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すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2013.01.10]
From Nagoya -名古屋-

コントラストが鮮やかだった松岡伶子バレエ団創立60周年記念『あゝ野麦峠』

松岡伶子バレエ団
『あゝ野麦峠』松岡伶子:演出・振付

松岡伶子バレエ団創立60周年記念の公演が開催された。演目は、『レ・シルフィード』と、松岡伶子が1988年に発表したオリジナル作品『あゝ野麦峠』。
まず上演されたのは『レ・シルフィード』。11月24日、25日の二日間行われたこの公演、私が観た25日は、プリマが松本千明、詩人が中弥智博、プレリュードに大脇衣里子、ワルツに岡部舞(前日24日は、プリマ:山下実可、詩人:窪田弘樹、プレリュード:川本恵里、ワルツ:津田知沙)。
岡部のワルツは余韻の残し方がフワッとしてとても良く、大脇のプレリュードは大人っぽい憂いが魅力的。そして、松本と中弥のパ・ド・ドゥは、軽さを感じさせるリフトが空気の精であることをきちんと表し、幸せそうな笑顔が幻想の世界に優しく誘ってくれるようだった。コール・ド・バレエも含めてシルフィードらしく“空気”を感じさせる柔らかい動きができるダンサーが揃っていることを感じた。

nagoya1301a01.jpg 『レ・シルフィード』 撮影:むらはし和明 nagoya1301a02.jpg 『レ・シルフィード』 撮影:むらはし和明

そして『あゝ野麦峠』。副題は「ある製糸工女哀史」といい、原作は富国強兵の時代に製紙工場で過酷な労働条件の中働いた女工たちを書いた山本茂実のノンフィクション。映画にもなっているのでご存じの方が多いだろう。私は日本のものを題材にしたバレエというのは、一歩間違うととんでものないものになるので、とても難しいといつも思っている。まして『あゝ野麦峠』は、とてもシリアスな題材。どうなるのか、興味を持ち10年近く前にも一度鑑賞し、今回が二度目の鑑賞だ。その時も今回も、松岡の構成力、演出・振付の面白さに引き込まれた。

nagoya1301a_n05.jpg 『あゝ野麦峠』 撮影:むらはし和明

華やかな鹿鳴館の様子で幕を開け、その後ろには雪の厳しい野麦峠を越えて行く娘たちの列という対比から始まり、女工たちの糸つむぎの様子は大人数で幾何学的、ぴったりとしたタイツ姿で抽象的に表現される。50人の群舞が鮮やかに揃うのは圧巻だった。労働条件の悪い中、体を壊したみね(伊藤優花)が兄(森充生)に背負われ野麦峠で死んでいくというどこまでも悲しい場面で第1部が終わると、第2部は、明るい祭りの場面から。踊り比べのようにバレエの楽しさも見せるとともに、ひで(早矢仕友香)と検番見習いの山岡(碓氷悠太)の恋が描かれる。そして、その二人は戦争によって引き裂かれる──話の流れとしても、踊りの流れとしても変化を持って観客を引き込む。そんな構成の巧さに加えて、ダンサーたちがバレエテクニックの上に表現する力を持ってストーリーに引き込んでくれた。しみじみと良い作品だと思った。
作品を観ていて、この時代と今はもしかすると似ていないだろうか──そんな心配が頭をよぎった。多くの人を取り巻く労働条件のこと、鹿鳴館と吹雪く峠のような格差があるのではないかということ、戦争の足音は聞こえていないだろうかということ・・・。日本でバレエに親しむ人は鹿鳴館にいる人のように世間では見えているのかもしれない。だけど、本当のところはさまざまな人がいるだろう。こういったシリアスなバレエは日本ではまだまだ少ないが、社会を見つめた題材のものが、もっと創られても良いのではないかという気がした。
(2012年11月25日 愛知県芸術劇場大ホール)

nagoya1301a_n02.jpg 『あゝ野麦峠』 撮影:むらはし和明 nagoya1301a_n03.jpg 『あゝ野麦峠』 撮影:むらはし和明
nagoya1301a_n04.jpg 『あゝ野麦峠』 撮影:むらはし和明 nagoya1301a_n07.jpg 『あゝ野麦峠』 撮影:むらはし和明