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船引怜美 text by Remi Funabiki  
[2004.04.10]
今月号から新たに、ロイヤル・バ レエのコベントガーデンの公演を中心に、その他の英国をベースにするバレエやコンテンポラリ ー・ダンスの情報、さらに世界の様々なダンス・カンパニーのロンドン公演などをご紹介します。

ロイヤル・バレエのナタリア・マカロワ版『眠れる森の美女』

1994年、当時芸術監督のアンソニー・ダウエルは、 ミュージカル『オペラ座の怪人』のデザイナー、マリア・ビョルンソンの、妖精物語の固定概念を覆した斬新な美術の『眠れる森の美女』を発表し、物議を醸し ました。ダウエルの後任芸術監督となったロス・ストレットンは、2002/2003年のシーズンに、『眠れる森の美女』のニュープロダクションを『ラ・バ ヤデール』の大成功で有名なナタリア・マカロワに依頼しました。

『眠れる森の美女』はロイヤル・バレエにとって最も重要な、歴史的作品です。さらにチャイコフスキー&プティパという、バレエ史上最も重要なコラボレー ションの代名詞ともいうべき作品です。この二人のお膝元で、史上最高と言われるマリンスキー劇場版『眠れる森の美女』を現役で踊ってきたマカロワの新演出 に、ダウエル版の挽回(ダウエル版はもう2度と観ることはできません。衣裳は2002年の夏にオークションにかけられ、セットは解体されました)、そして 更なるロイヤル・バレエの発展、失われがちである古典バレエの素晴らしさを尊重した作品を! という注目と期待が集まりました。ところがマカロワ版の 2003年3月の幕開きも、さまざまな物議を醸す結果となりました。イタリア人美術デザイナー、ルイザ・スピナテリのまるで砂糖菓子のような淡いパステル カラーを基調としたバロック調デザイン(衣裳も)、舞台美術の効果に欠ける様々な点、小さなキューピットを中心にしたマカロワの新演出、マリンスキー劇場 版を尊重した振付・演出は、ロイヤルらしさを欠く結果となりました。

2004年シーズン、最も人気の高いアリーナ・コジョカル&ヨハン・コポーが初日を飾り、大いに期待されましたが、コポーが2幕デジレ王子登場直後のソロ で足首を怪我するハプニングが発生。ちょうど舞台袖から公演を観ていた、オランダ国立バレエから移籍した新プリンシパル、フェデリコ・ボネッリが予定より 早いデビューを飾ることになりました。インディペンド紙のゾイ・アンダーソンはアリーナの愛らしいオーロラ姫、快活な切れのあるムーブメント、完璧なテク ニックを絶賛していますが、3幕を通じて成長していくオーロラ姫を見ることができなかったことは残念だったと指摘しています。

一方、タマラ・ロッホのオーロラ姫は1幕の16歳から3幕の結婚のシーンに、女性としての成長を彼女の音楽的、演劇的、そして振付の解釈によってはっきり と表現していました。1幕ローズアダジオ&ヴァリエーションでは、彼女の演劇性+完璧なるテクニック(バランステクニック、芯のずれのないピルエット)で 観客を魅了しました。イナキ・ウルレザーガは柔軟性のある跳躍、控えめながらも気品の漂うデジレ王子を好演。エドワード・ワトソンは女性のような柔軟性 (背中の)、そして男性のエネルギーあふれる跳躍で魔女・カラボスを踊りました。その他、ゼナイダ・ヤノフスキーの気品と優しさあふれるリラの精や、フロ リナ姫デビューを飾った崔由姫の長い手脚からまさに音楽が奏でられている軽やかで、上品な踊りが印象的でした。しかしブルーバードにキャストされていた、 佐々木陽平が怪我のため観ることができなかったは残念でした。オーロラ姫に予定されていた吉田都も腰の状態が思わしくないため、公演がキャンセルになって しまい、多くのファンにはショックでした。

昨年の世界初演から、演出・振付に多少の変更が見られましたが、決定的な作品としては弱い部分を残したまま『眠れる森の美女』は幕を閉じました。ロイヤル・バレエとして尊重されるべき個性の作品への反映、改善が来年以降の上演に期待されます。