ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.02.10]
From Nagoya -名古屋-

冬空に舞踊るダンサーたち~バレエアーベント

深川秀夫振付:『レ・ゼトワール』『顔のない女』『プラネット』 畑野ゆかり振付:『術(すべ)』『展覧会の絵』

  2002年よりBallet SPITZEを主宰している畑野ゆかりを中心に、東海地方のダンサーたちが結集したバレエアーベント公演が開催された。畑野の敬愛する深川秀夫の振付作品 をメインにしたプログラム。幼いころから深川のみらなず、彼自身も師事していたというノラ・キッス、ジャン・クロード・ルイーズにも学び、独・ライプチ ヒ・バレエ団でウベ・ショルツ作品などに出演していた畑野もオリジナルの作品を2作品発表した。
畑野の最初の作品は、2007年に「新進アーティスト in あいち」にて創作・上演した『術(すべ)~Die Methorde~』。愛知県が取り組んでいる若手芸術家育成事業のひとつである「アーツ・チャレンジ 新進アーティスト inあいち~舞踊部門」では、現役の振付家が講師となり、若手の振付家の創作過程を見守り、必要に応じてアドバイスを与えた(深川が講師を担当)。今回は 初演のダンサーを含めた7名の女性ダンサーが出演。バレエというあたりまえの術をベースに創作することをあらためて考えた作品だ。初演は実験的な小ホール で上演されたが、今回は中ホール。ダンサーの動きを間近でみることができた初回に比べ、ちょっと引いた客席から俯瞰してみることが出来るプロセニアムの舞 台では、複雑なフォーメーションや照明の鮮やかさが際立った。ただアンサンブルが不揃いだと、その美しさは半減する。個人的には、すぐ間近で、動きそのも のの迫力が感じられた実験的な小劇場版の方が、レビュー風のアバンギャルドな雰囲気を醸し出してよりユニークに感じた。
新作『展覧会の絵』は、ムソルグスキーの同名曲(ラベル編曲)にインスピレーションを得て、絵を描くように音楽のイメージを視覚化した作品。ヨーロッパ を代表する様々な振付家の作品を踊っていたという畑野の経歴とセンスを随所に感じることができた。1場では絵画から抜け出てきたかと思わせるようなロココ 調の華やかな衣装で佇む貴婦人が優雅に舞台を歩き回ったかと思うと、第2幕では一転、黒いマントを携えた現代的な女・小幡紀子が長身を生かしてコンテンポ ラリー風の動きを颯爽と踊り、足早に過ぎ去る。第4場「ある若い娘」では松本彩が伸び伸びと安定感のある踊りで客席を引き込み、次の「パヒヨン」では、 ショッキングピンクのトンボのような衣装で手足を震わせながら小刻みに踊る車田千穂が登場する。「農婦」ではアースカラーの衣装のダンサーたちが、腰を低 く落としたモダンダンス風の動きをみせると思いきや、「2人のエンジェル」では、コケティッシュな天使が登場。「陰陽」では南部真希と渡邉恭子が文字通り 対極となる踊りで印象づける。最後までマジシャンのようにテンポのある楽しい舞台を創りだす構成力や演出手腕には感心した。ただ個々の動きとなると、質的 な変化が乏しい場面も見られる。音楽だけでここまでイメージを飛躍させるその感性を生かし、振付そのものでもさらにオリジナル性を発揮することを期待した い。
また深川作品では、彼が振付を始めた1980年代の初期作品が並んだということで、深川の振付の真髄を目の当たりにすることができた。『レ・ゼトワール』 『顔のない女』『プラネット』が上演されたが、今回特に興味深かったのが、抽象的なパの連続に、表現主義的な香りが漂った「顔のない女」。モーツァルトの 音楽をベースにシャンソンを取り入れた大人の作品だ。社交界でその美貌に定評があった女性が、ある日鏡の中の自分を見て、若さを失ったことを知る。全身ブ ラックのタイツに短めのチュチュ、ポワント姿の女性たちが深川独特の素早くパを連ねて抽象的な造形美を創りだしていく。そこにマスクをつけて現れたのは、 人前に出ることをやめ、部屋に閉じこもってしまった「顔のない女」(畑野ゆかり)。口を半開き、少しゆがんだ顔、崩れ落ちそうな肩。前半の美しさとは対照 的なこの女には、ドイツ表現主義のヒロイン、マリー・ヴィグマンの姿を想起させられた。
アンティークの宝石のような衣装に細かいステップが多用された「レ・ゼトワール」、抽象美の中に個性的な表現が光る「顔のない女」、そして、星空の下、 ロッシーニの音楽にのって軽やかに舞い、女性の美しさとバレエの楽しさを追及した「プラネット」。3つの作品をとおして、深川のまた違った世界を知ること ができた。
(2009年1月24日 名古屋市芸術創造センター)