したかった。同時にいつも、自分の気持ちを表現できる方法を探しつづけてもいたわ。
何よりも私が幸運だったのは、アシュトン、マクミラン、そしてヴァロワのような偉大な人たちといられたこと。ダンサーとして、なんて幸運で、例外的で、そして稀な機会に恵まれているかといつも感じていた。偉大な人たち、たぐい稀なる才能との貴重な邂逅。
アシュトンやマクミランといることは、時には、彼らへのサーヴァントのように感じたこともあったわ。彼らは、新しい作品を創り上げるために私たちに彼ら とコラボレイトすることを求め、私たちは彼らの偉大な創造性に奉仕していたのよ。言い換えると、私たちは、彼らが創造している過程の中心にいたのだと思う わ。
でも、忘れてはならないのは、同時に、才能に恵まれた他の多くのダンサーが常にいたこと。他の誰かが私の場所にいたかもしれない。私である必要はなかったかもしれない。競争は常に存在していたのよ。
アシュトンやマクミランに選んで欲しい。何故なら、彼らと作品を創り上げる経験が如何に素晴らしいかをみなが知っているから。カンパニーにいる多くのダ ンサーが、その場に居たがった。そして、彼らが私を、もしくは他の誰かを選ぶとき、私はそれが、必ずどれほど素晴らしいことかを常に理解していた。
偉大な才能と全く新しい作品を創り上げるとき、その過程がどれほど貴重で特別なことかを感じるのは素晴らしいことだわ。
振付家を喜ばせるためには、誰でもどんなことでもですると思うはず。仮に彼らが、「耳でバランスを取ってみてくれないか?」、と求めてきたら、貴方はそれをするでしょう。何故なら彼らが望むことだから。
貴方は彼らと新しい作品を創造することが如何に重要かを知っているからこそ、大きなことに挑戦している感覚が常にある。リハーサル・ルームは、いつも前 向きで、創造力に溢れていたわ。自分自身に振付けられた作品を得たダンサーには、大きな喜び、歓喜、そしてリウォードがある。
そして、ファースト・ナイトのカーテンが降りて、どれほど素晴らしく、美しく(ダンサーが)踊ってくれたか、その踊りを観てどれだけ振付家自身が幸福か を、振付家本人から直接伝えられたときのことを想像してみて。これ以上の喜びはないわ。お金でも物でもない、貴方の心に何かが伝わる。祝福されているよ う。そんな特別なことを経験が出来て本当に幸運だと思うわ。

----昨年11月、『Chroma』と『DGV』を踊ったダンサー達は、全く同じ想いを持ったと思います。
私もそう思うわ。

---先ごろ発表された2008年の日本公演には、『眠れる森の美女』と『シルヴィア』が上演予定となっています。
いつも、ツアーとその予定については、心配が付きまとうのよ。


----で、『シルヴィア』は、日本にいるバレエ・ファンがこれまでのロイヤル・バレエの日本公演で観てきたアシュトンの全幕作品とは、ちょっと違うような印象があります。
2005年の日本公演ではアシュトンの『シンデレラ』を上演しました。両作品の制作年はそれほど離れていないのよ。でも、貴方が言われたように、『シル ヴィア』は『シンデレラ』とは違った要素をたくさん含んでいるわね。私は、『シルヴィア』を日本に持って行けるのをとても嬉しく思っています。

『シルヴィア』
バッセル、ハーヴェイ


『シルヴィア』
バッセル、ボッレ、ハーヴェイ

『シルヴィア』
ダーシー・バッセル

----2005年の日本公演については、どのような印象をお持ちですか。
前回に限ったことではないのだけれど、日本に行くたびに、過去何年にもわたって、日本の観客の皆さんがどれほどバレエへの理解を深めてこられたかということに、いつも感銘を受けているのよ。
まずいえるのは、ミスター・ササキ(日本舞台芸術振興会の佐々木専務理事)の長年にわたる情熱と努力ね。彼は東京だけでなく、日本の多くの都市に新しい 文化を広めることを続けてきたと思っています。ロイヤル・バレエが初めて日本公演をしたとき(1975年)、東京だけでなく他の都市にも行きました。本当 に残念だけれど、現在は、コストの高騰を考えると東京以外での公演は難しくなっています。
そして日本の観客の皆さんは、芸術に対してとても真摯だと思います。たとえば数十年前、初めてバレエを観たとき、日本の皆さんは受け入れるのが難しかっ たのではないかしら。音楽やコスチュームのいくつかは、まるで別世界のものと感じられたのではないでしょうか。初めての日本公演のとき、私は観客の皆さん はとても保守的で、静かで、そしてバレエについて知らないことを不安に思われているのではないかと感じました。でも、そのあと何年にも渡って、西洋の文化 であるバレエを皆さんの心の中に取り入れようとされてきた。
2005年の日本公演、ロイヤル・バレエが初めて日本を訪れて30周年の時は、その違いは明らかでした。皆さん、バレエへの理解を深めていらして、ロイ ヤル・バレエのプロダクションを存分に楽しんでいたように感じたわ。言うまでもなく、現在、日本には多くの有名なバレエ団、オペラ・カンパニーやオーケス トラが訪れています。日本の観客の皆さんは、私たちの文化をよく理解されているのではないでしょうか。

----そうですね。最近はロイヤル・オペラ・ハウスでロイヤル・バレエを観る方もかなり増えているようです。ただ、トリプル・ビルになると、今でも躊躇ってしまう方がまだ多いように思います。
それは、ロンドンでも全く同じよ。ロンドンの観客にとっても、ミックス・ビルは今でも賭けみたいなものではないかしら。
皆さんこう考えていると思うの。「このトリプル・ビルで上演される作品、全く知らないな。チケット代だってばかにならないし、年に1、2回しかバレエは観ないし。自分が楽しめることが判っている演目だけを観るべきか。それとも、何か新しい演目を経験してみようかな」。
私の助言はこうね。「もし貴方がバレエを2回観にいける余裕があるなら、1回はよく知っている作品にしてみなさい。そしてあと1回は、Take a risk!」。
監督してトリプル・ビルを計画するとき、いつも自分に問い掛けるのよ。「本当にこのプログラムは、私自身がチケットを買いたくなるものかしら?」ってね。

----最後に、まだ1年以上も先ですが、2008年の公演に向けて、日本のバレエ・ファンに伝えたいことはありますか?
前回の公演から3年もあくから、恐らく新しいプリンシパル・ダンサーがいるかもしれないわね。それに、もし皆さんが『シルヴィア』を観たことがないのであれば、リーディング・ロールをどのダンサーで観てみたいかを考えるのも楽しいことでしょう。
逆に、もう観ることが出来ないダンサーがいるかもしれない。どうなるかわからないけど、もしかしたらダーシー(・バッセル)や(吉田)都ね。都について は、もしかりに日本公演でトリプル・ビルが可能だったら、もしかしたらとは思ってはいるのだけれど。なんとも言えないわね。
でも、私は都がこれから日本で踊る機会が増えるのはとても素晴らしいことだと思っています。しかもテディ(熊川哲也)と一緒にKバレエで彼女のキャリアが続くなんて。なんと言っても、都は偉大なダンサーですからね。まぁ、ロンドンのファンは不満かもしれないけど。

----ええ、不満です。
  やっぱり(笑)。
ダンサーたちは、日本にいけるのをいつも楽しみにしているわ。日本の観客の皆さんはバレエをよく知っているから、彼らは試され、批評され、価値を見出され、そして理解される。これはとても良いことです。
ダンサーたちにはいつもこう伝えています。「日本は、決して簡単な場所ではない。観客の皆さんは、ロイヤル・バレエが素晴らしいということを期待してい るし、私たちはいつも、私たちのスタンダードを高くしていなければならない」。これは、世界中、どこの国に行っても同じこと。でも、日本はある意味、特別 ね。日本は、ロイヤル・バレエにとって、訪れることがいつも幸せに思える国だと思います。

2007年5月11日(金)に、ロイヤル・オペラ・ハウスのリンベリー劇場で、メイソン監督への公開インタヴューが催される。インタヴューアーは、グラモ フォン誌等のオペラ批評家として知られるクリストファー・クック氏。チケットは、ロイヤル・オペラ・ハウスのウェブから購入可能