ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2005.06.10]
From Nagoya -名古屋-

●日独コンテンポラリー・ダンス・プロジェクト

 日本のイシグロダンスシアターと旧東ドイツのドレスデン国立舞踊学校「パルッカシューレ」の交流事業として、両カンパニーの合同公演が東京と愛知で行われた。 愛知公演では、これ以外に、地元の猪崎弥生モダンダンスグループが新作を披露し、愛知公演に華を添えた。
 ところが急遽、楽しみにしていたパルッカシューレの作品が中止、映像での上演という大変残念な事態になってしまった。

 最初の猪崎弥生振付の『invisible distance -見えない距離』では、カンパニーのソリスト石川雅実と3名のアンサンブル、そして共同制作のパートナーの音楽家・落合敏行が舞台上に登場した。 石川の硬質な身体と身長のバランスの異なった3名のダンサーの柔らかな質感が対照的。 常に同じ音楽家と作品を創ることは互いの理解のためには良いことも多いと思うが、それが依存関係を生じさせないに、常に緊張感を持つ続けることが必要だろう。

 このあと、『セレナータ』、『アフェストス・フマノス』と題した2作品の映像上演が行われた。 前者は1932年、後者は1962年の作品で、映像ではあったが、日本では見ることのあまりないマリー・ヴィグマンの流れを汲むドイツ表現主義の作品をみることのできた貴重な機会となった。


「タバコの害について」
 最後は、本公演主催のイシグロダンスシアターの『タバコの害について』。これは、<SPACダンスフェスティバル2004>でファイナルになった作品であり、再演に際して、若干の手直しがされたという。 同名のチェーホフの短編戯曲に基づいており、シーンごとに、チェーホフの書いた一編の文章が引用されている。

 長年連れ添った夫婦役に、若松武史と安達悦子、ニコチンで死んでいく蝿の役には、指宿ひとみと関典子、そしておば役は石黒節子みずからが演じた。 若松は、くたびれた男役を劇的に演じ、その妻は、安達が気高く美しく踊った。おばの登場はまるで、シンデレラの魔女のように存在感があり、物語全体の強烈なスパイスとなっていた。 また娘役の若手ダンサーたちは、現代娘にも通じる、愛想がよく、したたかな女の子として登場、息の合ったアンサンブルを披露した。

シーンごとになるほどと思わせるアイデアや見所のある面白い作品であったが、全体として見通したときに、それを貫くメッセージが少し弱いように思われた。 ロシアの物語にチャイコフスキーの「スラブ行進曲」の選曲など、安易に感じられてしまった要因かもしれない。

最も印象に残ったのはニコチンで死んでいく「蝿」の踊り。蝿役の2人のダンサーは全身網タイツで覆われ、関節が浮き出た肉体は、異形ですらある。 関節を象徴するかのような歪んでぎこちない動き、這いつくばり、もがき、踊り狂いながら、息途絶えていくその姿は、まさに死へとむかう踊りだ。 すべての生命は、死に向かって生きている、という言葉を想起させるシュールな踊りであった。
(2005年5月17日 愛知県芸術劇場小ホール)
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