ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.06.10]

コンタクト・インプロヴィゼーションを提唱したパクストン、日本初の企画展

スティーブ・パクストン『Body as Interimage』展
山口情報芸術センター
スティーブ・パクストン+フローレンス・コリン+バプティスト・アンドリアン『Body as Interimage』
new Clear+アレッシオ・シルヴェストリン『skinslides』
高嶋晋一『Pascal pass scale』
勅使川原三郎のビデオダンス『Friction of Time-Perapective Study vol.2』大脇理智+高嶋晋一『Airpockets vol.8』
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パフォーミング・アーツの東京一極集中が言われて久しいが、近年そのクリエイティヴィティやクオリティという面からみても、地方の活動ぶりが目立つようになってきたと思う。リハーサル会場を探したり、劇場を押さえたり、めまぐるしい制作スケジュールの中で予算的にも、スケジュール的にも厳しい都会の劇場に比べて、地方の劇場のもつメリットは少ないものではない。  
比較的ゆっくりとした時間と空間をもつ地方では、広い劇場やスタジオで滞在型のクリエーション(アーティスト・イン・レジデンス)を行い、様々な実験を試みることができる。地域の人々とのつながりの中から、若手の育成にも比較的容易に結びつけることができるなど、近年とみに地域ならではの特性が、様々な企画の中に活かされるようになってきていると感じている。
今回は、山口情報芸術センターと、別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」ベップダンスの<別府ワーク・イン・プログレス公演>を取り上げることで、地域の試みの一端を紹介したい。

スティーブ・パクストン『Body as Interimage』展が4月25日から8月10日まで山口情報芸術センターで開催されている。
アメリカのポスト・モダンダンスを牽引してきたスティーブ・パクストンは、1972年に「コンタクト・インプロヴィゼーション」を提唱したが、この彼の確立した即興形式こそが、ウイリアム・フォーサイスをはじめ、今日のコンテンポラリー・ダンスの発展の一翼を担ってきた画期的なダンス・メソッドなのである。
彼の身体思想を紹介することを目的としたこの一連のプロジェクトは、パクストンをぜひ日本に紹介したいとの思いをもった、美術作家の中谷芙二子ら各界の多くの関係者の努力で実現された。青森、東京、京都とシンポジウム、ワークショップ、公演などが開催されてきたが、ここで紹介する展覧会は山口情報芸術センターだけでの開催となった。
 

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四方の巨大なスクリーンに囲まれたインスタレーションでは、天井も合わせた5面それぞれに踊っているパクストン自身の姿や、多様なダンサーのドキュメント、CGによるダンス技法などが映し出されている。これらの映像は、パクストンが86年より身体の中心を探求するために取り組んできた「背骨のためのマテリアル」から展開されたもので、4年間にわたって、パクストンとの共同製作を行ったビデオアーティストのフローレンス・コリンとバプティスト・アンドリアンの住むベルギーやパリ、スペインなどで撮影されたものだ。
身体が限られたスペースの中でどのように反応するかを試みたこれらの実験は、さらにガラスの台の上で撮影されることによって、自分では見ることの不可能な身体の逆向きの目線からも捉えられている。
4月24日に開催された内覧会では、パクストン自身が解説を行っているが、丁寧に言葉を選びながら淡々と語っていくその語り口の中にも、フラットな関係性とナチュラルを通念とするコンタクト・インプロヴィゼーションの本質の一端を見たような気がした。「現代社会の中では身体も感性も閉じ込められたまま。身体が本来の姿を取り戻すことによって、感覚も耕すことができる」のだ、と彼は言う。
最新のテクノロジーを使って、最古の自然といわれる身体を考えていく試みは、すでにこの身体が「自然」ではなくなっていることを気づかせてくれるものだ。
彼の巨大なインスタレーションの中に入ると、空間を全面的に覆うスクリーンの映像のダンサーのように、自分の身体も少しづつ反応をしはじめ、ユルユルと身体を動かしたい気持ちになっていく。始めは立って観ている観客も、次第に床に座り込み、寝転がり、緊張感が緩み始める。身体はやはり正直だ。
 

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この展覧会と同時開催されていたのが、「インターイメージとしての身体」と題した企画展。企画展で発表されたのは、メディア表現によって新たな身体の可能性を試みている3つの作品だ。山口在住の大脇理智のnew Clearと元フランクフルト・バレエ団のアレッシオ・シルヴェストリンが共同製作で取り組んだ『skinslides』(サウンド:大友良英)、高嶋晋一による『Pascal pass scale』、そして勅使川原三郎のビデオダンス`『Friction of Time-Perapective Study vol.2』だ。
メインの展覧会に合わせて、このような多様な製作を企画できるのも、自由に使用できる会場や時間を問わず作品の創造を助けてくれる技術スタッフを抱えた、柔軟な地方の劇場ならではの試みだろう。
さらに、夜の9時からは、場所を変えて、大脇理智を中心とした地元のダンサーたちによるスタジオ・パフォーマンス『Airpockets vol.8』が行われた。この企画そのものは山口情報芸術センターと直接関わるものではないが、センターが主催するワークショップなどに集まったダンサーたちが、劇場の近くに自前でスタジオを借りて行っているこうした活動を、公の施設がバックアップしていくことの中にも、地域の拠点施設と若手アーティストたちの理想的なあり方の一例をみたように思う。

展覧会の内覧会終了後、美術作家の中谷芙二子や、パクストン、そしてダムタイプの高谷史郎などゲストや関係者がこの小さなスタジオに移動して、山口の若者たちの密やかなライブに立ち会った。
メインのパフォーマンスは、「インターイメージとしての身体」と題した山口情報芸術センターの企画展の出品者でもある大脇理智と高嶋晋一の2人が、半透明のアクリル板を両側から支え、互いの関係を推し量りながら、身体と空間を移動させていくという極めてシンプルなもの。このパフォーマンスは、先の展示new Clear+アレッシオ・シルヴェストリン『skinslides』の原点となった作品だとのこと。近年、美術と舞台にまたがって活動をしているアーティストが増えているように感じていたが、同じコンセプトで創作されたパフォーマンスと展示を眺めながら、アーティストにとっては、それがどのジャンルの作品なのかなど、むしろ手法の違いに過ぎないものなのだ、ということをあらためて感じさせられた。
数々の前衛的なパフォーマンスを試みてきた中谷やパクストンだが、一地方都市でのスタジオ・パフォーマンスに真剣な眼差しを送る2人を前にしながら、一瞬、ここがどこでいつの時代であるかさえ分からなくなる、そんな不思議な光景に立ち会うことができたこともまた、幸せな体験であった。
(2009年5月23日 山口情報芸術センター、スタジオいまいち)