ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2008.02.11]
From Nagoya -名古屋-

川口節子バレエ団公演『眠れる森の美女』全幕

 誰もが知っているペローの「眠り姫」の物語をベースに、マリウス・プティパとチャイコフスキーによって創作され、1890年に上演された『眠れる森の美女』は、バレエ関係者ならば誰もが憧れる夢の作品だ。今回、絢爛豪華で上演が難しいとされるこの古典バレエに、創作を得意とする川口節子が挑むというのであるから、果たしてどんなバレエ作品になるのか、多くの観客が見守る中、舞台の幕が上がった。

 プロローグ、舞台の中央にある大きな城門が開くと、17世紀を髣髴とさせる宮廷の人々が、生まれたばかりのオーロラ姫の誕生を祝っている。久田加奈子演じるリラの精に続いて、優しさの精、元気の精などのオーロラに素敵なキャラクターを授けるパ・ド・シスの踊り。長身でスタイルの抜群の久田は、正統派のバレリーナらしく、物語の進行のリード役として、終始安定感のある踊りを見せる。6人の妖精は、バレエ団の次世代を担うダンサーたちが好演。そこに、公門美佳演じるカラボスが現れる。誕生会に招かれなかったカラボスとその手下4名(沼田眞由みほか)の登場は強烈で、黒ずくめの悪党の様相を呈している。近年では、男性がコミカルに演じることの多いカラボスを、コンテンポラリー系の女性ダンサーが演じていることがユニークさを際立たせ、彼女たちが舞台上を右往左往して駆け回りながら見せる流麗かつモダンな動きが、古典的なテクニックで振舞う他の登場人物たちとの確執をより明瞭なものにしている。特に、近年コンテンポラリーで活動することの多い公門の繰り広げるスピーディーなバレエテクニックの見せ場は、この後起こる事件の暗雲を象徴しているようで極めて効果的だ。

 第1幕は、舞台前方で遮られた紗幕の前で進行。針に刺されて死ぬとのカラボスの予言を案じた王が禁じた針を持つ村娘が3名ずつ、可愛らしくコケティッシュな動きで編み物や刺繍をしながら登場。村娘のリズミカルな踊りを前に、紗幕の後ろでは、バレリーナを目指す同じく3人の少女がひとりずつバレエのレッスンに励んでいる様子がシンクロしていき、場内と場外の時間の経過を横軸に、ここでもオーロラ姫と村娘の立場の違いがコントラストになっている。
 待ちに待った桐村真理演じるオーロラ姫の登場。すらりとした肢体、端正な顔立ちの桐村に、気品溢れるオーロラは相応しい。カラボスから受け取った花束の針に刺され、倒れる16歳のオーロラ。城中の人々も100年の眠りにつく。続く第2幕では、デジレ王子(高岸直秀)が登場し、船に乗ったリラの精と共に、ゆっくりとオーロラの城に近づいていく。船の移動が100年の経過を印象づける効果的な演出だ。門の前でのカラボスと王子の対決でも、川口は、天井から降りた蜘蛛の巣状の幕をリラの精が切り裂くと、カラボスが敗れ、オーロラの眠っている城内になるという巧みな演出を見せた。

 第3幕の王子のキスで目を覚ましたオーロラとデジレ王子の結婚式は、数ある古典バレエの結婚式の中でもとりわけ華やかな場面だ。お祝いをするのが、やはり、赤頭巾や長靴をはいた猫といったおとぎ話の主人公たちというのも粋だが、川口版でも沢山の妖精と物語の主人公が駆けつけて、楽しい踊りを披露した。とりわけ、白い猫を踊ったゲスト出演の中谷友香と、パートナーの長靴をはいた猫役のジャスティン・プロスコットの踊りは秀逸。昨年よりKバレエカンパニーに所属して、よりシャープで洗練された動きを見せるようになった中谷は、可愛らしくもコケティッシュな白猫そのままに、弾けるような踊りで舞台に彩を添えていた。ほか赤頭巾(桑嶋麻帆)と狼やシンデレラ(川本知枝)とフォーチューン王子(北川優佑)、フロリナ王女(高木美月)と青い鳥(ジェイミー・ロドニー)など、さすがに創作に手馴れた川口の振付とあって、どのキャラクターも絵本から飛び出してくるように生き生きとしている。
 古典バレエの構成をきっちりと踏襲しながらも、随所に川口らしいユニークな演出や動きをちりばめ、美しくも現代的な舞台を創り上げた。また、中部フィルハーモニー交響楽団が、色彩豊かなチャイコフスキーの名曲を奏で、華やかな舞台を盛り立てた。
(2007年12月26日 愛知厚生年金会館)