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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.08.11]
From Nagoya -名古屋-

松岡伶子バレエ団アトリエ公演 深川秀夫バレエの世界

 アトリエ公演は、毎年ゲスト振付家を迎え、団員によるオーディションで、作品を創作している。ゲストや作品によっては、大抜擢されるダンサーもおり、若手ダンサーのチャンスの場ともなっている。今年のアトリエ公演のゲスト振付家は、愛知が輩出した名バレエダンサーで、世界的な振付家の深川秀夫。

 今回は名古屋市芸術特賞受賞と橘秋子賞特別賞のダブル受賞となったばかりの深川秀夫がこれまでの26年間で創作し続けてた作品の中から選りすぐりの5作品を上演した。
『ナタージムさん江』は、70年のヴァルナコンクールで知り合ったナターシャとワジム御夫妻のために創作した作品。松岡バレエ団の指導者で、毎年秋の定番となっている古典作品の振付家でもあるワジム夫妻がこの作品を見守るために、わざわざ暑い夏の名古屋へロシアから駆けつけたという。小学校高学年から中学生まで28名が参加、その若さには驚いたものの、作品の完成度はジュニア作品とは思えないほどの出来栄え。むしろ幼さの残る、か細いバレリーナの卵たちがチャイコフスキーの音楽で初々しく踊る様は、バランシンの手がけたシンフォンック・バレエを体現したスラリとした肢体のダンサーたちを想起させるほど。瑞々しい若さを効果的に活かした振付には新鮮な感動があった。

 続く『コッペリア』は、深川がコッペリウスを演じて評判となった全幕バレエ『コッペリア』より、グラン・パ・ド・ドゥ。この作品に選ばれたのは、バレエ団を代表する松原帆里と市橋万樹の2人。端正な顔立ち、しっとりとした情感を感じさせる松原と、近年驚くべき成長をみせ、すでに大人の男性としての威厳も感じられるようになった市橋。市橋の見せ場を心得たテクニックは健在、サポート力にも磨きがかかっていた。コミカルで滑稽な『コッペリア』というよりも、清楚ながらも大人の味わいを感じさせるパ・ド・ドゥとなった。

『ラフマニノフ・コンチェルト』は、高校生による作品。ラフマニノフのピアノ・コンチェルトに合わせてスピーディーな動きが次々に展開していく。確実なテクニック、若さはじけるエネルギーに突き動かされるように深川の難しい振付をたんたんとこなし、一糸乱れぬアンサンブルを見せる。バレエ団の今後を担っていく次世代のダンサーたちによる華やかな競演となった。

『ホフマン物語』は、オッフェンバックの唯一オペラ歌曲を使って87年に深川が全幕バレエ化した作品より、「アントニアの場」を抜粋した。病弱な歌姫アントニアには、バレエ団のプリマの伊藤優花、その父には森充生、ホフマンには大寺資二、謎の人物に窪田弘樹が扮した。魔法をかけられて歌い続け、最後には死にいたる伊藤優花が、この魅力的な女性を熱演。これまでの清楚でしとやさが際立った踊りから、人間の内面を全身で表現する情熱的な踊りへと飛躍を見せた。彼女を取り囲む男性陣も手堅く、印象に残る作品だった。

 ラストを飾ったのは、深川の代表作で、グラズノフの四季にのせた『ソワレ・ド・バレエ』。夜の煌く星空の下で、バレエ団のキラ星のようなダンサーたちの踊りが繰広げられる。どの場面もそれぞれのダンサーが生かされていて、女性ダンサーを美しく見せることに長けた深川の力量を感じた。特に、長身の大岩千恵子の肢体を十分に際立たせた踊りには、大人のダンサーとしての艶やかさもプラスされており、深川作品の魅力を十二分に伝えていた。また、この作品でも、大寺、窪田、碓氷、ワジム、市橋と、優れた男性ダンサーを多数かかえた松岡バレエならではの、男性のアンサンブルが際立っていた。
(愛知県勤労会館、2008年7月20日)

松岡伶子バレエ団アトリエ公演 深川秀夫バレエの世界
愛知県勤労会館、2008年7月20日
振付:深川秀夫
『ナタージムさん江』
『コッペリア』より、グラン・パ・ド・ドゥ
『ラフマニノフ・コンチェルト』
『ホフマン物語』より「アントニアの場」
『ソワレ・ド・バレエ』