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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.08.10]
From Nagoya -名古屋-

松岡伶子バレエ団、篠原聖一と下村由理恵の振付を踊る

松岡伶子バレエ団アトリエ公演 愛知県勤労会館
下村由理恵『Bizet Symphony』  
篠原聖一振付『Got Gershwin Tonight』
松岡璃映振付『マスカレード』
ワジム・ドゥレパ振付『Tarantella』ほか
出演:大岩千恵子、安藤有紀、伊藤優花、松原帆里、大寺資二、窪田弘樹、碓氷悠太、市橋万樹ほか

松岡伶子バレエ団のアトリエ公演は、研究生の日頃の鍛錬の成果の発表の場であると同時に、普段とは異なる創作作品への挑戦の場として、バレエ団の公演の中でも特に重要な公演となっている。バレエ団の優れたダンサーの能力を存分に生かして作品を創作できることは、日本の創作バレエの振付家にとっても、また貴重な機会となっているに違いない。これまで招聘されてきた石井潤、望月則彦、深川秀夫などは、すでに日本の創作バレエ界を担う重鎮だが、まだ無名だった島崎徹をいち早く登用して才能を開花させるのに貢献したのもこのアトリエ公演だ。

公演の前半では、バレエ団の中学生や高校生といった時代を担う若手が、『パキータ』『眠れる森の美女』『白鳥の湖』などの古典バレエの抜粋に取り組んだ。少し危なっかしい場面が見られるものの、こうした機会に少し背伸びをした作品に挑戦することも大切だと松岡は考えているのだろう。
バレエ団の振付家による『マスカレード』と『Tarantella』も小品ながら印象に残る佳作。ワジム・ドゥレパ振付の『Tarantella』はシンプルな動きながら音楽に呼応したスピード感溢れるシンメトリックな構成が特徴的。バレエ団が誇る、まだあどけなさの残る6名の男子ダンサーたちの溌剌とした、切れ味の良い踊りも小気味良い。
それとは対照的に松岡璃映振付の『マスカレード』は、神秘的な女性の危うい魅力を感じさせる。アイマスクをつけた22名の女性が青いドレスでポーズを決める。まるで絵画から抜け出ていくかのように、各々回転しながら向きを変える。シルエットの見せ方も上手く、バレエダンサーの動きをよく理解した松岡ならではの振付だ。

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そしてメイン・プログラムとなる第3部では、今年のゲストとして篠原聖一と下村由理恵の振付作品が登場。いずれも日本では数少ないシンフォニカルなバレエ作品を創作し続けている日本バレエ界を代表する舞踊家である。
下村振付の『Bizet Symphony』は、昨年夏に開催された日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」で発表された作品。わずか一年の間に再演できることになるとは、現在の日本の中では大変恵まれた作品といえるだろう。作曲家ビゼー唯一のシンフォニー『交響曲第1番ハ長調』を使った作品は、バランシンの『シンフォニー・イン・C』が有名だ。『Bizet Symphony』は感情を排除したバランシン的な抽象バレエというよりは、ダンサーの情感が音楽にのって運ばれていくような情緒的な作品に仕上がっている。明確な物語は読み取れないものの、たとえば、第1楽章の凛々しき碓氷悠太の姿は、表情のほとばしる洗練された踊りで、美しい女性たちに翻弄される王子にも見えてくる。
第2楽章では、大岩千恵子と大寺資二を中心に大人の踊りが展開されるが、大岩の存在感は圧倒的だ。海外で多くの公演をこなしてきたプリマの底力なのだろう。また大寺とのパートナーシップからは2人の信頼関係が伝わってくる。第3楽章は伊藤優花と海外から帰国中の市橋万樹に、バレエ団を支える小島沙耶香や佐々部佳代など、テクニックも十分なダンサーによるアンサンブルが秀逸。女性のバレエダンサーの作品らしく、やはり女性の美しさを引き出すことに長けている下村の振付作品だった。

篠原聖一がガーシュインの名曲にのせた『Got Gershwin Tonight』は、色鮮やかなビルの映像が背景に映し出された舞台上で展開される。ローラン・プティの洒落たショーを彷彿とさせる場面もあるが、日本のダンサーの体型にとって自然で無理のない振付、その上コケティッシュな動きも取り入れることで、最後まで飽きさせることはない。見ているものがそれぞれの風景を描いていけるような遊び心のある振付は、ダンサーにとっても刺激的に違いない。最後の盛り上げ方も堂にいっている。ダンサー全員でのコーダは、松岡伶子バレエ団の魅力を存分に引き出しながら、ガーシュインの音楽のほとばしりと踊りへの喜びに満ちていた。
(2009年7月19日 愛知勤労会館)

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