ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田恵子 text by Keiko Kameda 
[2010.01.12]
From Nagoya -名古屋-

あいちトリエンナーレ2010に向けてノンセクション・ショウケース

パフォーミング・アーツ・ガーデン
フォーラムセッション=康本雅子&DJ吉沢dynamite.jp『当日仕入れ弁』

ジャンルの異なるさまざまなタイプのダンスにふれることの出来る魅力的なイベントが愛知芸術文化センターで開催された。『ダンスアンソロジー』と題されたこのイベントは約1ケ月強の期間に、今話題のダンサーやカンパニ(平山素子、Noism1、康本雅子)を招聘して最新作を上演したり、参加アーティストやこれまでセンターで作品を上演したアーティスト(ニブロール)の映像や舞台写真などを無料で楽しむことができる。
愛知県では2010年に『あいちトリエンナーレ2010』の開催が決定しており、その中で舞台芸術は重要な役割を担っているが、コンテンポラリー・ダンスなどはまだ馴染みが薄いジャンルというのが一般的な印象。そのためこうしたプレ企画が数多く開催されているのだが、単に公演を羅列するだけでなく、市民との双方向での盛り上がりを大切に進められているように思う。今回ご紹介する『パフォーミング・アーツ・ガーデン』は、県内で活躍する多ジャンルの市民パフォーマーが集結してさまざまな作品を披露。バラエティの豊かさはア・ラ・カルトのような楽しさで、この地域の市民パフォーマーの層の厚さを改めて知る好機になっていた。来場者はもとより、参加した市民パフォーマーも大いに刺激を受けたのではないだろうか。

<第1部>

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会場は愛知芸術文化センター内の3カ所(大リハーサル室・愛知県美術館前の庭園・センター2Fのフォーラム)を使い、時間帯をズラして3部構成で行われた。
第1部は午前11時にスタートし、場所はセンター2階にある大リハーサル室で10組が参加。県内を中心に活動をするパフォーマーや大学や高校のダンス部の生徒たちが20分ほどの小作品を上演した。
特に印象的だったのは大学・高校のダンス部の存在。個人的な事情になってしまうが、日ごろ大学ダンス部や高校ダンス部の作品を目にすることがなかったため、彼・彼女たちの作品が非常に新鮮に感じられた。
中京大学の『蛇心 - 堕落への誘い - 』では、先ずダンサーそれぞれの身体能力の高さに驚かされた。部活動として日々身体と向き合い、真摯にレッスンを重ねているのだろう。若さに加えて身体表現に対する真剣な情熱が感じられ、誘惑をテーマにした作品だったが清浄な印象すら感じられた。動きは首での切り返しでメリハリをつけていくため、ストーリー展開がわかりやすい。今回拝見した大学ダンス部の作品はこうした鍛えられた若い身体がストーリーに沿った作品をわかりやすく上演していることが多かったように思う。
ストーリーに沿ったわかりやすさでいえば、旭丘高校の『ふしぎなポケット』では、ケーキやキャンディに扮したダンサーがまるでディズニーランドのパレードのように楽しく無邪気に踊っているのが微笑ましく、中村高校の『夏祭り』では彼女たちにとって身近であろう恋をテーマとした甘酸っぱさを祭りの踊りを取り入れて表現していたのが可愛らしく感じられた。後で知ったが、県内ではキッズダンスも非常に盛んなようで、子どもたちがヒップホップやジャズダンスを習っていることも珍しくないようだ。こうした動向がどのように時代を担う舞台芸術へと成長していくのかは大変興味深いと思う。

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RAY&小野浩輝は実験的な作品を上演した。RAYは愛知県出身のダンサー。今は県外に活動拠点を移しているため彼女のパフォーマンスは県内では久ぶりだったように思うが、サプライズなパフォーマンスは健在だった(以前、ライブハウスで火炎を吹いている彼女を見たときには度肝を抜かれた)。今回はパンツのポケットに忍ばせたピンマイクを手で触ったり、口の中に放り込むなどして意図的に作り出したノイズを実験的に使っているのが印象的だった。即興的要素が強い作品だったが、改めて即興の楽しみとは何だろうと考えさせられた。こうした駆け引きを楽しめる感覚はフィッシング(魚を釣り上げること)を楽しむ感覚に近いかも知れない。

<第2部>
第2部はセンターの10階にある愛知県美術館前の空中庭園前で開催された。この日はあいにくの雨模様で、残念ながら庭園を使ってのパフォーマンスは行われなかったが、1階から10階まで吹き抜けがあり(巨大なオブジェが吊り下げられ、エスカレーターが続いている)、庭園の前に置かれた暗青色のオブジェ(ベンチ代わりに腰かけている人をよく見かける)があるという設定は、空間的なおもしろさでいえば引けをとらない。開演は第1部の後半と重なっていることもあり、スタート直後はまばらだったが、後半には多くの観客でにぎわいをみせていた。バラエティ色を強く感じたのは第2部だったと思う。
生き音は音楽家たちがそれぞれ楽器を持ち、日常的な動作や会話を続けながらゆるりと時間を過ごすというパフォーマンス。型にはまった演奏やパフォーマンスを崩したいとの意図があったと推測するが、観客にとっては見所がつかみづらい様子。型をどこまで追及し、どこまで外すのか、バランスのむずかしさを考えさせられた作品だった。

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KURONOZは青いワンピース、黒ブチメガネ、真っ黒なストレートヘアなどが特徴の増殖(オリジナルのクロノ以外はカツラと伊達メガネを着用)インスタレーション。今回はi-phoneを駆使するクラフトワイフとのコラボレーションを行った。吹き抜けの下階エスカレーターから登場した彼・彼女たちを観客は10階からしばし見下ろしながら20名弱のKURONOZを見ている。エスカレーターを徐々に上がって近づいてくる様子は大量生産されていく商品が工場のベルトコンベアを流れてくるような無機質な存在に見えるが、10階に登場したKURONOZのひとりひとりを見ると全然違う個性の人物たちであることがわかり笑ってしまう(体格のいい男性もいた!)。手に持ったi-phoneの画面を観客に見せたり、大勢でひとりの観客を取り囲んだり、観客の間に自在に入り込んでのパフォーマンスはアメーバーやウィルスを連想させた。
二足歩行クララズでは、舞踏家である竹内聡の無駄のない鍛えられた身体と、はちきれんばかりの若さあふれる身体の女性ダンサー(2名)との対照的な在り方が楽しかった。サテン記事の青いドレス、床にまで届きそうなリボンはアニメーション作品『アルプスの少女ハイジ』に登場するクララだろうか。起立することの困難さを、精神的な事由によって自ら歩くことを拒んでいた少女に借りて表現するセンスには脱帽だ。

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川畑ひろこの『おひとりさままつり』はこれまでにない驚きを感じた。ロックアイドル歌手のような格好にショッキングピンクのボブヘアで、会場のどこからか駆け込んだ川畑はアイドル歌手の曲を口パク(?)で熱唱。動きも歌手のパフォーマンスそのものなのだが、1曲歌い(?)終わると風のように去ってしまった。潔いといえば潔いのだが、曲と離れたパフォーマンスも織り交ぜたものを見てみたいと感じた。こうしたパフォーマンスは劇場では目にすることも少なく、ショウケースタイプのイベントの独自なおもしろさだろう。
鈴村由紀は庭園を背に長テーブルを置き、真中に腰かけた。ちょうど観客に対峙するような位置関係だ。会場のざわつきをを落ち着かせるような集中力が鈴村にはみなぎっていたように感じる。日頃は冷静なダンサーだが、今回は冒頭から作品の中に入っていたようだが、それくらいの集中度を持たないと散漫な会場の雰囲気の中で踊るのは難しいと判断したのだろう。レゲエミュージシャンが被るような色調のニット帽(図柄は3色ほどが同心円を描いているような単純なもの)を顔にかぶせた鈴村。服装が黒の上下だったこともあり、帽子がまるで一つ目のように浮き出してみえる。座っているため表現の中心は上半身になるが、指先で何かを指し示すような動きが多く見られた。指さしは多くの場合意味性を強く持つ動作だが、鈴村の指さしは方向を持たず、まるで壊れたロボットのような仕草に変換されてしまう。高められた集中度とそうした動きの連鎖が生み出す不気味さは会場の中に真っ暗な穴をポカリとあけてしまったように感じられた。ラストシーンは庭園前の空間を見下ろす階段の上に駆け上がり、観客を見下ろしながら例の仕草をくり返した鈴村。意味を持たず不可解だった存在が、支配的な怖さを持つ存在へと変容したさまに彼女の空間構成のうまさを感じさせられた。
afterimageは劇場用に作成した作品を再構成。吹き抜けを中心に回廊になっている会場を駆け回ってうまく場の魅力を引き出していた。コンタクトインプロビゼーションをカンパニー軸となるメソッドとして取り入れている彼らは、観客とのコミュニケーションも作品の重要な軸になっている。今回の作品では観客の1人を選んで名前を聞き出し、その名前で動きをつくるなどして会場内を和やかな笑い声を生み出すのはさすがだ。2003年に名古屋で旗揚げされたこのカンパニーも現在は地域ダンス界の中堅になってきている。作品の再演や再構成を経験することも今後の彼らの成長にとっては大切なプロセスの1つといっていい。劇場以外の場所での作分創作を視野に入れて、今後に期待したい。

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<フォーラム・セッション>

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センター2階のフォーラムⅠでは、康本雅子とDJ吉沢が即興コラボレーションを行った。モデルとしても活躍している康本は、カーキ色のオーバーオールに体にフィットする白いティーシャツで登場。スラリとしたバツグンのスタイルは思わず見惚れてしまいそうだった。大根を持って登場したり、マイクパフォーマンスでは艶っぽい声で観客をドキリとさせるユーモアを差し込んでくるセンスが彼女らしいと感じる。恵まれた容姿、ダンサブルな身のこなしがそろっている彼女にとって完璧さ少し窮屈なのかも知れない。ユーモアを取り入れることでそうした狭苦しさをゆるめているのではないだろうか。今回は久しぶりのパフォーマンスだったと聞く。今後の躍進が楽しみなダンサーのひとりだ。
今回の『パフォーミングアーツガーデン』では地元で活動している市民パフォーマーに焦点をあて、さまざまなジャンルのパフォーマンスにふれる好機だった。観客、参加者ともに大いに刺激を受けたようだ。この刺激があいちトリエンナーレに向けて盛り上がりへとつながっていってほしい。トリエンナーレ開催は、現代アートの進展に寄与するものであるが、やはり地元の市民にとって栄養になることが大切だ。今回のイベントはこうしたことへとつながる橋渡しとなったのではないだろうか。
(2009年12月05日 愛知芸術文化センター)

「パフォーミングアーツ・ガーデン」
●地下2階大リハーサル室

1 THE PONDORS&めんどルズ「あの娘は帰らない」 他
2 伊東佳那子(中京大学)「Fragile mind」
3 田島志織・渡邊由子(中京大学)「八日目の蝉」
4 中京女子大学 ダンス部「蛇心ー堕落への誘いー」
5 中京大学 ダンス部「晴れた日と、日曜日の朝は…」
6 旭丘高校 ダンス部「不思議なポケット」
7 中村高校 ダンス部「夏祭り」
8 相馬秀美、田中三奈代、松橋真由子、和光理奈「Flower」
9 RAY&小野浩輝「au dela du bruit 」
10 魂宮時「untitled」
●10F美術館庭園の前
11 GAMA Improvisation(即興) 12 生き音Improvisation(即興)
13 KURONOZ 「クラフトワイフ・クロノズ/Craftwife+KURONOZ」
14 二足歩行クララズ
15 さらばじゃ倶楽部「春はあけぼの」
16 川畑ひろこ「おひとりさまつり」
17 鈴村由紀「untitled」
18 afterimage「ダンシがみたい!〜43.5℃のシャワー」
19 メロンオールスターズ「(株)電気サロン〜しびれる魂」

フォーラム・セッション
●2Fフォーラム

康本雅子&DJ吉沢dynamite.jp「当日仕入れ弁」

撮影:加藤光/南部辰雄
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。

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