ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田 恵子 text by Keiko Kameda 
[2012.01.10]
From Nagoya -名古屋-

希少の楽器オンド・マルトノとダンスのコラボレーション『プロメテウスの光』

オンド・マルトノのコンサートと鈴木ユキオのダンス公演『プロメテウスの光』
作曲・エレクトロノクス:伊藤美由紀/振付・ダンス:鈴木ユキオ 

愛知芸術文化センターの主催で、オンド・マルトノとダンスによるコラボレーション公演『プロメテウスの光』が上演された。この作品は「現代の新しい音楽に親しむ場の提供」と「地元にゆかりのあるアーティストとともに音楽とダンスのコラボレーション作品を創作し、愛知から発信する」という2つの大きな柱に基づいて企画された(参加アーティストの伊藤美由紀は愛知県立芸術大学の卒業者で、名古屋を拠点に活動している音楽家)。

nagoya1201b01.jpg 撮影:加藤光

愛知芸術文化センター主催のダンス公演では、ジャンル横断的な企画が定着している感もあり、当日はダンスファンにとどまらず熱心な音楽ファンも多く来場しているようだった。オンド・マルトノは電気を使った楽器としては世界最古といわれ、この楽器がコンサートで演奏されることそのものが珍しいが、アナログとデジタルの中間にあるような不思議な音色も独特である。

上演は、前半をオンド・マルトノとピアノによるコンサート、後半をオンド・マルトノ、ギター、クラリネットの演奏・エレクトロニクスによる音響+ダンスによるコラボレーションという2部構成だった。使用された曲は、この企画のために作曲された新作『プロメテウスの光』で、曲は<発火点>、<深淵>、<トワイライ
ト>、<琥珀化>という4つのパートから成る。プロメテウスは、人間に火を与えたとされるギリシャ神話の神だが、火は人間に文明をもたらしたともいえ、プロメテウスは闇の中にいた人間に明るい希望と輝かしい発展を与えたともいえる。現代は、プロメテウスの光によってはじまったのだ。
3月11日に発生した大震災では甚大な被害がもたらされ、その影響は多岐に及んでいる。その中で現在も多くの課題を抱える原子力は「第2のプロメテウスの光」と呼ばれることがあるそうだ。作曲を手がけた伊藤はこの作品に「プロメテウスが願ったであろう将来につながる可能性への想いを込めて」この作品タイトルをつけたと語り、振付・ダンスの鈴木ユキオは「太古の火、未来の希望が音楽であるとするならば、私たちの今という愚かさがにじみでるような身体の展示を行いたい」(それぞれ公演パンフレットより引用)と応答している。人間が太古に手にした希望と、未来へ向けての可能性・・・そのはざまで、身体はどんな現在を描くことが出来たのだろうか。 

nagoya1201b02.jpg 撮影:加藤光

作品は<発火点>というパートで、鈴木ユキオのソロから幕を開けた。関節がどこにあるのか疑いたくなるような稼働範囲を持った両腕の動きと、重心を保ちながらも留まることを知らない両足のステップ、その双方の動きが波のように行き来する体幹、そうした一連の動きがダンスとなって烈火の如き軌跡を描き出す。日常生活の中で見慣れたはずの人間の身体が、ここでは奇妙な見知らぬ生き物のように感じられた。
作品は音楽パートの進行に呼応するように展開。鈴木ユキオのソロに続いては金魚の女性ダンサー3名によるダンスだった。頭を激しく上下させたり、互いの身体を激しくぶつけあうように接触させたりと、彼女たちの身体には“怒り”が湛えられ、彼女たちのいる空間には混沌と緊張感が、見えないピアノ線が張りめぐらされるように満ちていた。見えざる糸・・・それは私たちの生活の中に潜んだ暗黙のルールのようでもあり、何度切っても永遠に続く苦悩のようにも思えた。闇の中に浮かび上がるダンサーの姿は、それぞれの孤独を抉り出すようで、怒りと孤独の尽きることのない痛みを感じた。
中盤から終盤にかけて、鈴木ユキオと金魚のメンバーが舞台上で同時に踊るシーンでは、彼らの身体の質感の違いが興味深かった。舞踏からダンスをはじめた鈴木ユキオと、バレエなどを経てカンパニーメンバーになった彼女たちの身体は、軸の取り方などが異なるようだ。三次元的な軸を持って空間を内側から切り拓いていく鈴木ユキオに対し、彼女たちは天と地を往復しながらエネルギーを蓄積していく。その双方が重なり合うことによって、カンパニー独自の空間や世界観があらわれてくるのだ。
過去の希望・未来への想いを込めた音楽と、ダンスで描いた現在形・・・それは、私たちが手にした文明(当然のように手にしている利便性)にむけて「本当にそうなのか?」という疑問を抱くことからはじめようと促そうとしていたのかも知れない。ラストシーンでは、鈴木と金魚のメンバーは、床に倒れた状態から膝をつき、身体を震わせながら立ち上がろうとする姿で幕を閉じた。希望と可能性のはざまで私たちはもう1度、自分の在り方について見つめ直すことが必要ではないだろうか。
(2011年11月29日 愛知県芸術劇場小ホール) 
演奏:市橋若菜(オンド・マルトノ),佐藤紀雄(ギター),大和田智彦(クラリネット)、ダンス:ダンスカンパニー「金魚」安次嶺菜緒,堀井妙子,赤木はるか

nagoya1201b03.jpg 撮影:加藤光 nagoya1201b04.jpg 撮影:加藤光