ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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船引怜美 Text by Remi Funabiki 
[2004.11.10]

●デボラ・ブルのバレエ・ガイド 『ザ・ファーバー・ポケット・ガイド・トゥ・バレエ』

元ロイヤル・バレエ(RB)プリンシパルのデボラ・ブルと舞踊 評論家リューク・ジェニングによるバレエ・ガイド『ザ・ファーバー・ポケット・ガイド・トゥ・バレエ』が出版されました。デボラがRBで踊っている当時、 観に来てくれる友人や親戚に「このバレエはどういうお話なの?」「何についてなの?」「いつ創られたの?」と質問される度に、何かいいガイドブックはない か? と思っていたことがこの本を書くことになったきっかけだそうです。

ロマンティック・バレエ、フィリッポ・タリオーニの『ラ・シルフィード』(1832)からモダン・ポストモダン、クリストファー・ウィールドンの『トリス ト』(2002)まで79作品、舞踊史の教科書のように歴史順に説明されています。しかし教科書のように読んでいて眠くなってしまうようなものではなく、 とても分かりやすくリズムよく説明されています。
各作品の歴史的事実・背景、物語、そして舞踊史的分析・説明は舞踊評論家のリューク・ジェニング氏が担当。この本の一番の特徴は、デボラが担当している“ 舞台袖からView from the Wings”。これらの部分は、デボラがそれらの作品を踊ってきた一ダンサーとして、<その作品をどのように捕らえてきたか>、<どのように踊ってきた か>、<作品にどんな思い出があるか>などダンサーからしか捕らえることの出来ない角度で各作品についてのコメント・解説を加えています(全バレエ作品に 対してではありません)。タイトル・ロール(オデットやオーロラ)としての経験だけではなく、『ジゼル』のミルタや『ロミオとジュリエット』の街の女など 脇役から見た作品分析、それらの役の重要性についてなどとても興味深い解説です。『ドン・キホーテ』の解説の部分で、「…あるダンサーの急遽代役で踊るこ とになった日本公演でのキトリは私の中で最も満足した舞台だった…」とあり、その公演を観た時の感動がよみがえってきます。まさに舞台袖から舞台を見るよ うな一種独特な感情・雰囲気が伝わってくるようです。

デボラはRB引退後、ROH2(ロイヤル・オペラ・ハウス小劇場:リンブリー・スタジオ劇場とクロー・スタジオ劇場)の芸術監督として活躍のほか、彼女自 身の興味分野でもあるダンスの科学・医学的研究(ダンスサイエンス)にも力を入れ、『ダンサーズ・ボディー』というとても興味深いテレビ・シリーズを制作 (2002年9月、BBC2にて放送)。専門的学術分野として考えられているトピックをTV放送という形で多くの人に関心を持ってもらえるように紹介しま した。2003年にはBBCの一役員となり活躍しています。イギリスでもまだダンス、バレエ、オペラ・ハウス…と言うと特定の人々に親しまれているもの。 彼女の積極的な活動(ROH2での公演プログラム改革やイベント企画、TV放送、書籍の出版など)によって、より多くの人々のダンスに対する関心が高ま り、さらにイギリスのダンスが盛んになっていくことが期待されています。
『The Faber Pocket Guide to Ballet』
著者:デボラ・ブル&リューク・ジェニングDeborah Bull & Luke Jennings
出版社:faber and faber 出版: 2004年9月2日 ISBN: 0-571-20724-3