ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.11.10]
From Osaka -大阪-

大阪BABA「ソロ・セッション・プログラム」ダンスと音楽のコラボレーション


 一人ひとりの身体の混沌にアプローチすることで、現代の身体性を浮かび上がらせることを目的とした、大阪BABAプロジェクトの最終公演として「ソロ・セッションプログラム」が開催された。
 この公演は、場のもつ特性と現代に生きる様々な身体とを対置させることで、未来に向けた大阪の舞台芸術の可能性を探る試みとして、京阪「なにわ橋駅」内にオープンしたばかりの「アートエリアB1(ビーワン)」で上演された。まだ駅の建設途中の2006年から、すでに工事現場でのパフォーマンスなどを繰り返してきたというこのプロジェクト。大阪大学、NPO法人ダンスボックス、京阪電気鉄道株式会社の連携ということでも、今後も注目していきたい取り組みのひとつだ。

 大阪BABAの最終公演は、ダンスと音楽による3組の真剣勝負、コラボレーション型のセッションだ。出演は、関西のコンテンポラリー・ダンスの草分け的存在の森美香代&下村陽子、関西の寺田みさこと東京の大谷能生、そして東京からのゲスト出演となる白井剛&スカンク。この3組が、コンクリート打ちっぱなしの地下スタジオのような会場で、途中2度の休憩を挟み、順番に30分ずつパフォーマンスを無料で行ってしまうという、なんとも贅沢な企画であった。
 
 会場には3方から観客が鑑賞できるようにコの字型に椅子が並んでいる。正面観客席の後ろのPA席には、音楽家の大谷能生がサックスを片手に、コンピュータを操作。そこに身体を黄色のビニールテープでぐるぐるに巻きつけられた寺田みさこが登場すると、淡々と体のテープを取っては柱などに貼り付けながら、舞台の中に長方形のスペースを作っていく。
 舞台空間の中に自分の居場所を作った寺田は、まるで空間の位置、テープとの距離、自分の居場所を確かめるようにコの字に沿ってゆっくりと歩みを進める。時折鳴らされるサックスと、ライブエレクトロニクスの演奏。そんな時空間の中でひとつひとつの動きを丁寧かつ淡々と紡ぎ出す静謐さ漂う前半。それに対しテープをカットした後には、その緊張感をぶった切るような寺田の激しいダンスが展開されていく。終盤、大谷のサックスの音もかすれ、音にならない音、声にならない声が聴こえてくるようだ。胸の奥に痛みを感じるようなきわめて繊細で上質なパフォーマンスだった。
 

 続く、森美香代&下村陽子は、会場にシャボン玉やゴムボールなどを置いて、わらべ歌の世界を思い出させるような穏やかな空間を作った。ゆったりと全身を包み込むカラフルなワンピース姿でまるで双子のように登場する森と下村。
 森の後ろから下村は声を出し、その合間にチリーン・チリーンと鈴の音を響かせる。空間を揺れ動かすようにゆらゆらと身体を動かす森。そしてしばしの静寂のあと、森がセンターに積まれた木の葉の上で足踏みをし、空間を泳ぐように即興的に身体を動かしたかと思うと、声を出していた下村もダンサーと一緒に床に大の字を描いたり、激しく動き始める。2人が一緒にシャボン玉を飛ばし、観客も誘い込むと、さらに自由な空間は膨張していく。その場にいる誰もがすべてを許されてしまうような温かな時間。最後までシャボン玉が漂い続ける空間、懐かしい記憶が蘇るゆったりとした時間がそこにはあった。
 


 最後は、白井剛とスカンクによる濃密なセッションとなった。舞台中央にはギターとドラムセットが置かれている。そこに自転車の二人乗りをした白井とスカンクが楽しげに登場。マイクをもって、はじめは穏やかに、地下鉄や地球やエコロジーなどの話をする白井。しだいに声と同調するアクションも大きくなり、身体にマイクを巻きつけたり、マイクでドラムを叩きつけたりと、言動は激しさを増す。それに反応するのは、スカンクのギターの爆音と照明だ。ギターの音でかき消されるマイクを通して聴こえてくる白井の呻き声。白井は、音へと敏捷に反応するのはもちろんのこと、自らが楽器となって時空を支配する。体に打ちつけるマイク、さらに何度も何度も、身体を床に叩きつけては起き上がる。この秋もケージの音楽によるアルディッティ弦楽四重奏とのコラボレーションを行うなど、近年音楽とのコラボレーションの目立つ白井だが、もはやダンスと音楽という垣根を超えたかに思える白井の音楽的な身体にまたしても度肝を抜かれた。そしてそんな白井に極めて鋭敏に反応をし、場を共有したスカンクにも、完成された作品とは異なるこうした即興セッションに立ち向かうアーティストとしての強い意気込みを感じた。
(2008年10月25日 なにわ橋駅アートエリアB1)