ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津絵理 text by Eri Karatsu 
[2004.05.10]

『くるみ割り人形』で愛知に初登場したマシュー・ボーン

 3度目の来日にして愛知には初登場、そして公演数も地方では異例の6公演。聞いたときには、地方のダンス公演もとうとうここまできたか、とちょっと驚いたが、マシュー・ボーンが、実はコンテンポラリー・ダンスの流れから出現した振付家であることを、どれだけの方がご存知だろうか。本当はそんなジャンル分けは必要がなく、「良いものは良い」ということだけでOKだと思うのであるが、日本ではクラシックやモダン、コンテンポラリーなど、ジャンルを限定して、自らが観る枠を狭めてしまう傾向があるようだ。ボーンはそんなことを超越してエンターテインメントとして成功してしまったので、そういった分類もされずに済んでしまったのは、幸福なことである。

ボーンのダンサーたちも英国のラバン・センターなど、正当のモダンあるいはコンテンポラリーのダンス・スクールの出身者が多いのに、前回の『白鳥の湖』では、上演演目だけでバレエ・カンパニーの公演だと思い込み、会場に来て大変驚いた、という観客も多かったと聞く。それゆえ、バレエ愛好家の多い愛知の観客たちが、彼の作品をどのように受け入れるかにも興味があった。

 今回の演目は『くるみ割り人形』。ボーンの振付では、たとえ物語を追っていても、クラシック・バレエの作品のようにマイムと踊りが分かれることはなく、身振りから流れるように次の動きにつながっていく。そのため観客の気持ちも途切れることなく、高いテンションのままで最後まで見続けることができるのだ。ボーンのマジックで、チャイコフスキーの聞き慣れた音楽も、また新たな煌きを取り戻すかのようである。

これまでもボーンの作品の楽しさは世界各国で多くの観客を魅了してきたが、エンターテインメント性だけでなく、ダンス作品としての質の高さでも納得のいく舞台であった。「心を打つ作品であるか」という線引きは、とてもわかりやすくシンプルな基準であり、古典かコンテンポラリーか、なんていう分類に本当は意味がないことを彼の作品は証明してみせているといえよう。
さすがに6回公演には、主催者も集客に苦労しただろうが、こうした思い切った冒険が、舞台芸術の拡がりの強い後押しになるのだと思う。(4月2日 愛知県芸術劇場大ホール)