ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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亀田 恵子 text by Keiko Kameda 
[2007.12.10]
From Nagoya -名古屋-

岡登志子(ダンス)&高瀬アキ(ジャズ・ピアノ)即興デュオ

 開館15周年を迎えた愛知芸術文化センターが記念事業のひとつとして、岡登志子(Ensemble Sonne)と高瀬アキによる即興デュオを開催した。
 公演は劇場ではなく”リハーサル室”という、ちょっと変わった場所での上演。ピアノを置いたスペースと、ダンサーが踊る横に長いスペースを、パイプイスの列が両サイドから囲むように配置したシンプルな空間である(このリハーサル室は地下にあり、閉鎖的で密封された空間だが、床に白いリノリウムを敷くことで、印象が重苦しく深刻になり過ぎないよう配慮されていた)。ダンサーもピアニストも、飾り気のないこの場所では、呼吸の1つ1つ、細かい動作の1つ1つまでもが、観客の視線にさらされることになる。隠される場所がほとんどない空間の中でのパフォーマンスは、良く言えばそれぞれの魅力をストレートに伝えられるが、逆にいえばそれだけの魅力を備えていなければ、そこに立つことは非常に厳しい場所であるともいえる。

 岡登志子は”Contact Performance(コンタクトパフォーマンス)”=”身体によって創り出される空間が、既に在る空間と<コンタクト=出会う>し融合することによって新しい空間が生まれる”という考えを掲げて作品をつくっているダンサー・振付家である。彼女の手にかかれば、劇場ではない場所をダンスによって観客と出会わせ、まったく違う場所へと変えることが可能だろう。

 印象的なワインレッドのトレンチコートに身を包んだ姿で登場した彼女の動きの1つ1つは、ごく日常的な動きのようにシンプルだが、不思議と惹きつけられる魅力を持っている。自分の身体の奥深くを見つめているような静謐な時間がそこにはある。血液の流れのように、動作への意識が指先の細やかな場所にまで行き届いていく集中力と、体温のぬくもりが感じられる。イスに座り、首を上下に振る動作をパターン化しながらの移動や、誰かの視線を気にするようにくり返される同質の動きから、女は1つのことについて脅迫的な想いを抱いているようにも見える。また、自らの独白に耳を傾けるような孤独な空気から、女が自分の部屋の中で空想に耽っているような情景も浮かんでくる。今日という1日をふり返り、彼女の胸に呼び戻される記憶は何であろう。観客たちは、そんな女の姿をそっと部屋の外から垣間見ている傍観者のようである。


 ドイツを拠点に、国際的な活躍をしている高瀬アキは、即興音楽シーンでその実力が高く評価されている日本人としては希少なピアニスト。鍵盤から弾き出されるキレ味の効いた音は、世界中で絶賛されていることを証明するにふさわしい絶妙な音色だ。今回のデュオは、岡登志子がドイツ在住のときにテレビで演奏している高瀬アキを見かけたことがきっかけになっているという。岡登志子から、高瀬アキへと即興デュオの提案がなされ、実現した公演。高瀬アキは、岡登志子の作品世界について「自分にはない美しいものを持っているダンサー。人によって求める美しさは違うが、ただそこ(美しいもの)を求める姿勢が大切。」(アフタートークより)との思いから、岡登志子との即興を決めたという。互いの信頼とリスペクトに支えられた関係があればこそ、即興という表現が可能になるのだろう。
 後半、ピアノの弦にばらまかれたピンポン玉がポンポンと音に弾かれ、高瀬アキと岡登志子がユーモアにあふれた言葉を交わしあうシーンでは、客席から笑い声もおこるなど微笑ましいコンタクトが生まれた。ヴィジュアル化された音=弾むピンポン玉によって、トレンチコートの女(このときにはコートは脱ぎ去っている)は、ようやく他者との関わりに希望を取り戻しはじめたのかも知れない。淡い期待の軽やかさが、前半の内圧的な世界を更新していくようで、ラストシーンはさわやかな印象で幕を閉じた。

 この公演の照明は岡登志子が主催するEnsemble Sonneとは長い付き合いなるという岩村原太によるが、驚いたことに当日の午後に軽く打ち合わせただけで、ライティングの内容は、ほぼ即興だったという。「見えない灯り、ステキな灯り」にしようと心がけたという岩村原太の照明は、やわらかく”色が踊り出すような”自然なライティングで、作品世界にそっと寄り添うやさしさにあふれていた。
 一度限りで再現不可能な”即興”の魅力。それは舞台に立つ/支える人々と、客席に座る人々との”出会い”である。偶然の出会いの中で交わされる、互いの”想い”もまた”出会い”であろう。重なり合う、一期一会の魅力。幸福な出会いのコラボレーションが”即興”なのだ。
(2007年11月6日、愛知研芸術劇場大リハーサル室)