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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.02.10]

●ダウエル版『白鳥の湖』ゼナイダのオデット/オディール

アンソニー・ダウエル版『白鳥の湖』がロイヤル・バレエ(RB)クリスマス・シーズン・プログラムとして2004年12月22日~2005年1月25日上演されました。 ロイヤル・オペラ・ハウスでの上演は2年ぶり。今回は観光客の最も多いクリスマス・シーズンということもあり連日完売、67枚限定の当日券には3時間半以上待ちの列ができるほどの盛り上がりとなりました。

RB 2大人気のタマラ・ロッホ&アリーナ・コジョカルのオデット/オディールが注目されたことは言うまでもありませんが、 今回最も注目されたのは、ゼナイダ・ヤノフスキーでした。約173cmと長身のゼナイダは技術的にも表現力にも非常に優れているにも関わらず、長身男性ダンサー不足のために、 バレリーナとして主役の舞台を飾ることがなかなかできませんでした。しかし今回は、身長約190cmというデンマーク・ロイヤル・バレエのプリンシパル、 ケネス・グレーヴェの客演がその舞台を可能にしました。「ゼナイダにチャンスを!」と願うファンは多く、タイムズ紙とガーディアン紙でも公演前にインタヴューがされるなど、 評論家を含む多くのファンの願いが実現する舞台となりました。

ゼナイダ演ずるオデットは消えてしまいそうなほどに可憐で、ロットバルトの呪いに完全に操られている役作りが非常に印象的でした。 まさにロットバルトの手から何か強い糸のようなものが見えるような錯覚を覚えました。人を信じることへの恐怖感のために王子の目を見つめることもできないその弱々しい姿からは悲痛感がにじみ出ています。 全体的には女性としてのイメージを強く与えながらも、空気に溶けるような首すじやアームスは白鳥の優美さを表し、 オデットのソロのデブロッペ・ア・ラ・スゴンでは大きく羽ばたこうとする白鳥の野性的なイメージが伝わってきました。 2幕のパ・ド・ドゥは、振付ではなくオデットと王子の感情の表れとしか見えないほどに自然、衝撃的な出会いからお互いが徐々に理解を深めていく過程が鮮明に映し出されています。 それは永遠に続いて欲しいと思えるほどにロマンティックなパ・ド・ドゥでした。オディールではウィリアム・タケット演ずるロットバルトとの親子関係が非常に親密に描写されていて、 今までに観たことのない第3幕となりました。完全なる2面相であるオディールはジークフリードに背を向けている(=ロットバルトと絡んでいる)時と、向き合っているときの人間が異なります。 ランベルセやフェッテで振り返った瞬間に違った人格/表情を見せるなど、想像もできなかった解釈とその演技力はまさに「インテリジェントなバレリーナ」と言われるゼナイダならではのオディールでした。

RB初めてのゲスト出演となったケネス・グレーヴェの踊りは気張ったところがまったくなく、絵に描かれたようにハンサムで気品溢れるジークフリードで劇場中を魅了しました。 お手本のように完璧なテクニックとデンマーク・ロイヤルならではの跳躍力(高さよりも空中での伸びを魅せるジャンプ)が鮮明に目に焼きついています。 ゼナイダとのパートナーシップもこれが初めてとは思えないほどに素晴らしく、この組み合わが1公演のみということが残念でなりませんでした。 この二人の舞台が今後も実現するように…と多くのファンが願っています。

ゼナイダ・ヤノフスキー

ゼナイダ・ヤノフスキー

ゼナイダ・ヤノフスキー
ケネス・グレーヴェ


タマラ・ロッホ

タマラ・ロッホ
ゼナイダの白鳥とは非常に対照的なオデットを演じたのは、タマラ・ロッホでした。 タマラ演ずるオデットからは白鳥の野生的な強さ、呪われているにもかかわらず前向きに生きるイメージが見られました。 その少し強気な役作りはオデットの孤独感を強く表わし、その解釈に新鮮味を覚えました。しかし3幕オディールでは「待っていました!」 と言わんとばかりにパ・ド・ドゥでのバランスや4回おきにトリプルの入るグラン・フェッテなどテクニック的な部分が強調され、 物語の流れが途絶えてしまいました。彼女ならトリプル・ピルエットにさえオディールの性格を映し出すことができるであろうと信じていただけに残念に思いました。

2年前のオデット/オディール・デビューは「まだ若すぎた」と厳しい評価を受けたアリーナ・コジョカル。この2年間で様々な作品をこなし、 今や世界的バレリーナとなったアリーナのオデット/オディール再度挑戦は期待されました。 アリーナは、白鳥の王女であることを強調したゼナイダやタマラの解釈とは異なり、完全な女性としてのオデットを演じました。 ヨハン・コポー演ずるジークフリードとのパ・ド・ドゥは『白鳥』の2幕とは思えないほどに恋愛感情溢れるパ・ド・ドゥでした。 3幕ではアリーナの魅力である空気を切るような回転の速さやバランス力、コポーとのパートナーシップによる神業的なリフト(頭上で数秒間停止するような)で 黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ特有の盛り上がりをみせ、劇場は熱気と興奮に包まれました。 しかし私の個人的な意見としては、王妃やその舞踏会会場の人々を惑わせるような魅力/魔力に欠けていように思います。物語性がテクニックに映し出される踊りをいつの日か観たいものです。

主役の活躍だけではなく、カンパニー全体の満ち溢れるエネルギーと統一感は今回の『白鳥の湖』を非常に完成度の高いものにしました。 特筆すべき点として、驚くほどに安定したテクニックでパ・ド・トロワを踊った佐々木陽平、限りない可能性を予感させたローレン・カスバートソンとサラ・ランムの2羽の白鳥、 クリアーなテクニックとチャーミングな表情で一際目を奪ったカロライン・デュポット(第1幕ワルツ・ソリスト)などが挙げられるでしょう。
5月には異なる4組の主演キャストによる『白鳥の湖』が予定されており、それぞれのダンサーの異なるアプローチが期待されます。
(2004年12月28日、2005年1月3、9日、ロイヤル・オペラ・ハウス、ロンドン)