ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2011.11.10]
From Osaka -大阪-

大幅に改定された森優貴のシューベルト『冬の旅』

振付:森優貴『冬の旅』、長尾良子『ホッとタイム』
貞松・浜田バレエ団
osaka1111b01.jpg 『ホッとタイム』撮影:古都栄二(テス大阪)

今年の貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル」は、団員の振付2作品。
最初に上演されたのは、長尾良子振付の新作『ホッとタイム』。兄弟である男性2人のピアノデュオ、レ・フレールの曲に振付けられた明るくコミカルな作品。瀬島五月、佐々木優希、芦内雄二郎を中心としたダンサーたちが、みんな表情豊かで活き活きとしており楽しめた。なかで若手の川崎麻衣が、長い手脚のラインを美しく活かして踊っていたのが印象的で、いつか彼女の白鳥などを観てみたいような気がした。
そして続いては、昨年初演されたものに大幅に手を入れて再演された『冬の旅 Winterreise』。経済的に困窮した上に病魔に冒され若くして逝ったシューベルトが、30歳という死の前年に、同じように若くして逝ったヴェルヘルム・ミュラーの詩に自らを重ねて創ったという曲(そのハンス・ツェンダー編曲版)に、森優貴が振付けた作品だ。森は、この貞松・浜田バレエで育ち、ハンブルク・バレエ学校を経て、現在ドイツのヴィースバーデン・バレエでダンサー兼振付家として活躍している。
少し前に、森にインタビューする機会があった時、再演という考え方はあまりしていないようなニュアンスのことを聞いた。この作品に限らずのことだと私は受け止めたのだが、「その時の気持ち、その時代に合わせて、創っていく。出演者が変わることもあるし……」と言った彼の言葉。そういえば、日本は昨年と今年で、随分変わっているような気がする、震災を筆頭にいろいろなことがあったから……。これは、だからこそ、(昨年創られた骨格は残しているものの)ほとんど新作のように創られたと受け取っていいかもしれない。

osaka1111b03.jpg 『冬の旅 Winterreise』撮影:古都栄二(テス大阪)

シューベルト自身を表すような旅人役は4人(武藤天華、堤悠輔、アンドリュー・エルフィンストン、川村康二)が順に踊り継ぐ、そこに影法師・道標といった意味のドッペルゲンガー(貞松正一郎、森優貴)が絡む。複数のダンサーが主役を踊り継ぐことで、誰がこんな絶望的な状況に陥っても不思議はない、これは“私”になるかもしれないと思えるつくり。この基本的なつくりは昨年から踏襲されている。しかし、全体が整理されメリハリも付き効果的な構成に変わっていて、かなり観客を引き込むものになっていた。ちなみに、これは2幕構成の数時間に及ぶ大作なのだが、古典の焼き直しではなく一から創る舞踊作品として、今これだけのものを創ることが出来る団体は、まだ日本に数えるほどあるかないか……という状態だと思う。それだけのものを創って、ダンサーのレベルも高く上演したのは、素晴らしいことだと言えるだろう。
ダンサーたちも昨年以上に良くなっていた。貞松正一郎は落ち着いた雰囲気で物語を押さえる役割を担っていたし、彼と対のように動く森優貴の方は、どこかこの世のものとは思えない不思議な生き物のような魅力。旅人それぞれも、純粋で悩み多き若者を好演した武藤天華、後悔が全身から溢れるアンドリュー・エルフィンストン、淡々と死に向かうような川村康二と、それぞれ“旅人”としての個性が活きていた。そして特に印象に残ったのは、2番目に登場した旅人の堤悠輔。彼の踊りからは、自分の無力を痛感する苦しさ、死に憧れながらも怖がるおびえ、格好悪さ、情けなさなどが痛いほど伝わってきて、私の心に強く大きく響いた。
ラストは死・・・かと思いきや、そうではなかった。死の道具、ナイフやピストルや縄をドッペルゲンガーの貞松が旅人の手から取り、失意の旅人(川村康二)の手を、少女(谷村さやか)がひいて、ゆっくりと前に進む。このラストは『冬の旅』としては、とても意外だ。でも、今、日本に生きる私たちにとって、どんなに失望することがあっても、とことん悲しんだあとには、また前に進めるかも知れない……と、たとえ舞台の上だけにせよ、そう思えることは、とても大切なように思えた。だから、この作品はプログラム冊子には再演となっているけれど、やっぱり今年の新作と言っても良いのだろう。
(2011年10月7日 神戸文化中ホール)

osaka1111b02.jpg 『ホッとタイム』撮影:岡村昌夫(テス大阪) osaka1111b04.jpg 『冬の旅 Winterreise』撮影:岡村昌夫(テス大阪)
osaka1111b05.jpg 『冬の旅 Winterreise』撮影:古都栄二(テス大阪) osaka1111b06.jpg 『冬の旅 Winterreise』撮影:岡村昌夫(テス大阪)
osaka1111b07.jpg 『冬の旅 Winterreise』撮影:古都栄二(テス大阪) osaka1111b08.jpg 『冬の旅 Winterreise』撮影:岡村昌夫(テス大阪)