ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2005.08.10]
From Nagoya -名古屋-

●第5回世界バレエ&モダンダンスコンクール


7月11日~16日の6日間にわたって、ダンサーたちの熱い闘いが行なわれた。今回5回目となるこのコンクールは、クラシック部門とモダンダンス部門を持っている国際コンクールとして、世界的に定着してきている。その成果として、このコンクールから輩出された受賞者たちは、活動の場を広げ、世界的なダンサーへと成長をみせている。今回の大会では、30ケ国から151人が出場、12ケ国の20人が受賞者に選ばれた。

クラシックバレエ部門
<金メダル>女性:ヤナ・サレンコ(ウクライナ)
男性:アレクサンドル・ブーベル(ベラルーシ)
<銀メダル>女性:イリーナ・コレスニコワ(ロシア)
男性:ダニイル・シムキン(ドイツ)
<銅メダル>女性:米沢唯(日本)
男性:マリアン・ワルター(ドイツ)
<ジュニア特別賞>ジャン・イジー(韓国)
キム・ヤンヨン(韓国)
<審査員特別賞>アルセン・メフラビャン(アルメニア)
アルマン・グリゴリアン(アルメニア)
<振付特別賞>該当者なし

モダンダンス部門
<金メダル>高頂(たかね)フリー(日本)
谷亮亮(グー・リャンリャン)中国国立総政歌舞団(中国)
<金メダル>王廸(ワン・ディ)広東解放軍歌舞団(中国)
<銅メダル>アドリアナ・モルテリッティ アウグスブルグ・バレエシアター(イタリア)
コルネリュ・ガニア ミュンヘン・バレエシアター(ルーマニア)
<銅メダル>アレヤンドロ・セルド・マルチネス ネーデルランド・ダンスシアター(スペイン)
サラ・アイスリン・レイノルズ ネーデルランド・ダンスシアター(アイルランド)
小尻健太 ネーデルランド・ダンスシアター(日本)
<審査員特別賞>王盛峰(ワン・ジェンフェン)北京ダンスアカデミー(中国)
<振付特別賞>高成明(ガオ・チェンミン)中国

クラシック・バレエ部門

国際コンクールでファイナルまで残るダンサーたちは、テクニック的にはすでにかなり完成されている。今回のコンクールでメダルに届くかどうかの分かれ目は、テクニックよりも、表現力などの芸術性にかかっていたように感じられた。受賞者はいずれも表現力が豊かで、作品で自分が演じる踊りについてのプロフェッショナルな感覚を身につけている。コンクールのためにコンテンポラリーに取り組まざるを得ない、と考えていた次元からの急激な進歩を感じさせる結果となったように思う。

世界ラウンドI、II、ファイナルと3回のパフォーマンスで、入賞者が絞られていくクラシックバレエ部門では、ラウンドIで古典作品、ラウンドIIで、コンテンポラリー作品、そしてファイナルでは、古典とコンテンポラリーの2作品を踊らなければならない。しかも技術的にもすべて異なる質の作品でなければならないので、出場者には大変な能力が要求されるのだ。受賞者が上演した数々の演目のなかで、最も印象に残った作品について紹介する。

<金メダル>女性:ヤナ・サレンコ(ウクライナ)
<銅メダル>男性:マリアン・ワルター(ドイツ)
『海賊』のパ・ド・ドゥ、『ラ・ランデブー』(振付:ステンゲル)
カップルで金・銅を受賞した2人。ヤナ・サレンコは、小柄ながら流麗、安定した踊りで、見事金メダルを受賞。ワルターは、コンテンポラリー作品では『海賊』で見せたダイナミックな踊りとは質のまったく異なったコミカルな演技を披露し、メダル獲得の成功をおさめた。

<金メダル>男性:アレクサンドル・ブーベル(ベラルーシ)
『ランチ・ブレイク』(振付:ザイフェルト)
金メダリストには珍しく、ファイナルのコンテンポラリー作品で、コメディのような楽しい作品を上演。スーツ姿で現れたブーベルは、スーツケースから白鳥の風船を取り出し、その白鳥とのやりとりをコミカルに作品に仕立てた。俳優さながらの演技で、今大会最大の拍手を得ていた。


サレンコ&ワルター

サレンコ&ワルター「海賊」

アレクサンドル・ブーベル

<銀メダル>女性:イリーナ・コレスニコワ(ロシア)
『白鳥の湖』第3幕のパ・ド・ドゥ
柔軟性があり、身体の表情が豊かなダンサーである。優れた身体能力に加え、評判どおりのダイナミックな演技と表現力で銀メダルを受賞した。
<銀メダル>男性:ダニイル・シムキン(ドイツ)
『アレキナーデ』のヴァリエーション
ダンサー兼コーチのオルガ・アレキサンドロワを母にもつダンス界のサラブレット。溌剌とした若さ溢れる踊り、品のあるしぐさ、容姿にも恵まれた期待のダンサー。今後の活躍が最も楽しみと感じたダンサーのひとりである。

<銅メダル>女性:米沢唯(日本)
『ドン・キホーテ』第4幕のパ・ド・ドゥ
今回の地元からの唯一の入賞者。塚本バレエ団所属。昨年はヴァルナ国際コンクール・ジュニア部門で金メダルをとっている。踊り込んだこの作品では、彼女の優れたテクニックが発揮できたようだ。若くても落ち着いた素直な演技で、陽気なキトリの快活さを表現、これからまだまだ伸びていく可能性を感じさせる踊りであった。



イリーナ・コレスニコワ

ダニイル・シムキン

米沢 唯

モダンダンス部門

モダンダンス部門は、ラウンドIIから接戦で、レベルの高い作品が並んだ。
ファイナルにいくための重要なラウンドだけに、ラウンドIIに得意な作品をもってくるダンサーも多い。 22組43人が出場し、金メダルは日本人を含む中国、銅メダルには、ヨーロッパで活動しているプロダンサーたちの共演が選ばれた。歌舞団など舞踊学校などの環境が充実しており、テクニック的にも高いレベルのダンサーを多く輩出している中国は、コンクールには有利な印象をもつ。反対に、作品主義的な印象をもったのが、ヨーロッパのコンテンポラリーダンサーたち。そのまま優れた小品として通用するような作品が並んだ。日本人は、テクニック的には海外にひけをとらないが、作品のテーマ社会性に欠けるとの審査員の講評どおり、自己をテーマにした内向的な作品が多かったように思う。また受賞作品の中で、国境を越えた国際的なコラボレーションが多かった点も今回の特徴である。ダンサーたちは国境やカンパニーなどに縛られることなく、より自由に自らの判断で能動的な活動を行なっているということの証でもあるだろう。彼らのこれからのさらなる飛躍が楽しみである。

<金メダル>
高頂(たかね)フリー(日本)
谷亮亮(グー・リャンリャン)中国国立総政歌舞団(中国)
『共生』
愛・地球博のテーマ「自然の叡智」から連想した自然、平和、交流などのキーワードを基に、日本人の高頂が振付けた男性デュオ。ストリートダンスを思わせる寝技や激しいジャンプ、男性らしいスピーディな展開で若いエネルギーを爆発させ、見事金メダルに輝いた。

<金メダル>
王廸(ワン・ディ)広東解放軍歌舞団(中国)
『Watching』
正面前のスポットの中で、立ち尽くしたまま上半身だけで動きを繋いだ数分間。ショパンの音楽にのせて、卓越した身体能力をみせ、背中の筋肉の微妙な動きや息使いまでもが、客席に届いてくるような緊張した異次元空間を創ることに成功していた。この作品など、中国人ダンサーの斬新な3作品を振付けた高成明は、斬新な振付で、振付特別賞を受賞した。


高頂、谷亮亮

王廸

<銅メダル>
アドリアナ・モルテリッティ アウグスブルグ・バレエシアター(イタリア)
コルネリュ・ガニア ミュンヘン・バレエシアター(ルーマニア)
『NOT HERE、NOT YET THERE』
ラウンドIIで踊ったこの作品では、日常と非日常の間にある心のひだを通りぬけるように2つの異なる空間を創りだした。その動きはとても自然で、観客の心の中にさりげなく滑り込んでくる。ファイナルの作品『Behind closed Eyelids』でも、質の高い作品をさりげなく踊り、動きの技術だけが突出するのではなく、振付に適したテクニックの心地よさを感じさせてくれた。

<銅メダル>
アレヤンドロ・セルド・マルチネス ネーデルランド・ダンスシアター(スペイン)
サラ・アイスリン・レイノルズ ネーデルランド・ダンスシアター(アイルランド)
小尻健太 ネーデルランド・ダンスシアター(日本)
『ショートカット・トゥー・マイ・フレンド』
ネーデルランド・ダンス・シアター2に所属する3名のダンサーによる共同作品。テクニックを大げさに見せることなく、小気味いい動きをさりげなく取り入れる踊りは、ヨーロッパの洒落た小品として十分に通用する質の高いもので、コンクールであることを忘れるようなひと時であった。


モルテリッティ、ガニア

小尻、マルチネス、レイノルズ

ワン・ジェンフェン

ほかにも、ブラウンシュベルク州立劇場の3人組み、ステフィン・ドゥラトゥル、リーケ・ファンビルヴェリエ、マイダ・カザリャンの作品『Fake us』(ステフィン・ドゥラトゥル振付)は、メダルこそ逃したが、他の作品と遜色のない完成度の作品であった。レベルの高い作品になってくると当然のことながらダンサーたちのテクニックも優れたものであるのは当然で、ここまでくると審査員の好みなども反映されてくる。スタイルも作風も全く異なるモダンダンサーたち、しかも作品ではなく、ダンサーを評価するのであるから、さらにその基準は難しい。審査員にとっても、考えることの多い1週間であったという。


審査員のマッツ・エク
このコンクールは審査員が豪華なことでも知られているが、今回も審査員には、錚々たるメンバーがあたった。なかでも今回このコンクール初登場の世界的な振付家、マッツ・エク氏にコンクールの1週間を振り返ってもらった。
「このコンクールでは、ビデオ審査も含めると、3作品の新作を用意しなければならなりません。異なる作品を見せるには創造性が不可欠でありますから、今回ファイナルまで残られたグループの方々については、みなさんについて大変高く評価しています。ただこうしたモダンの作品を評価することは大変難しいことで、踊り手も見る側も審査員も自分に照らして評価に徹することが重要だと思います。今回の審査員たちのそれぞれの意見の相違はありましたが、最終的には、みんなの同意を得て、建設的に話し合いができたと思います。」

今回の審査の過程が、大変スリリングな体験であったというマッツ・エク。コンクールの1週間は、出演者だけではなく、審査員、スタッフ、観客など、関わったすべて人たちが、通常では得ることのできない大きな刺激を受けた充実した時間を過ごすことができたのだろう、と感じている。