ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.06.10]

ボリス・シャルマッツと室伏鴻が磁場を踏んだベップダンス

別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」ベップダンス
<別府ワーク・イン・プログレス公演>
『Murobushi&Charmatz-磁場、あるいは宇宙的郷愁』
振付・出演:ボリス・シャルマッツ、室伏鴻
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4月11日から6月14日にかけて大分県別府市で開催されている別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」は、NPO法人BEPPU PROJECTを中心に、JCDNなどのNPO法人が協働パートナーとして加わり、現代美術だけに留まらない、芸術ジャンルを横断し、かつ地域の施設や住民とのかかわりの中から立ち上げられた市民主導型のプロジェクトである。 
このフェスティバルのダンス部門となる<ベップダンス>では、「インターナショナル・コラボレーション」「ダンス・イン・ベップ・シティ」「ダンス&ミュージック」を3つの柱として、別府ならではの5つのプロジェクトがディレクターの佐東範一を中心に企画された。

そのうち、5月24日に開催された『Murobushi&Charmatz-磁場、あるいは宇宙的郷愁』は、かつて賑わいをみせた観光港でのユニークかつ、極めて実験的な公演であった。
そもそも、国際的な活躍をみせるボリス・シャルマッツと室伏鴻、ベルナルド・モンテによる3年計画の日仏プロジェクトとして始まったこの企画。互いの故郷や芸術の活動拠点を訪ね、現在共同制作を行っている真っ只中。なかでも、別府では、ボリス・シャルマッツと室伏鴻の2人によるワーク・イン・プログレス公演となった。3年のちょうど半分、分岐点となる別府での公演は、完成度という意味では確かにまだ荒削りではあったが、その分、ごつごつした原石がぶつかり合うような刺激的な内容だった。
 

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会場は、船を待つ関西汽船のりば2階。やや横に幅広いアクティングエリアは、左からピンク、緑、オレンジ、青と鮮やかに色塗られた壁で構成されている。右手の扉から紫色のコートを着て登場し、壁にもたれるシャルマッツ。少し遅れてオレンジのコートに包まれた室伏が、緑の壁の向こうからゆっくりと現われる。
磁場を確かめるかのように、指差しながら空をまさぐるシャルマッツ。泳ぐように腕を振り回したり、口笛を吹いたり、肩から身体全体へと流麗に動きを連動させながら、徐々に中央へと進んでいく。一方室伏は、身体を硬直させ強い磁場を身体に掴みとったかと思うと、次の瞬間には体位を大きく変化させ、またそこに強いエネルギーを充満させる。シャルマッツの口笛に身体をこわばらせる室伏。中央で落ち合った2人は、身体を絡ませるように、一人が座ると、一方が立ち上がるというように、交互にその関係性を変容させていく。
ここまでの厳粛で濃密な空気が、突然切断される。中央に配されたテーブルの上にあるティッシュペーパーとラジカセ。その横には2脚の椅子。その椅子に腰掛けてはひっくり返る室伏。また、シャルマッツは客の靴をとってその中にティッシュを詰め、さらにその靴をパンツの中に突っ込む。ダンスというよりも日常的な行為、しかし無意味な動きが続いていく。さらに2人は顔中の穴にティッシュを詰め込み、目も耳も口も塞ごうと試みる。その奇妙な形相のまま、おもむろにカセットのボタンを押し、音楽に合わせてナンセンスな動きを繰り返す。シャルマッツは室伏を足で蹴りながら転がし、2人は去る。

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あらためて登場した室伏は、前半とは変わって、1m程度の鉄のパイプを6本持って、怪しい雰囲気で仁王立ちで観客を威嚇する。少林寺拳法のようにパイプを振り回しては、その棒を1本ずつ落としていく、さらに棒を転がしては、四つん這いで前に進む。野獣のようではあるが、、真っ直ぐな眼で鉄のパイプを覗き込み、それを吹こうとする姿には、まるで万華鏡を覗き込むかのごとく、宇宙を覗き込もうとしている室伏の眼差しを想起させられた。
ラストシーンでは、シャルマッツが銀色のシートをもって現われ、室伏の身体を包み込み、ガムテープで縛りつけた。客席に潜ませてあったマイクをとって叫ぶシャルマッツ。ノイズ音が激しさを増す中、マイクを腹に突き刺したり、互いの身体にのしかかったり、マイクを蹴ったりと、2人の行為の激しさも増していく。最後には、マイクもパイプも投げつけ、そしてシャルマッツは、コートの下のパンツを脱ぎ去った。
室伏はパンフレットでこう語っている。「事=生成は、ひとりでは成就しない。でも、わたしたちが生きること、同時に死ぬことひとりッきりだ」。
別府という場所を、この港を、そこからつながる世界を、そして共に空間を共有する室伏とシャルマッツは互いをありのままに感じようとしている。しかしそれでも、最後は自分自身と孤高のうちに闘わなければならない。生死へのどうしようもないもがき、苦しみ。そのどうしようもなく残酷で、しかし素晴らしいこの世界を、まさに剥き出しのまま提示したようなパフォーマンスであった。
このプロジェクトでは、映像作家も関わり、ダンスと映像によるコラボレーション・プロジェクトも進行、別府でも、温泉や市街地での撮影を行っているという。各地を回って磁場を感じながら進んでいく作品の進化形、1年後の本公演が楽しみである。
(2009年5月24日 別府国際観光港(関西汽船のりば2階))