ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

船引怜美 text by Remi Funabiki 
[2004.06.10]

●ロイヤル・バレエの「ディアギレフを称えて」で上演された
『ダフニスとクロエ』(アシュトン)『薔薇の精』『牧神の午後』『結婚』

バレエ・リュス創設者・芸術監督セルゲイ・ディアギレフ(1872-1929)が亡くなったのは今から75年前。ロイヤル・バレエはディアギレフの功績を称えてバレエ・リュスの作品から4作品を5月8日~25日までの8日間に上演しました。

『ダ フニスとクロエ』は1912年、ラヴェル&フォーキンのコラボレーションで上演されました。フォーキンはバレエの近代化、創造的な音楽の使用、物語を描き 出すダンスと究極の美の追求を切望し、ギリシャの田園叙事詩を元に『ダフニスとクロエ』を創作しました。その40年後、フレデリック・アシュトンはラヴェ ルの美しい叙情的音楽がコンサートホールで演奏されているだけではもったいないと、ロイヤル・バレエ(当時サドラーズ・ウェルズ・バレエ)に振付 (1951年、マーゴット・フォンティーン&マイケル・サムス主演)けました。

古代ギリシャをテーマにした作品や衣裳は、イサドラ・ダンカンの影響以降大変流行していたためにアシュトンは古代ギリシャ風デザインを非常に嫌い、その 時代設定を現代(1951年当時)にしました。時代を超越して信仰される神の存在とその神秘性、若者のエネルギーを提唱したと言われています。しかしこの 時代設定は物語や古代ギリシャのイメージを基にしたムーブメントとの間に違和感を覚えました。ジョン・クラックストンのモダンな衣裳:グレアム風のワン ピース、原色の色使い、チノパンとシャツ、などからは物語―音楽―振付―舞台美術との融合を感じることが出来ません。1994、96年に上演されたマー ティン・ベインブリッジによる古代ギリシャのイメージを強調したデザインは、作品の空想小説的神秘性を高め大変効果的と思われましたが(イギリス舞踊評論 家間では不評でした)、今回は1951年初演のクラックストンのデザインでの再演となりました。フェデリコ・ボネリ演ずるダフニスはとても純粋で上品な役 作りとテクニックが印象的でした。ジェイミン・タッパー演ずるクロエは情熱的ですがマーゴやシブレーに見られた透明感、純真さには欠けていたと言われてい ます。マリアネラ・ニュニアスは誘惑的なリカニオンを好演しました。

フォーキン振付『薔薇の精』は1911年に初演され、伝説となったニジンスキーの驚異的窓越えジャンプは、技術の誇示ではなく表現力に富んだ叙情的な薔薇 の精として語り継がれています。今回ロイヤル・バレエに新レパートリーとして加えられ、カルロス・アコスタの薔薇の精デビューは大変注目されました。しか しアコスタの跳躍、シェネ、アチチュード・ターンは妖精としての表現ではなく技術の誇示に見えてしまいました。しなやかなアームスにはアコスタの新たな魅 力を感じましたが、ダンサーの中でもとりわけ男性的で筋肉質な彼の身体からはニジンスキーのような両性具有的な魅力を感じることはできません。キエフ出身 のイヴァン・プトロフは細身な身体、繊細な表現力、そして美しい跳躍で見事に薔薇の精を演じたと新聞各紙で評されています。

ニジンスキー初の振付作品『牧神の午後』が初演された1912年、斬新な振付と演出はスキャンダルを引き起こし、どこまでが人間でどこからが動物か明確に 判断できないニジンスキーの魅惑的な演技は、観客に大きな衝撃を与えました。マーティン・ハーヴェイ演ずる牧神は動物的表現、神秘性に欠けていたことが大 変残念でした。すべてのダンサー(牧神とニンフ)の動きに重力感じることが出来ず、ドビュッシーの流れるような音楽とは対照的な静的・絵画的かつ非バレエ 的ムーブメントの意味の深さを見出すことが出来ませんでした。このプログラムでは他にアコスタ、ヴィアチェスラフ・サモドゥロフ、リカルド・セルベラの4 キャストが牧神を好演しました。

<ダフニスとクロエ>


<ダフニスとクロエ>


<薔薇の精>


<牧神の午後>


<結婚>

ニジンスカ振付『結婚』は、ディアギレフがストラヴィンスキー に作曲を依頼した1913年から10年後の23年に初演されました。ニジンスカはロシア農民の結婚式の儀式を描写し、結婚式を幸福の象徴や吉兆の兆しとは とらえず、花嫁と花婿の感情を抽象的に表現しました。静的な花嫁と花婿の動きに対し、非常に力強い跳躍、鋭角的な群舞(花婿、花嫁の友人)の動きが象徴的 です。花嫁の長い髪を手にポアントでパ・ド・ブレを続け、花嫁の髪を編み続ける友人の動きは非常に衝撃的です。バレエ・リュス解散後、1966年にロイヤ ル・バレエによってリバイバルされ、それ以来ロイヤル・バレエの定評のある作品の一つです。この公演でも、ダンサーすべてのエネルギー、アンサンブルの迫 力は印象的かつ感動的でした。

アリーナ・コジョカルとタマラ・ロッホは5月17日の公演より復帰が予定されていましたが、残念ながらこのプログラム中の舞台は実現しませんでした。十分 な休養と調整のための時間が必要とされたものと思われます。一日も早い復帰も望まれますが、完全復帰がより切望されます。(5月13日、ロイヤル・オペラ ハウス、ロンドン)