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磯部 桂 Text by Katsura Isobe 
[2004.08.10]

●バレエ・ボーイズ、TVシリーズ『振付への大まかな手引き (Rough Guide to Choreography)』

バレエボーイズ、ことマイケル・ナン&ウィリアム・トレビット率いるジョージ・パイパー・ダンス(GPD) は、一流振付家の作品を一流ダンサーが踊るという通常の公演形式に、自分たちの手によるリハーサル中のビデオ日記を組み込んだことにより、オリビエ賞受 賞。その存在を特別なものとした。(GPDについてさらなる情報は04年4月号参照

今 回の4回にわたるテレビシリーズ『振付へのおおまかな手引き』は、そんな彼ら一流ダンサーが、彼らにとって未開の領域、振付に挑戦する過程を描いている。 ウィリアム・トレビットによる新作『フォロー』は、2004年7月3日バービカン劇場にて、GPD十八番の二作品(クリストファー・ウィールドン振付『メ ズメリックス』とラッセル・マリファント振付『トーション』)と共に上演され、その模様はテレビシリーズ最終回で放映された。このテレビ4回シリーズは、 「大まかな手引き」シリーズの本と提携していることもあって、内容はバレエボーイズの作品作りを追うだけでなく、「振付」という人々には全くのブラック ホールである作業を、わかりやすく紹介するようなものになっている。

バレエボーイズはもともとバレエダンサーだけれども、GPDはコンテンポラリー・ダンスのカンパニーである。したがって今回の振付でも、ウィリアムはバレ エテクニックではないオリジナルの動きから作品を創ろうと苦戦する。下調べに二人はクリストファー・ウィールドン、ラッセル・マリファント、アクラム・ カーン(インド舞踊カタックを取り入れたコンテンポラリー・ダンス)、ウィリアム・フォーサイス、マーティー・クダルカ(ミュージックビデオ、ジャネッ ト・ジャクソンらに振付)、ジリアン・リン(キャッツ、オペラ座の怪人)といった一流の振付家にインタヴューをし、さらに多ジャンルのムーブメント、太極 拳、カポエラ(元々はブラジルの格闘技)を体験する。

これらをふまえて、3週間のリハーサル期間を経て創られた『フォロー』は、常に共に動くが全く接触はしない白い衣裳のデュエット(オクサナ・パンチェン コ、ユベール・エサコフ)の前半と、常に接触し離れない黒い衣裳のデュエット(モニカ・ザモーラ、マイケル・ナン)によって構成されている。前半のデュ エットはダイナミックで至近距離を保ちつつも絶対にパートナーに触れないカポエラから、後半のデュエットはゆっくりとした流れるような動きである太極拳か ら、イメージを借りたという。

観 客や批評家の反応としては、ウィリアムは自身のダンサーとしての経験から、人に見せられる作品は創ったけれども、やはり人の心を動かすような一流の作品を 創るためには更なる経験と時間が必要だろう、というようなものだったようだ。『フォロー』の音楽は、マイケルがコンピュータで創ったものを使用したが、音 楽は振付をパワーアップすることができると、本人たちが述べているように、もしもっと創作時間があれば、その辺りもっとつめて、発展できたのではないかと 思う。ダンス作品は動きのほかに、音楽、衣裳、照明、すべてが一つになって舞台上に現れるものであるのだから。

何はともあれ、ウィリアムが今回、振付というブラックホールに無防備にも飛び込んだ勇気は賞賛するべきものであると同時に、彼がいわゆるコンテンポラリーの振付方法をとり、それがテレビで放映されたことは、啓蒙的であるといえるだろう。
例えば、ウィリアムは振付家としてダンサーにイメージや指示を与えたが、動きそのものはダンサーが作り出したものである。これは、振付家が創ったステップ をダンサーが覚えて踊る、という伝統的な振付方法とは異なる。ダンサー自身が動きを創ることにより、動きはダンサーの個性によって裏付けられ、ダンサー個 々の最大の魅力が発揮されるのである。必然的にダンサーに求められる能力も変化し、このような振付の下では、瞬間的に振付家が何を求めているのかを理解 し、自分なりの解釈で返答できるダンサーが必要とされる。

一方、このような場合、振付家は実際に厳密にはどんな動きがダンサーから出てくるかわからずに指示を出しているのだから、物事に対して柔軟でなければなら ない。もしダンサーから出てきた動きが気に入らなければ、アプローチを変えなければならない。この辺りの葛藤も、番組で見ることができた。振付家は自分の やっていることに対して自信がなければならない、というのが一流振付家へのインタヴューで、みんなが口をそろえて言っていたことで、この自信は振付に対す る情熱と同義だろう。自信と情熱に基づいた上で、振付家はダンサーと共に作品を育んでゆく。「なるようになる」という姿勢のものとでこそ、豊かな作品は育 ち、最後には親離れし、独り立ちしてゆく。ウィリアムも初振付ではあるが、この辺りの微妙な振付家としての心理を体験していく様子が、この4回シリーズか ら見て取れた。

一観客として気になるのは彼が今後、振付活動を続けていくのかということだが、それはまさに彼の情熱次第だろう。振付家としての土台は既に持っているものの、このブラックホールでサバイバルし、一流と呼ばれるには、果てしない情熱が必要である、と見える。

(テレビシリーズ『The Rough Guide to Choreography』 チャンネル4で
6月19, 26日、7月3,10日放送。公演:7月3日、バービカン・センター)