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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.03.10]

●ピナ・バウシュのロンドン公演 『カーネーション』、『パレルモ パレルモ』

ピナ・バウシュ率いるタンツ・テアター ヴッパータール舞踊団が2002年の公演以来3年ぶりにサドラーズ・ウェルズに戻ってきました。 ピナの代表作とも言える2作品『カーネーション』と『パレルモ パレルモ』が、2月10日~20日まで10日間上演されました。

ここ約30年、コンテンポラリーダンスの変化・発展に大きな影響を与え続けるピナ・バウシュ。その存在は神様的と言っても言い過ぎではないでしょう。 ロンドン公演があまり頻繁に行われないためもあり、毎回の公演はダンス界のみならず、さまざまな分野の人々の大きな注目と関心を集めます。

『カーネーション』(1982年初演)/『パレルモ パレルモ』(1989年初演)共に今から23年/16年前の作品と比較的古典的な作品にもかかわらず、 今見てもその彼女の作品としての斬新さと様々なアイディアの強烈さは驚くべきものでした。約8000本と言われるカーネーションがカーペット状に敷き詰められた舞台で繰り広げられる『カーネーション』、 舞台―横一面に立ちはだかる巨大な壁が轟音立てて崩れるシーンから始まる『パレルモ パレルモ』、共に劇場に入って観客が一番初めに目にするものが与えるそのインパクトは言葉を失うほど強烈なものがあります。 その電気ショックのような衝撃的出来事はその後洪水のように2時間・3時間と目の前で繰り広げられ、終わるころには何か戦いが終わった後の虚脱感のようなものを覚えます。 その目にした出来事はあまりにも多すぎて、そしてあまりにも雑然としていて自分が何をそこから感じたのか、 それらムーブメントに何のメッセージが込められていたのかまったくわからない記憶喪失のような感覚も覚えます。 時には個人的にどうしても生理的に受け付けることができない描写に、自分の傷口に触れられ息苦しい感覚や腹立たしい思いを覚えたことがあるのは私だけではないのではないのでしょうか。 その目前の世界から何を感じとるかは、その劇場の空間に居る者、一人一人の感受性によって異なります。 その証拠として今回の公演でも、上演中に耐え切れなくなって劇場を後にする人々も居れば、終演後スタンディング・オベーションをする人々も居ました。 新聞評でも1つ星から4つ星までその評価は大きく分かれました。しかし、今回の公演でどんな思いをしたとしても、ピナの作品がいつもの手法であることがわかっていても、 次の公演の際にはなぜか「必ず観に行かなくては」と思わせるのは、ピナ・バウシュの魔力なのでしょう。

『カーネーション』

『パレルモ パレルモ』
(2月10、18日、サドラーズ・ウェルズ)