ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2009.04.10]
From Nagoya -名古屋-

『真夏の夜の夢』『グラズノフ・スウィート』ほか、一夜かぎりの夢の競演、深川秀夫の世界

深川秀夫 振付『Ne Me Quitte pas』『 ダフニスとクロエ』『 グラズノフ・スウィート』『真夏の夜の夢』

 平成19年度名古屋市芸術特賞、第24回橘秋子賞特別賞受賞と、昨年度の栄えある賞をダブル受賞した振付家、深川秀夫の記念公演が開催された。本公演に合わせて、出演ダンサーのオーディションも開かれ、彼を慕う粒ぞろいのダンサーたちが多数参加しているものこの公演の見所のひとつだ。


幕開き、1990年の『Ne Me Quitte pas』は、深川秀夫による自作自演ソロ。   
ジャック・ブレルのシャンソンにのった深川が自然体で踊る姿が印象的。ふわりと空に舞いながらのピルエットやジャンプはとても軽やかで足音も聞こえない。「行かないで」と訳されたタイトルどおり、幻影を追いかけるかのように舞台を漂うベレー帽を被った粋な男。ロマンティック・バレエを髣髴とさせるその軽やかな姿が、いくつになってもダンスのスピリットを追い求め続けている深川の姿そのものに思えた。
『ダフニスとクロエ』は、ラヴェル曲を用い、2006年にナゴヤ・テアトル・ド・バレエのために振付けた全幕からの抜粋。海賊に連れ去られて傷ついたクロエを迎え入れるダフニスのパ・ド・ドゥ部分を、今や深川作品には欠くことのできない存在となっている大寺資二と渡部美咲が踊った。的確なテクニックで、多用されるリフトや素早い回転技も難なくこなす2人。導入のクロエの戸惑いから次第にダフニスに心開いていく様子を、さりげなく、しかし情感豊かに描き出す。ヴェテランならではの大人の表現力が加わった美しいパ・ド・ドゥだった。

  nagoya0904c03.jpg   nagoya0904c04.jpg

 続く『グラズノフ・ スウィート』(1985年初演)は、日本の数々のバレエ団によって何度も上演されている深川の代表作で、『ライモンダ』の音楽にのせて、女性たちの魅力を余すところなく引き出した名作。安藤有紀、伊藤優花、植村麻衣子、久嶋江里子、車田千穂、畑野ゆかりなど、地元バレエ団を代表するソリストたちによるアントレに始まり、彼女たちによるソロのヴァリエーションやワルツと、赤いチュチュに包まれたダンサーたちの眩いばかりの踊りが次々と展開される。ラストの出演者勢ぞろいによるコーダでは一層華やかに盛り上がりをみせた。

  nagoya0904c01.jpg   nagoya0904c02.jpg
nagoya0904c05.jpg

 最後は1993年初演の『真夏の夜の夢』。シェイクスピア原作の同名の物語にメンデルスゾーンの音楽を用いた定番の組み合わせながら、原作の持ち味である妖精たちによる幻想的な世界と、人間界で繰り広げられるドタバタ劇の喜劇性の対比が明瞭で、よりわかりやすい構成となっていた。
タイタニアの大岩千恵子、オベロンのアンドレイ・クードリャ、ヘレナの原美香、ライサンダーの大寺資二、ディミトリアスの高宮直秀、ボトムの幸田律など、名古屋と関西を代表するダンサー演じる配役たちが、森の中で人間味溢れる恋模様を展開。なかでもこの作品のストーリーテーラーの役割を担っているパックは重要な役柄。その期待に応えるようにパック役を演じた窪田弘樹のこの日の存在感は抜群で、当たり役だ。軽々と宙を渡り歩きいたずらを仕掛けていくパックのイメージそのままに、コケティッシュな魅力を振りまきながら、ストーリー展開の中でさりげなく跳躍や回転など大技を決めていく。その在り様には、深川の作品を踊りこんだダンサーとしての力量を感じさせた。
深川の代表作に触れながら、創作は振付家とダンサーの共同制作であること、繰り返し再演されることで、良作がさらに名作たらしめられることを、あたらためて感じさせられた一夜だった。
(2009年3月13日 中京市民文化会館オーロラホール)

  nagoya0904c06.jpg   nagoya0904c07.jpg