ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田恵子 text by Keiko Kameda 
[2009.12.10]
From Nagoya -名古屋-

あいちトリエンナーレ2010プレイベント

パフォーミング街(どおり)『レトロ×コンテンポラリー』 
名古屋市・長者町地区

愛知県では、2010年に『あいちトリエンナーレ2010』が開催される。国際的な展覧会の開催に向けて準備が着々と進んでいるが、より地元での盛り上がりを高めていこうとさまざまなプレイベントも企画されており、美術館や劇場以外で市民が気軽にアートを楽しもうとの気分も漂いはじめている。今回レポートするのは、あいちエンナーレ2010のプレイベントの一環として行われた『長者町プロジェクト2009』(2009年10月10日~11月15日)の中のスペシャルイベント。同時多発的にさまざまなパフォーマンスが展開されたダンサブルな1日をご紹介する。  

名古屋市中区に位置する長者町地区は、江戸時代には城下の中心地として賑わい、戦後は日本三大繊維問屋街の一つとして発展した地区(他には東京の日本橋横山町、大阪の船場丼池筋)。現在では、錦通や桜通に面した現代的なオフィスビルなどに囲まれ、繊維問屋街としてのレトロチックな景観と雰囲気を残しているが、空き店舗なども目立ち、活性化を望む声もある。
今回の『パフォーミング街(どおり)』では古くから現存する長者町地区内のビルの屋上や荷役場、中庭、オープンしたばかりのギャラリーなど、個性豊かな場所でさまざまなパフォーマンスが展開された。観客は見たいパフォーマンスをタイムテーブルで確認しながら「はしご」感覚でパフォーマンスを鑑賞し、パフォーマンスの前後などには地区内の雑貨店を覗いたり、カフェで食事を楽しむなど街の雰囲気も味わっているようだった。
同時に数か所の場所でパフォーマンスが展開されたこともあり、残念ながら見逃してしまうパフォーマンスもあったが、「あのパフォーマンス見た?」と、友人同士で話すきっかけになったとの声もあり、このイベントが鑑賞者間のコミュニケーションも豊かにするという思わぬ副産物を生みだしたことは興味深いと思う。

めんどルズとTHE PONDORSは、愛知芸術文化センター開館15周年記念企画「愛知と青春の旅立ち」をきっかけに結成されたグループ。めんどルズはダンス・カンパニー「コンドルズ」の近藤良平、山本光二郎、藤田善宏らにダンス指導を、THE PONDORSは石渕聡に音楽の指導をそれぞれ受けるなどしている。めんどルズは固定メンバーを持たず、作品ごとにダンサーが集まって作品発表を行う。彼らはワークショップを重ねながらクリエイションしていくというスタイルをとっており、互いの出入りを自由にしているようだが、市民活動の中から立ち上がったグループとあって、ダンサーの身体能力にはバラつきがある。しかし、そうした差異を個性として作品の中に取り入れ、食感の異なる身体性が見ていて楽しい。今回はTHE PONDORSのオリジナル楽曲に合わせ、男女5人ほどがそれぞれのアイデアを1つの作品として編み上げていた。

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レンガタイルでおおわれた豊島ビルの正方形の中庭は、ぐるりと周囲を短く刈り込んだ植え込みに囲まれた小さなオアシスといったような場所だ。パフォーマンス前のその庭には、黙々とウォームアップをしていたのが魂宮時とパートナーの男性ダンサーがいた。袴のようにふくらんでいるが裾で絞られた不思議なパンツスタイルの彼らは、観客を意識しないような素振りで場に慣れているような雰囲気。パフォーマンス開始の時刻になると、正方形エリアの対角線上にじっと探り合うように立ち、しばらくの間はじりじりとした時間だけが過ぎて行った。探り合いが空間をつくっていく緊迫感は剣道や武道を見ている感覚と近いように思えたが、それがダンスに感じられたことがおもしろい。ストリートダンスを経てコンテンポラリーダンスに転向したという魂宮時。パートナーのダンサーが真っ直ぐに呼吸を合わせるタイプだとしたら、魂宮時はその張りつめ具合を冷静に読みつつ崩していくタイプ。その崩し方は、ときにプロレス技のような動きやガッツポーズのような仕草を差し挟み、ユーモアもある。端正な緊迫感が心地よい作品だった。

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afterimageは『農民一揆voi.4』(2009年10月愛知県芸術劇場小ホール)で上演した作品『ダンシがみたい!~つきあうなら誰!?~』を踊った。劇場用につくった作品が場所に合わせてどうリメイクされるのかを見ることも鑑賞者としては楽しみだが、今回初めてこの作品を見る観客はどう見るだろうか。
会場となったモリリン株式会社名古屋支店の1階荷受場は道路に面した間口がだいたい5,6メートルといったところで、奥に向かって空間が伸びている。当然ながら照明機器なども専用にはない状態だ。観客は入口から入った場所を正面として右側に入り込むようにL字型に座っているので、劇場よりは立体的な位置関係から作品を見ることになる。それを意識してか、見せる正面をときおり変えながら一列になって前から徐々にズレを見せる動きや隊列になってぐるぐる巡り歩くシーンなど効果的に見せていた。
今回の振付を行ったのは女性二人組のキリコラージュというダンスユニット。afteraimageと彼女たちの出会いがフレキシブルな作品を生み出したようだ。劇場を離れた場所でのさまざまなパターンで見てみたいと感じた。

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イベントのタイムスケジュールには、パフォーマーごとに場所と時間が明記されたタイムテーブルが掲載されていたが、唯一スタート時間が記載されていないパフォーマンスがあった。開催場所も「長者町界隈」としか記載がない。それが竹内聡の『二足歩行クララ』だ。
足早に歩いていた人がある店の前を通りかかったとき、ギョットしたように立ち止った。見てみると、その視線の先には全身を真っ白に塗り、モヒカン刈りのような金髪の髪型、薄青色のワンピースを着た竹内がしゃがみこんでいた。彼の腰には白いプラスチック製の鎖が巻きつけられていて、それは小さな木製の白い車椅子のようなものに繋がっている。見下ろす鑑賞者と目が合うと竹内はおもむろに動きはじめるが、BGMにはアニメ作品『アルプスの少女ハイジ』で使われた少女ハイジのセリフがくり返し流れている。「クララのバカ、意気地ナシ!」エコーの利いた音声での1フレーズが延々と続き、竹内はその声に責め立てられるように立ちあがろうとする。「なぜ立つのか?」「歩行するとは何か?」舞踏の根源的な問いかけを体現した作品ではあるのだが、このアプローチにはさすがに驚かされた。舞踏とハイジ・・・。すごい組み合わせによる作品だ。

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地区の活性化を望む声から、空き店舗などのスペースをギャラリーや雑貨店に転用するという動きが長者町では活発になっている。このパフォーマンスが行われたギャラリーも、こうした動きの流れを受けて最近オープンしたばかりだ。1階の雑貨店を通り過ぎて奥のエレベーターで2階に上がるとそこがギャラリー。
このパフォーマンスは途中から拝見したが、白い壁で囲まれたギャラリースペースに和装の喪服を着用した女性が静かにイスに腰をおろして朗読をしていた。傍らにはギターを即興で弾く男性。ダンサーのコマツアイは朗読と音に触発されるように踊っていた。とても静かな踊りだったので、思わず途中から入場したことを恐縮してしまったのだが、朗読が耳に届くようになってその静けさの理由がわかったように思えた。
朗読はある女性が幼いころに生まれたばかりの赤ん坊(女性にとっては妹にあたるようだ)を亡くしたときの手記のようなもので、若い母親の絶望と幼い少女の繊細な心境が描かれたものだった。ショートヘアで中性的な雰囲気も持つコマツだが、朗読に中に押し込められた母親の激しい絶望感や、自分への愛の欠乏と母への同情とが複雑に混じり合った少女の感情を抑制した動きで表現していた。人の内面は表面上では計り知れないが、コマツの踊りにも静かな動きの中に激しい感情が沈められているように思えた。しかし、コマツの中にある登場人物への穏やかな愛情が希望的明るさも感じさせ、鑑賞後には救われた気分になった。踊る者と踊られる者との距離感が、そうした希望を生み出していたのではないだろうか。

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東野祥子はダンスカンパニー・BABY-Qを立ち上げ、トヨタコレオグラフィーアワード2004で次代を担う振付家賞を受賞するなど、その高い身体能力と独自のセンスが注目されているダンサーだ。彼女のつくりだす舞台は映像・音響・照明などが独自に絡み合い、濃密で危険な世界を立ち上げる。今回は劇場を離れ、荷役場という日常的に使用されている空間をどう料理するのか興味があった。天井の蛍光灯が点滅し、カジワラトシオのサウンドが響きわたると、赤いヒールをはいた東野が登場した。彼女は首をうなだれたままで顔を見せず、じっと立っているのだが、それだけで不穏な気分が会場を満たしていく。荷役場には、通りに面した間口から左手にガラス窓のある事務所があり、階上へとつながるエレベーター、自動販売機などがあるのだが、東野は踊りながら2基あるエレベーターうち1基に転がりこんだ。暗闇に口を開いたエレベーター内の白々しい明るさが不気味さを強調し、エレベーターの移動を示す電光表示の点滅に鑑賞者は息をのんだ。東野は、先ほど乗り込んだのとは違う方のエレベーターから衣装を変えて再び現れ、切れ味のある動きと溢れ出す艶めかしさでこの場を東野の世界にすっかり塗り替えてしまう。

その後のパフォーマンスではカジワラトシオが登場し、透明な粘着テープで会場の柱と東野を蜘蛛が糸で獲物をぐるぐる巻きにするように結んだり、マイクで何かを言おうとする彼女の声をサウンドでかき消したりというパフォーマンスを展開。短い時間ではあったが、東野祥子独自の濃密な世界観が味わえた。シンプルな構成の中で際立つ身体性は、今後の彼女の新たな展開を予感させるものだったと思う。
イベントの案内にはなかったが、すべてのパフォーマンスが終わったあと、出演者の有志によってコラボレーションが行われた。場所はモリリン株式会社名古屋支店1階荷受場。見逃してしまったアーティストの姿も見られたり、楽しかった時間を思い出せたりと賑やかな時間となっていた。あいちトリエンナーレ2010では、ダンスや演劇といったジャンルも組み込まれるとのこと。今回のイベントを通して市民がパフォーミングアーツにふれ、その楽しさを知るきっかけになればすばらしい。また、地元で活躍するアーティストが互いの活動を見たり共同で場づくりをすることで、研さんの場となることも可能だ。今後の動向に注目したい。
(2009年10月31日 愛知県名古屋市長者町地区)

  • めんどルズ(ダンス)&THE PONDORS(音楽)/モリリン株式会社名古屋支店1階荷受場
  • 魂宮時(ダンス)/豊島ビル2F中庭
  • afterimage(ダンス)/モリリン株式会社名古屋支店1階荷受場
  • 竹内聡[二足歩行クララ](ダンス)/長者町界隈
  • コマツアイ(ダンス)、山田亮(key)、Rolling由里子(朗読)/ゑびすビルPART2 3Fギャラリー
  • 東野祥子(ダンス)×カジワラトシオ(サウンドパフォーマンス)/モリリン名古屋支店1階荷受場
  • 鈴村由紀、杉町明子(ダンス)×依田拓、松井アミ(音楽)/ゑびすビルPART2 3Fギャラリー
  • CAKRA DANCE COMPANY(ダンス)/ゑびすビルPART1 屋根
  • 田中三奈代(ダンス)×小林美穂(ダンス)/豊島ビル2F中庭

撮影:水野まゆみ、加藤光
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