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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2006.09.10]

サドラーズ・ウェルズ劇場芸術監督、アラステア・スポルディング・インタヴュー

  昨年秋から、パリ・オペラ座バレエのロンドン公演、シルヴィ・ギエムとラッセル・マリファントの画期的なコラボレイション、更に、マシュー・ボーンの新作 『エドワード・シザーハンズ』の上演と、既存のダンス演目を上演するロンドンの劇場というポジションから、最新のバレエ、ダンスそしてパフォーミング・ アーツを「世界へ向けて発信する」劇場へと変わりつつある印象のサドラーズ・ウェルズ・シアター。
日 本からだと、どのような企画が進んでいるのか、どれほど刺激的な舞台が繰り広げられているのかが判り辛いかもしれない。発表された9月からのプログラム も、ダンス・ファンならすべて観たいようなものばかりが並んでいる。そこで7月26日に、芸術監督のアラステア・スポルディングに、サドラーズ・ウェルズ 劇場の今後の方向性や、秋のプログラム、また現在進行中の企画について伺ってきた。パフォーミング・アートの世界に入るまでは、小学校で教師をしていたス ポルディング。劇場と人々を結びつける喜びを熱心に語ってくれた(インタヴュー、構成ともに筆者)。

アラステア・スポルディング氏

Q:サドラーズ・ウェルズで、今後どのようなことを実現されたいのでしょうか?

ここ数年、精力的にやってきたことは、まず、アソシエイト・アーティストを招いたこと。マシュー・ボーン、ウェイン・マックグレガー(ランダム・ダンス)、アクラム・カーン、ラッセル・マリファント、バレエ・ボーイズ、そしてシルヴィ・ギエム。
 次に、ウェインの『Amu(2005年)』、アクラムの『ゼロ・ディグリーズ(2005年)』などの企画、上演を進めてきた。そして、シルヴィとラッセルの『PUSH』の上演。これは、他の公演やプロジェクトとは違うんだ。
ジョージ・パイパー・ダンスズ(以下GPD)の『ネイキッド(2005年)』や9月に上演予定のシルヴィとアクラムによるコラボレイション『セイクレッ ド・モンスターズ』はサドラーズのほかにもプロデューサーやファンドの提供者がいる。対して『PUSH』は、初めてサドラーズだけで企画し、資金を調達 し、制作し、上演したもの。10月(10日、12日、13日、14日)に、ニュー・ヨークのシティ・センターで『PUSH』を上演する際は、「サドラー ズ・ウェルズ・シアター atシティ・センター」というバナーがつく。ニュー・ヨークでの公演をとても楽しみにしているし、僕は、『PUSH』の成功をとても誇らしく思っている。

「PUSH」

いつも思っていることが三つある。第一に、新しいものを常に創り続けていきたい。単なる劇場でなく、常にクリエイティヴなことをしていきたい。第2に、 大きな劇場として、幅広い観客を集めることの出来る新しいものをサドラーズで上演したい。シルヴィを例にしよう。シルヴィは、彼女のパフォーマンスを観た い観客をサドラーズにもたらした。古典でなく、シルヴィ・ギエムの全く新しい試みを見たい人々をサドラーズにひきつけたといえる。最後に、サドラーズ独自 のプログラムの再演。『PUSH』は2007年春に再演を予定している。また、『エドワード・シザーハンズ』も近いうちにサドラーズで再演したい。



ウェイン・マックグレガー

ラッセル・マリファント

ジョージ・パイパー・ダンシィズ

Q:幅広い観客といいますと?

マシューのプログラムを例にして説明しよう。昨年上演した『エドワード・シザーハンズ』の観客の6割は、それまで一度もサドラーズ・ウェルズ劇場に来た ことがなかったんだ。また、『スワン・レイク』を初めてみた観客の4人に一人は、再演のときにまたサドラーズにきている。これまで、ダンスやバレエを観に サドラーズだけでなく、バレエ・ダンスを観に劇場にいくなんて全く考えたこともないような人々にもっと来て欲しいんだ。

Q:『エドワード・シザーハンズ』上演の際、スクール・トリップの学生を多勢見かけました。これもサドラーズの将来と何か関係があるのでしょうか?
『エドワード・シザーハンズ』は、若い世代を強く惹きつけた。彼らがこれからも、パフォーミング・アーツやサドラーズのほかのプログラムに興味を持ってく れればね。サドラーズには「コネクト・サドラーズ・ウェルズ」という部門が有る。そこでは、教育に結びつくイヴェントをいろいろと企画、実行しているん だ。また、先週末(7月22日)のブラジリアン・カーニヴァルに参加したように、われわれがいる地域(ロンドン、イズリントン区)の一部であることをいつ も考えている。

Q:シルヴィ・ギエムが加わったことで、再び注目を集めているアソシエイト・アーティストについて教えてください。
アソシエイト・アーティストはいわば「家族」のようなものと考えている。「われわれ(サドラーズ)が君たちを選んだのは、君たちにサドラーズがやろうと している新しいことに参加して欲しいからなんだ。代わりに、僕らは君たちをサポートし、われわれの施設を使ってほしい」、という関係とも言える。マ シュー、GPD(バレエ・ボーイズ)やランダム・ダンスはここにオフィスを持っている(インタヴューを行った日には、カルロス・アコスタ、アクラム・カー ン、GPDがリハーサルをしていた)。

Q:アソシエイト・アーティストは「必ず」何かを創らなければならないのですか?
彼らに「サドラーズ」のために新しいものを創って欲しいけど、「必ず」ではない。サドラーズとアソシエイト・アーティストの関係は、別に法で縛られているものではないし。ただ、いつもチャレンジングでいることは難しい。
サドラーズ・ウェルズ・シアターは商業的な劇場でもあり、将来のために資金を得なければならない、という現実がある。だから、そのためには、タンゴやサ ルサなどの比較的ポピュラーなプログラムもある。われわれの予算の中で、政府からの援助が占めるのは12%。残りは公演のチケットの売上から。僕たちは、 常に劇場をいっぱいにしなくてはならないし、そのためには新しい挑戦、アトラクティヴなプログラムの両方を常に考えていかなければならない。

劇場内部

Q:アソシエイト・アーティストとの、新たなプロジェクトはありますか?
まず、9月中旬に、シルヴィとアクラムのコラボレイション、『セイクレッド・モンスターズ』がある。続いて、ジョージ・パイパー・ダンシィズの『アン コール』。これも、とても素晴らしいものになるはずだ。それと、まだ具体的なことは何もいえないけど、『セイクレッド・モンスターズ』のあとの、シルヴィ との新しい企画も動き出したところだ。

Q:9月から始まる秋のプログラムは、どう思われていますか?
(芸術監督として)まず僕自身が楽しまないとね。新作以外は既に観ているけど、どれも素晴らしいものだと思っている。シルヴィとアクラムの新作も、まだ製作途中を少し見た限りだけど、エキサイティングなものになると確信している。
いくつかあげると、第一に、フォーサイス・カンパニーだ。彼らのイギリス初演となる演目は、とても刺激的なものだ。観客にとって、もしかしたら簡単な作 品ではないかもしれない。でも、僕はフォーサイス・カンパニーが観客に見せるものに大いに期待しているよ。ローザスをまたサドラーズで観ることが出来るの も非常にうれしい(ローザスは今年のダンス・アンブレラのメイン・カンパニーでもある)。
オランダ国立バレエのロンドン公演は、5年前のサドラーズでの公演以来のはずだ。彼らのコンテンポラリーには素晴らしいものがある。とくに、ハンス・ ファン・マーネンの作品はとても楽しみにしている。ダーシー(・バッセル)とイゴール(・ゼレンスキー)の公演もかなり面白いものになるはず。特に、ロー ラン・プティの作品(『若者と死』)が上演されるのは非常に嬉しい。僕は、プティの作品は、ロンドンでもっと上演されるべきだといつも思っているんだ。プ ティの作品が、(最後に)ロンドンできちんと上演されたのがいつだったか思い出せないくらいだからね。

Q:どのプログラムも、見逃せないものばかりですね。でも、日本のダンス・ファンはどうすれば?
一つ、計画があるんだ。これまでもダンス・カンパニーやプログラムを紹介するために、他の劇場で録画されたヴィデオをサドラーズのウェブ・サイトで見る ことが出来た。近いうちに、サドラーズで録画されたライヴ・ステージをウェブで見られるように、と考えている。有料になるかもしれないけど、例えば、本公 演の数週間後に、『セイクレッド・モンスターズ』が日本にいても見られるかもしれない。本当は、遠いけど日本から来てもらって、フォーサイスや、シルヴィ とアクラムなどの生のステージを観てもらえればね。

Q:プログラムの構成は誰が決めているんですか?
僕だけだよ。そのためにいろいろな地域に行っている。また、多くの人の意見を聞くようにしている。
今のところ最も興味が有るのは、イスラエルのバトシェバ・カンパニー。それと、2007年の春に公演予定の、クラウド・ゲイト・シアター(台湾)などだね。

劇場正面(夜)

Q:いわゆる「バレエ・カンパニー」についてはどのような考えをお持ちですか?
2007年2月には、アメリカン・バレエ・シアターの公演を予定している。ちょっと先だけど、2007年の秋にはナショナル・バレエ・オブ・チャイナの 公演も予定している。出来れば、すぐにでもパリ・オペラ座バレエの公演をまたやりたいし、予算の問題があるけどニュー・ヨーク・シティ・バレエをぜひサド ラーズで、と思っている。
ただ、バレエ・カンパニーのプログラムを上演するには、確固とした「理由」がなければと考えている。例えば、パリ・オペラ座の(クラシック)『ジゼル』 は素晴らしいだろう。でも、古典バレエなら、ロンドンにはロイヤル・バレエがある。あえて、われわれがやる必要はないと思っている。バレエ・カンパニーに は、少なくとも「20世紀」の演目を持ってきてほしいんだ。もちろん例外はある。キューバ・バレエが新作をなんて、ちょっと思いつかないだろう。でも、彼 らは素晴らしいカンパニーだし、ダンサーもとても素晴らしい。それが彼らを選んだ「理由」なんだ。

Q:最後に。日本のダンス・シーンで注目しているカンパニーや振付家はいますか?
山海塾は、頻繁にサドラーズで公演しているし、勅使河原三郎にもまたここで公演してもらえればと考えている。彼がパリ・オペラ座に振りつけた『AIR』を最近見たけど、あれはたいへん面白かった。
日本のダンス・シーンのリサーチは難しいんだけど、最近注目しているのは、伊藤キム。9月に、フランスで彼の舞台を観る予定だ。それと、H・アール・カオスにも興味がある。

http://www.sadlerswells.com/default.asp

劇場正面(昼)