ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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桜井 多佳子 text by Takako Sakurai 
[2007.09.10]
From Osaka -大阪-

第49回波多野澄子バレエ研究所生徒公演

 兵庫県芦屋市を本拠にする波多野澄子バレエ研究所の生徒公演。幼児科の生徒たちも出演した、いわゆる発表会だが、見ごたえたっぷりのプロ作品も上演された。
 井上勇一郎と井上優香が踊った『ACROSS』は、洗練されたコンテンポラリー・ダンス。
 クラシック・バレエの技法を基本に、モダンな動きが合わさっていて、アクロバティックなリフトも、動きの流れのなかに盛り込まれている。自然にドラマを感じさせる構成の、とても知的な作品だが、「頭でっかち」になることなく、あくまで動きで見せていた。優香の都会的で野性的な個性が生き、坊主頭の勇一郎は、どんな動きにもドラマを感じさせる。構成・振付の井上勇一郎は、同研究所出身で、ジョン・クランコ・バレエ・スクールを経て、ドイツでダンサーとして活躍後、カナダ国立バレエ学校の教師課程で学び、現在、トロント・ダンス・シアターに在籍している。
 この日のメインプログラムは、『ジゼル』~ダイジェスト版。アダンの音楽を用いた深川秀夫のオリジナルだ。前奏部分で登場人物が舞台に現れ、バチルドとアルブレヒト、アルブレヒトとジゼル、ジゼルとヒラリオンらの人物模様を示唆してゆく。説明調ではなく、映画の洒落たタイトルバック風で、わかりやすく、かつ、自然に観客を作品に誘っていった。「ダイジェスト版」とあるとおり、踊りも登場人物も大胆にカットがなされていて、バチルド姫も一人(公爵や付き人なしに)で現れる。また舞台美術もシンプルで、ジゼルの家屋も垣根のようなセットで示されていた。だが、要となる踊りは、もちろん省略されていない。同研究所出身で、現在アメリカのサラソタ・バレエ団プリンシパルの河島真之は、村人の素朴さを感じさせながら、マナーよく、ペザントを踊っていた。ジゼル役の藤井真理子は、技術には不安定なところがあるが、深川の振付を忠実にこなしていて、その一途さが、ジゼル像を作り上げていたともいえる。
 深川版『ジゼル』の大きな特徴は、第一幕と第二幕が続いていることだろう。通常、ジゼルの死で第一幕は終わるが、深川版は、ジゼルと彼女に寄り添い泣き叫ぶベルタ(ジゼルの母)だけを残した舞台に、ミルタが現れる。彼女は、まずベルタを去らせる。そしてジゼルは、無表情のまま身体を起こし、つま先立ちで舞台から消えてゆく。深川が言うところの「昇天」。確かに、魂だけの存在になったジゼルをそこに感じることができた。
 ロマンティック・バレエの名作「ジゼル」は、様式美に彩られた重厚な作品であり、プロのバレエ団でも上演には、よほどの水準が求められる。そのことを十分に理解している深川は、「ジゼル」の本質の重厚さを保ちつつ、生徒たちでも構築できる作品をつくりあげていた。ウィーリーたち(コール・ド)も、「身体のライン」をそろえて流麗な動きを見せるというよりは、スピーディな動きで見せる。しかもその動きは洒落ていて、「ジゼル」の世界を逸脱するものでもない。
 アルブレヒト役の大寺資二の演技は詩的でアカデミック。ヒラリオン役の森充生は表情豊かで感情が伝わってくる。深川の意図するところを深く理解する彼らの貢献も大きい。
 

『ACROSS』
井上優香、井上勇一郎
『ジゼル』第1幕
 
藤井真理子、大寺資二
『ジゼル』第2幕
若原里美(ベルタ)、
田中晶子(ミルタ
  
(8月12日、アルカイックホール)