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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2005.02.10]

●イングリッシュ・ナショナル・バレエ、絵本の中の『くるみ割り人形』

1950年以来、毎年のクリスマスには『くるみ割り人形』を上演しているイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)が、改修工事を終えた本拠地ロンドン・コロシアムに戻り2004年12月21日~2005年1月8日の間29公演上演しました。

様々な古典的作品において斬新なアプローチを見せるENB。カンパニーとして12回目の改訂版となるクリストファー・ハンプソン版『くるみ割り人 形』(2002年初演)はディズニー・アニメ『ヘラクレス』のアニメーション・デザイナーのジェラルド・スカーフがコンセプトと美術・衣裳デザインを担 当。“スカーフ版『くるみ割り人形』”とも呼ばれるこのプロダクションは、まさにアニメ感覚の色彩とポップなデザイン、そして巨大冷蔵庫から飛び出てくる 雪やチャイニーズ・テイク・アウェイ(中華の出前)を配達する中国の踊りなどの突飛な演出が、非常に特徴的です。ドロッセルマイヤーが舞台大の巨大絵本を 開けるところから始まり、すべては絵本の中での出来事として繰り広げられる演出が印象的ですが、最後には登場人物たちが絵本の中に帰ってしまい、絵本が閉 じられる瞬間にこころ寂しさを覚えました。

バレエと言うよりはミュージカルやサーカス的エンターテイメントとしての要素が強く、バレエを観たことない人でも誰でも楽しむことのできる作品と言えますが、正直言って子供が楽しむことの出来るユーモアなのか? と疑問に思う演出もあり、厳しい評価も聞こえてきています。

クリストファー・ハンプソンの振付はこれと言って特徴的なことなく、非常に典型的な『くるみ割り人形』のステップのために、主演ダンサーの好演がその公演 自体の評価を決定的にしました。金平糖の精を踊った高橋絵里奈はお菓子の国の女王としての威厳と優しさ溢れる役作りが非常に印象的でした。6年前にデレ ク・ディーン版『くるみ割り人形』の葦笛の一人として彼女を始めて観た時は、まだ若々しく、非常に細身の身体からどこか弱々しいイメージを覚えましたが、 今やENBを率いるプリンシパルとして大活躍するその貫禄が伝わってきました。心温まるユーモアと言うよりはシュールなイメージの強いハンプソン版『くる み割り人形』の中で、唯一夢の中に吸い込まれるバレエ的な瞬間は、高橋の金平糖のヴァリエーションだったように思えます。


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(12月27日、ロンドン・コロシアム、ロンドン)