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星野 聖子 text by Seiko Hoshino 
[2015.03.10]

平和への願いが込められた新しいロミオとジュリエット。清水健太と青木里英子のペアが秀逸

BALLET NEXT 10th Anniversary Performance
『ロミオとジュリエット 〜Misery〜』市川透:脚本・演出・振付

名古屋を中心に活動するダンサーで構成されるバレエカンパニーBALLET NEXTが、『ロミオとジュリエット 〜Misery〜』(全3幕)を上演した。これは、同カンパニーの芸術監督を務める市川透が1年半前から構想を練ってきた作品で、音楽や構成、登場人物はシェイクスピア原作の悲劇と共通する部分はあるものの、物語の内容は市川自身のオリジナルによるものである。市川は脚本・演出・振付を手掛け、どこにでも起こりうる悲劇を描いた。テーマは「争ってはいけない」。作品のサブタイトルには「誰か、この戦いをとめて…」とあり、平和を願う気持ちが込められている。

nagoya1503a_02.jpg 清水健太、青木里英子 撮影/中川幸作

物語の舞台はある自治区。幼少のロミオとジュリエットの間に恋が芽生えるところから始まる。内戦が勃発したため、二人は心に傷を残し、離ればなれになってしまう。成長したロミオは軍学校を経て将校になったが、内戦で孤児になったジュリエットはマキューシオ夫妻に育てられ、政府や軍人を敵視して反政府運動を行うようになる。政府軍と、それに対抗する反政府軍の間で新たな内戦が起こり、ロミオとジュリエットは敵対関係にありながら再会を果たすことになる。
従来の『ロミオとジュリエット』ではモンタギュー家とキャピュレット家の争いが描かれているが、市川作品ではそれが政府軍と反政府軍に替わっていたのが興味深かった。しかもロミオが軍人で、ジュリエットが反政府運動の活動家で剣を握るというのは実に意外だった。ロミオを演じたのは清水健太(ロサンゼルスバレエ・ゲストプリンシパル)、ジュリエットは青木里英子(BALLET NEXT・ファーストメンバー)が務めた。
全幕を通して、人々が争い合うシーンが多く演出され、争いの悲惨さがひしひしと伝わった。第1幕での政府側の者たちと民衆の戦いの様子は混乱そのものだったが、ダンサー一人ひとりの技術が高く、表現力も豊かだったため、場面を追いやすかった。女性が剣を持って男性を相手にダイナミックに戦うなど、女性がたくましく表現されていたのが印象に残った。
ジュリエットが潜入した仮面舞踏会で素性に気づかぬままロミオと再会し、その夜、二人は再度出会うことになる。場所は廃墟の教会。ここで、従来の『ロミオとジュリエット』ではバルコニーのシーンで流れる曲が使用された。清水と青木のパ・ド・ドゥが始まると、舞台は穏やかで清々しい空気に包まれた。二人の息はぴったり。再会できた嬉しさでいっぱいのはずだが少し恥じらいのある様子や溢れる愛情が込み上げてくる様子を、主役の二人は見事に表現した。そして、第2幕、3幕を経て物語は悲しい方向へ進んでいく。
上述の通りこの作品の主な登場人物はシェイクスピア原作に共通するが、原作には出てこない人物も存在する。その一人がベラという女性だ。女軍人(特殊部隊隊長)であり、ロミオの親友。軍学校時代から彼に想いを寄せている。この役を演じたのは亀田晴美(アン・バレエ・アカデミー講師)。亀田は、軍人として規律を重んじる厳格な雰囲気を出しながらも、秘かにロミオを想う女性らしい一面を見せる難しい役どころを好演。また、剣を持って戦う場面では鋭く切れのあるバレエを踊り、観客を舞台に引き込んだ。
約3時間にわたって上演された『ロミオとジュリエット 〜Misery〜』。人間同士が争う場面が頻繁に登場し、圧倒されるシーンも多かった作品だが、そこには平和を願うメッセージがたくさん詰まっていた。争うことの悲しさや虚しさ、そして平和を望むことについて、深く考える機会を与えてくれる舞台だった。
(2015年2月15日 日本特殊陶業市民会館フォレストホール)

nagoya1503a_01.jpg 仮面舞踏会 nagoya1503a_03.jpg 皇女ロザライン 安藤亜矢子
nagoya1503a_04.jpg 清水健太、青木里英子、碓氷悠太 nagoya1503a_06.jpg
nagoya1503a_05.jpg 『ロミオとジュリエット 〜Misery〜』撮影/中川幸作(すべて)