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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2007.01.10]

ダーシー・バッセル & イゴール・ゼレンスキー

 11月最終週に、サドラーズ・ウェルズ劇場で、ロイヤル・バレエのプリンシパル・ゲスト・アーティストのダーシー・バッセルと、マリインスキー・バレエのプリンシパル、イゴール・ゼレンスキーの二人による公演があった。
ロイヤル・バレエでのミックス・プログラム直後のバッセル、この公演後に日本に向かったゼレンスキーと、非常に過密なスケジュールにもかかわらず、二人 のパフォーマンスは期待を裏切らないものだった。しかしながら、お粗末な演目構成のために、残念なことにとても散漫な公演に終わってしまった。バッセルと ゼレンスキーがかつてロイヤル・オペラ・ハウスで見せた輝かしいパートナーシップの再現を期待していたに違いない観客の多くは、不完全燃焼のまま帰路につ いたのではないだろうか。

最初の演目は、ロイヤル・バレエのプリンシパル・キャラクター・アーティストで、最近振付家としての活動も目立ち始めたアラステア・マリオットによる 『Kiss』。このプログラムのためにバッセルに振付けられたもので、世界初演。ロイヤル・バレエの元プリンシパル・ダンサーで、ロイヤル・バレエ学校で もバッセルと同学年だったウィリアム・トレヴィットが共演した。プログラムには、マリオットは、オーギュスト・ロダンとカミーユ・クローデルのリレイショ ンシップに触発されてこの作品を振付けたとのこと。
7分と短い振付だが、バッセルとトレヴィットの静かに流れるような動きは、長い間一緒に踊る機会がなかったとは思えないもの。振付自体は、可もなく不可 もなくといったところ。マリオットは、ロイヤル・バレエへの新作、『Children of Adam』が控えている。情報によると、どうやらナラティヴ・バレエになるらしいが、マリオットが「いい人」をやめられるかどうかが、今後の彼の振付家と してのキャリアを進める上での鍵になるのではと思う。

  2作目は、アラ・シガロヴァ(Alla Sigalova)がゼレンスキーに振付けた、『コンチェルト・グロッソ』。振付、衣装、照明のすべてをシガロヴァが手がけたようだが、黒い背景、黒い衣 装で何を語りたかったのか理解しがたかった。振付はゼレンスキーのダンサーとしての素晴らしい資質を充分に引き出していた(特に回転の凄まじいほどの美し さ)だけに、やや消化不良気味な印象を持った。

3番目は、現在、ゼレンスキーが芸術監督を務めるノヴォシビリスク・バレエのダンサー6人(男女3人ずつ)による、Edwaard Liang による『ウィスパー・イン・ザ・ダーク』。今回のプログラムで取り上げられた4作品の中で一番長い27分にも及ぶ上演時間にもかかわらず、なんの印象も残 らなかった。
ノヴォシビリスクのダンサーたちには、賞賛を送る。が、振付は、再び暗いトーンの衣装、振付を見せたくないのではとかんぐりたくなるほど光源を絞ったラ イティング。肝心なのは、「このムーヴメントを舞台の上で生み出したかった」、という強靭な意思が全く感じられなかった。仮に、現在のコンテンポラリー・ ダンスに求められている最も重要な条件が、観客に見せる目的ではなく、振付家個人を満足させること、というのであれば、筆者にとっては必要ない。

ダーシー・バッセルと
イゴール・ゼレンスキー

ブログラムの最後は、ローラン・プティが1946年に振付けた『若者と死』。イギリスの批評家は、作品自体の古さを取り上げていた。が、全く違う状況な がら、あらゆる所に「死」が渦巻いている現在において、何ら違和感を感じることはなく、かえって、作品の主題の普遍性を鮮明に感じることが出来た。
キャリアの後半に差し掛かっているとはいえ、バッセルとゼレンスキーの踊りからは、これは観にきた甲斐があったという満足感を得られた。二人の健康的な 容姿からは、「退廃」の雰囲気を感じることはなかった。しかしながら、両者とも、既にこの演目を踊った経験があるからだろう、作品の主題は十分に理解して いたようだ。

最初に書いたように、素晴らしいダンサー二人によるこのコラボレーションが全くの期待はずれに終わったのは、ひとえに構成のまずさ。それ以外にない。 バッセルとゼレンスキーの「二人」の公演としながら、例えば、バッセルは、最初の演目、『Kiss』が終わったあと『若者と死』までの間約1時間以上、舞 台には現れなかった。バッセルが舞台に居たのは正味25分弱。また、音楽は予定ではライヴであったはずなのに、録音によるものになっていた。これを企画し たのはサドラーズでなく外部のプロダクションだが、サドラーズ・ウェルズ劇場がイニシアティヴをとるべきだったのではないかと思う。