名村空の繊細な感情表現に惹き込まれた貞松・浜田バレエ団『くるみ割り人形』お菓子の国ヴァージョン
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ワールドレポート/大阪・名古屋
すずな あつこ Text by Atsuko Suzuna
貞松・浜田バレエ団
『くるみ割り人形』お菓子の国ヴァージョン 貞松正一郎ほか:振付
現在、貞松・浜田バレエ団は3つのヴァージョンの『くるみ割り人形』のレパートリーを持っている。そのなかで、一番古くから上演されているのが、今回観た"お菓子の国ヴァージョン"だ。これは、少女クララ(名村空)がお菓子の国に招かれて、お菓子の国で最後のグラン・パ・ド・ドゥも踊る形。この前日には、"お伽の国ヴァージョン"が上演された(私はそのヴァージョンも何度か観ており、昨年も観た)のだが、こちらは、クララ(宮本萌)がお菓子の国に招かれると、お伽の国の女王(井上ひなた)とお伽の国の王(後藤俊星)がグラン・パ・ド・ドゥを踊ってクララを歓迎する。クララは魔法でパステルトーンのカラフルな衣装になって花のワルツの中心で踊るのだ。他にも、さまざまな楽しい工夫での違いがあるので、見比べるのが楽しい。
ちなみに、もう一つのヴァージョンは、2022年に新制作された大石裕香振付の『くるみ割り人形と秘密の花園』で、こちらは、両親を亡くして心を閉ざした少女の物語。2025年の上演はなかったが、また、今年2026年12月に上演される予定だ。一つのバレエ団が3つも『くるみ割り人形』のレパートリーを持って繰り返し上演しているのは、とても珍しく、この貞松・浜田バレエ団くらいではないだろうか。

『くるみ割り人形』お伽の国ver.
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お伽の国ver.
クララ:宮本萌、くるみ割りの王子:幸村恢麟
撮影:古都英二(テス大阪)
さて、今回の公演。様々な場面で客席から自然に拍手や手拍子が湧き、「このバレエ団の『くるみ割り人形』を、長年に渉って繰り返し観て、心から楽しみにしていらっしゃる方が本当に多いのだな」と実感した。
クララを踊ったのは名村空。ここ数年、主役を重ねる彼女は、『ラ・バヤデール』のニキヤの哀切極まる表現など、薄幸の美少女のイメージが強く印象に残るダンサー。彼女がクララをどんなふうに踊るのか、興味深く思いながら客席に着いた。登場は、クリスマスに浮き浮きした気持を持ちながらもはしゃぎすぎず、少しおとなしい女の子といったイメージ。そして、中盤、フリッツ(高瀬幸太郎)がくるみ割り人形を壊してしまったかも、というところでは、心が締め付けられる、とても繊細な表現で不安を表す。こんな感受性の豊かなクララも良い。
戦いの後、美しい王子の姿になった水城卓哉とのパ・ド・ドゥは、二人ともが安定した技術の上での喜びが会場中に広がる踊り。
2幕も見応えがあった。
まずディベルティスマンで、今回、もっとも印象に残ったのはコーヒーのシャンティ紀奈。武藤天華と田中惇をパートナーにしての、何かが奥に潜んでいるようなミステリアス、香りある踊りに魅せられた。また、花のワルツの中心、花の王女&花の王子は井上ひなたと大門智。井上は、柔らかく暖かい雰囲気で会場中を幸せな空気で包むような踊りがとても良い。そして、名村と水城のグラン・パ・ド・ドゥは主役の風格漂う晴れやかさ。品良く丁寧で、この時を、一瞬一瞬を楽しむような金平糖のヴァリエーションもとても良かった。
(2025年12月21日 神戸文化ホール・大ホール)

『くるみ割り人形』お伽の国ver.
お伽の国の女王:井上ひなた、お伽の国の王:後藤俊星
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お伽の国ver.
クララ:宮本萌、くるみ割りの王子:幸村恢麟
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お菓子の国ver.
金平糖の王女(クララ):名村空、フリッツ:高瀬幸太郎
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お菓子の国ver.
クララ:名村空、お菓子の国の王子(くるみ割り人形):水城卓哉
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お菓子の国ver.
クララ:名村空、お菓子の国の王子(くるみ割り人形):水城卓哉、雪の女王:松尾珠里、雪の王:小森慶介
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お菓子の国ver.
金平糖の王女(クララ):名村空、お菓子の国の王子(くるみ割り人形)
撮影:古都英二(テス大阪)

『くるみ割り人形』お伽の国ver. 雪の女王:名村空 撮影:古都英二(テス大阪)
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