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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2004.12.10]

●ロイヤル・バレエが40年ぶりの再演したアシュトンの『シルヴィア』

「ア シュトン100セレブレーション」で最も注目されたプログラム、『シルヴィア』が11月4日その幕を開け、12月3日までの1ヶ月間ROHで上演されまし た。11月4日の初日の舞台は、1965年以来40年ぶりの再演という歴史と、ダーシー・バッセルの1年半ぶりの全幕作品復帰で非常に期待されました。

アシュトンはレオ・ドリーブの音楽『シルヴィア』に魅了されその創作を切望し、1952年に『シンデレラ』に継ぐ第2作品目の全幕作品として『シルヴィ ア』を発表。しかしアシュトン自身その完成度に満足いかず改訂を重ねますが、全幕作品としての再演を実現することなくアシュトンは88年に亡くなりまし た。それ以降は第3幕の有名なピチカートを含むパ・ド・ドゥウのみ、ガラ・コンサートなどで上演されていました。
この再演に際し、問題となったのは完全なノーテーションや映像が存在しなかったこと。振り起こしを含め衣裳・美術デザインなど、歴史的写真・資料、部分的 に残された映像、当時の出演ダンサーの記憶をたどり、元RBダンサー/バレエ・マスターのクリストファー・ニュートンの指揮のもと再演が実現されました。


ギリシャ神話の人物を題材にした、人間と神の愛を描いたロマンティック・バレエ的物語。<第1幕>狩猟と月の女神ダイアナに仕えるニンフ、シ ルヴィアは仲間と共に狩の成功を喜んでいる姿を、彼女のことを切に愛する羊使いアマンタ見られてしまいます。そのことに怒ったシルヴィアは、これを仕組ん だとされる愛の神エロス(キューピッドの像)を矢で射ろうとしますが、矢はアマンタに当たってしまいます。そこでエロスは、シルヴィアに愛する心を与えよ うとシルヴィアに矢を打ちます。その矢を受けたシルヴィアはアマンタを愛するようになりますが、シルヴィアに恋心を抱くオリオンに連れ去られてしまいま す。<第2幕>シルヴィアはオリオンから逃れるために彼のご機嫌を取り、泥酔させ洞窟から逃げ出します。そして再びエロスに助けられアマンタ の元へ戻ります。<第3幕>アポロ、テレプシコールなどの神々・女神たちに祝福され二人はめでたく結ばれます。
ダー シー・バッセル、ゼナイダ・ヤノフスキー、マリアネラ・ニュニアスという注目のトリプルキャストで上演された今公演では、それぞれの異なる個性で興味深い 舞台となりました。初日を飾ったダーシーは、デビュー当時を思い出させるようなエネルギーと正確なテクニックが衝撃的だったものの、初日という緊張感のた めかムーブメントとしての振付のみが印象に残り、シルヴィアの内的な描写を見ることはできませんでした。しかし3幕のピチカートでは誰もが目を見張るつま 先の美しさと溢れ出る気品・優雅さに劇場中が魅了されました。
待望のタイトルロールとなったゼナイダはムーブメント一つ一つから台詞が聞こえてくるような表現力、そして彼女を見ているだけでドリーブの演劇的な音楽が すべて聞こえてくるような音楽的感受性で最も印象深いシルヴィアを演じました。超長身を生かしきったダイナミックなジャンプやアラベスクにも見られるエレ ガンスは、まさにシルヴィアというキャラクターを描写していました。
今後の活躍が期待されている若手プリンシパルの一人、マリアネラ演じるシルヴィアは1幕では技術的な部分で少し危うさを見せたものの、2幕では彼女ならで はの茶目っ気たっぷりのシルヴィアがとても印象的でした。控えめながらもしなやかなグラン・ジュッテやランベルセが目に焼きついています。


シルヴィアとアマンタとの組み合わせとしては、やはりキャリアに勝てるものは無いということを実感させられました。[ダーシー・バッセル&ジョナサン・ コープ]のパートナーシップでは魔法のような二人のムーブメントと感情の劇的融合が見られました。第3幕のパ・ド・ドゥウでは、これほどまでにロマン ティックなパ・ド・ドゥウはあるのだろうか、というほどに二人は完璧でした。
初日の舞台ではソリスト、コールドのばらつきが気になりましたが、公演を重ねるごとにダンサーそれぞれが役・作品に対する理解を深め、作品をさらに味深いものしたように思えました。

私自身初めての体験となったアシュトンの『シルヴィア』。ドリーブの音楽の美しさ、アシュトンマジックとでも言うべき振付・演出の精巧さ、そしてカンパ ニー全体の好演に想像以上の感動を覚えました。50年前のマーゴット・フォンティーンの舞台以来にこの『シルヴィア』を観たという男性とお話しをしました が、50年前の舞台とは比べることの出来ない点はあるものの、今回の再演を非常に高く評価されていました。
(2004年11月4・5・20・24日、ロイヤル・オペラ・ハウス、ロンドン