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守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2005.11.10]

●「ラ・シルフィード」でロイヤル・バレエのシーズン開幕

 オペラから遅れること一月、10月6日にロイヤル・バレエの2005/06シーズンが開幕した。 シーズン最初のプログラムは、今年生誕200年のブルノンヴィルの代表作の一つでありカンパニー初演になる『ラ・シルフィード』と、 日替わりで『ザ・レッスン』(これもカンパニー初演)か、5年ぶりの上演となったアシュトンの『ル・ランデヴー』のダブル・ビル。
6日は『ザ・レッスン』と『ラ・シルフィード』。初日の成功は、どちらにも深く貢献したヨハン・コボーの存在に因るといってもよいだろう。


「ザ・レッスン」
 デンマーク人振付家・ダンサーのフレミング・フリントによる『ザ・レッスン』。 1963年にテレビで放映されたのが初演。舞台初演は翌年の1964年、パリでのこと。ロンドンでは、2003年9月に、 ヨハン・コボーがプロデュースした自身のグループ公演「アウト・オブ・デンマーク」で上演されている。

すりガラス越しに見える鮮やかな黄色のレインコート、バレエ教室にきた生徒だ。 ドアのベルが響く中、半地下のバレエ教室に佇むピアニスト(ゼナイダ・ヤナウスキー)。 椅子や楽譜が散乱した部屋。バレエ教室らしく壁中に鏡があるがすべてが歪んでいる。再びベルが鳴り、慌てて部屋を片付け始めるピアニスト。 そして踊るのが待ちきれない、嬉しくてたまらないようすの生徒(ロベルタ・マルケス)が階段を駆け下り、息せき切って教室に入ってくる。
何か理由があるのか、ピアニストは生徒にトゥシューズを履かせまいとしている。そこに、おどおどと教室に入ってくるバレエ教師(ヨハン・コボー)。 指導が始まりピアニストはピアノにもどる。が、鏡越しに背後の教師と生徒の動きをじっと見詰める。ピアニストの威圧感と、生徒の純真爛漫な踊りに焦る教師。

コボー


ピアニスト役のヤナウスキー

マルケスとコボー

コボー

教師の教え方が熱を帯びてくる。生徒の脚への執着が常軌を逸してくる中、次第に彼が場を支配し始めてきた。 ピアニストは彼の勢いを押さえようとするが、彼と言い争った後、部屋を出てしまう。教師と二人きりになった生徒は無邪気に踊りつづける。 そのうち脚をいためた生徒はもう踊れないと教師に訴える。それを認めず、逆に煽り、脅す教師。椅子を蹴倒し、楽譜をばら撒きながら更に生徒を追い詰めていく。そして・・・。
ピアニストが教室に戻ると、椅子や楽譜が散乱する床に静かに横たわる生徒。バレエ教師はおどおどと、まるで叱られるのを怖がる子供のよう。 以前にも見た光景。そしてドアのベルが再び鳴り響く・・・。


ロベルタ・マルケス
2年前に上演されたクイーン・エリザベス・ホールよりかなり大きなロイヤルの舞台では、 窒息するような閉塞感は強く感じられなかった。が、舞台上の3人が作り出す緊張は観る側の背筋をピンと伸ばさせるには充分だった。

マルケスは感情表現のレパートリーはまだそれほど多くないように感じたが、古典ともモダンともつかない役をしっかりと踊っていた。 ヤナウスキーは踊りは当然として、彼女の視線の演技に圧倒された。歪んだ鏡にしっかりと映るのは彼女の視線だけ。ピアニストの監視を逃れるのは不可能、と思えたほどだ。

そしてコボー。あのこわれっぷり、他の誰ができよう。しかも、この教師役は随所にかなり高度な古典バレエの技術が要求されるので、技術、演技のどちらかだけではかなり難しいといえる。
内容が内容だけに、子供がたくさん観に来るであろう土曜日のマチネから『ザ・レッスン』ははずされたそうだ。これに対して面白い意見が新聞に寄せられていた。 「古典バレエはいつも死を扱うのに、何故これだけ特別扱いするのか?」。イギリス人らしい意見だと思う。

「ラ・シルフィード」
 ヨハン・コボーの再振付、構成の変更と彼のディレクションによる、ロイヤル・バレエ初演となった『ラ・シルフィード』。 この演目をデンマークで、そして世界中のカンパニーで踊り、知り尽くしているコボーだからだろう、舞台の流れはとてもよく出来ていた。 キルトの色がちょっとありえないくらいカラフルだったのを除けば、舞台セットも統一感が取れていた。

初日は、シルフにアリーナ・コジョカル、ジェイムズはイヴァン・プトロフのプリンシパルカップル。 ガーンに今シーズンからファースト・ソロイストに昇格したホセ・マーティン、エフィはイオナ・ルーツ、 そしてマッジは、ロイヤル・デンマーク・バレエ出身のヴェテラン、ソレラ・エングルンドが演じた。

コジョカルとプトロフの間の感情表現は、今ひとつの感があったが、これはカンパニーにこの演目が馴染んでいないからかもしれない。 双方とも技術的には申し分なかった。コジョカルの動きはまるで空気のように軽く、容姿ともにこの役にうってつけだろう。 惜しむらくは、ポワントの音。シルフの足音が、ジェイムズやガーンより響くのはやや興がそがれた。プトロフは、脚捌き、ジャンプ、回転すべてにスピードに溢れていた。 技術と演技が噛みあうようになれば、これからまだまだ伸びる可能性を感じた。

『ラ・シルフィード』
イメージ・フォト

これまでテクニック面ばかり強調されているマーティンの演技力が、かなり向上しているようだった。 昨シーズンのアシュトン中心のプログラムから学んだことなのではないかと思う。エングルンドのマッジは、物語の要として素晴らしい演技だった。 が、他を圧倒しすぎていて、逆に浮いてしまった印象をもってしまった。第1幕の群舞はバレエ学校の生徒を交えて華やかに。 第2幕の妖精の群舞は、コール・ドの背丈がきちんと揃えられていて、久しぶりに古典バレエを観る楽しさを味わえた。他のキャスティング、「レ・ランデブー」については来月号で。


コジョカル

コジョカルとプトロフ

ソレラ・エングルンド(中央)