ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.01.13]
From Nagoya -名古屋-

越智インターナショナルバレエ『新・白鳥の湖』

 越智インターナショナルバレエは、2年ぶりに『新・白鳥の湖』に取り組んだ。この越智實の新プロデュースによる『白鳥の湖』は、2006年秋に、 念願のプロローグの場面を挿入するなど、いくつかの場面で改訂され大好評を得た作品。一度創りあげた作品をこうして再演していくことはとても大切なことだ と思う。
2日公演は、両日ともオデットとオディールはバレエ団のプリマ越智久美子が、王子は同バレエ団のおなじみの顔ワディム・ソロマハ、そして道化は新国立劇場から帰ってきた越智友則が演じ、バレエ団の最高のキャストを得て上演された。
『新・白鳥の湖』で付け加えられたプロローグでは、悪魔のロットバルトが花と戯れるオデットを白鳥の姿に変えてしまうところから始まる。本編に入る前に、 予めオデットが白鳥に変身させられる場面が描かれることによって、人間が白鳥になってしまっていることから始まる観客の違和感をなくすように工夫されてい る。そこには、よりわかりやすいバレエを創ることへの越智實のこだわりが垣間見える。
このプロローグの場面は、チャイコフスキーの音楽を言及することによって、物語の流れを論理的に解釈しようとしたロシアのブルメイステルによってはじめ られたといわれる。『新・白鳥の湖』の振付は、そのブルメイテスルの申し子というべきヴィオレッタ・ボートフ直伝だとのこと。つまり越智インターナショナ ルバレエ団を長い間振付けてきたコフトンとボートフ、そして越智の3氏のコラボレーションの集大成ともいえる作品なのだ。

 さて、第1幕の城の見える庭園では、王子のジークフリードの成人式の宴が行われている。王子のワディムはいつ見ても気品があり、まさにバレエノー ブルを体現したかのように颯爽と登場する。王妃の鳥居ゆきこは、王子に明日、婚約者を選ばなければならないと告げるが、王子は気が乗らない。そんな中、道 化を演じる越智友則が登場して、その場を盛り上げる。確かに彼のスピード感や切れのある踊り、そして弓のようにしなる跳躍には、その場を高揚させ、活気づ ける力があるから、道化のような役どころもとても似合っている。
第2幕の森のなかの湖のほとりは、王子が白鳥に姿を変えたオデットに初めて出会う場面。三羽の白鳥では、山本忍、樋口紗季、永谷朋未が、四羽の白鳥で は、渡辺梢、李栄喜、森絵里、桑波田直子といったバレエ団の中心メンバーが華麗な踊りを見せた。若手の成長を感じる場面だ。

 第3幕では王子のお妃選びの宴が始まる。ここで黒鳥の姿で登場する越智久美子は、第2幕のしっとりとした美しさとは全く別人のような気高さを見せ る。『白鳥の湖』には、白鳥と黒鳥とが別のダンサーで踊られる振付けもあるが、同じダンサーで見ると、同じ人間の2つの面を見ているような気持ちになるこ とも多い。特に越智久美子のようなベテランになると、テクニックは言わずもがな、この二面性の踊りわけをこそ、楽しみたいと思う。第2幕、第4幕ではロッ ドバルトに呪いをかけられた清楚な白鳥のオデットに対して、観客がつい感情移入してしまうほど健気に演じたかと思うと、第3幕では、王子を騙す黒鳥のオ ディールの妖艶で、冷やかな表情を明瞭に描きわける。テクニックと演技が一体になった踊りは踊りこまれたものだけがもつ特権かもしれない。

 そして第4幕では、王子の裏切りを白鳥たちに告げるオデットと、王子の心変わりを一緒に悲しむ白鳥たちの嘆きの踊りが幻想的なコール・ド・バレエ で繰り広げられる。『白鳥の湖』の解釈の違いは、最後の場面にもっとも顕著に現れるといってもよいだろう。越智版ではロッドバルトによって湖に引き込まれ そうになっているオデットを、ジークフリードが救い出し、真実の愛の力によって、悪魔に勝つというハッピーエンドだ。湖に消えた王子が、その波間からオ デットを抱えて登場するというラストシーンは、はらはらさせられた後だけに、大変なインパクトがある。プロローグから一貫した物語の展開に呼応するよう に、ハッピーエンドの結末も一見して観客に理解できるようになっているのだ。

 作品は生きている。改訂しながら、再演されることによって、さらに完成度も上がってくるものであるし、今回の舞台ではその成果をしっかりと見届け ることができた。また、アレクセイ・バクラン指揮によるNPO法人小牧市交響楽団によるチャイコフスキーの意図を継承した演奏も作品と美しく溶け合ってい た。
(2008年11月24日 愛知県芸術劇場大ホール)