淡路島から世界へ――PASONA Awaji World Ballet「Souls for Peace vol.5」レポート

ワールドレポート/大阪・名古屋

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

PASONA Awaji World Ballet 4周年記念特別公演「Souls for Peace vol.5」

針山愛美:振付・演出・構成・出演
ウラジーミル・マラーホフ:特別ゲスト

Awaji World Balletは、針山愛美芸術監督のもと、淡路島で誕生したバレエ団だ。結成のきっかけは2022年、ロシアによるウクライナ侵攻だった。針山監督はウクライナのバレエダンサーたちに淡路島への避難を呼びかけ、人材派遣大手・PASONAの支援を得て、まずはキーウから2人のダンサーが来日した。彼女たちの荷物の一番上にトウシューズが入っているのを見て、針山は「彼女たちがバレエを続けられる環境をつくらなければ」と感じたという。https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail043762.html
それから4年。カンパニーのメンバーは日本人も含め17名となり、オリジナル作品『鶴の恩返し』がラトビア国立歌劇場や関西万博で上演されるなど、活動の場は広がっている。しかし、ウクライナ情勢はいまだに予断を許さず、ウクライナ出身メンバーたちの帰国のめどはたっていない。
8月22日・23日、本拠地である淡路市のアソンブレホールにて、ウラジーミル・マラーホフをゲストに迎えての4周年記念公演行われた。

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『ゴパック』© Sotoma Mitsuki

23日の公演を観に、初めて淡路島へ渡った。JR三宮駅から高速バスで40分ほど、対岸の舞子からは10分、明石海峡大橋を渡ればすぐだ。洋上に入道雲の浮かぶ夏らしい日で、バス停前のコンビニで冷たい飲み物を買い、一休みしてから会場へ向かう人も。公演と前後してマラーホフによる特別レッスンや宝満直也のコンテンポラリークラスが受けられる「学べるコンクール」も行われており、子どもの姿も多い。
幕開きは、ウクライナ民族舞踊『ゴパック』。広大なひまわり畑の映像を背景に、いきなり空中に放り投げられたような、豪快なジャンプの応酬。強いバネで地面を蹴って、次々と自身の身体を打ち上げ、空中でクッと身体を切り返す。女性ダンサーたちのステップがやわらかく弾み、花冠に着けたリボンが美しくなびく。踊りは競い合うように激しさを増し、客席からは手拍子や口笛が飛び出す。競うこと、闘うことの最もたのしく、美しい形がここにあるような気がした。

続いて、『白鳥の湖』より白鳥のグラン・アダージオを、針山愛美とマラーホフが踊った。
針山の背中から指先まで全身のラインは、しなやかな弓を引き絞るようにどこまでも引き伸ばされ、それが白鳥の長い首や翼を思わせる。当然と言えば当然だが、ほんの10数分前、客席に向かって笑顔で開幕のメッセージを伝えていた芸術監督としての針山とは全く別の存在に見えた。極限まで全身を使い切るクラシック・バレエの身体のあり方は、まとう空気まで変えてしまうのだなと感じた。
マラーホフはこれまで、24バージョンもの『白鳥の湖』を踊ってきたという。『白鳥』というバレエを知り尽くしながら、なお探究し、愛し続けずにはいられない。バレエとパートナーへの限りない敬意、憧れのようなものが、そのまま「王子」の佇まいとなっている。マラーホフはやはり、どこまでも王子だ。

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© Sotoma Mitsuki

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© Sotoma Mitsuki

『Destiny』は、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界』に、針山がウクライナのダンサーたちへの思いを込めて振付けた作品。冒頭、2楽章のメロディに乗せて「遠き山に日は落ちて」が歌われる。学校の下校時によく流れるあの曲だ。ランドセルを背負った子どもたちが「さよなら」と手を振り合い、いつしか場面は夕日の差し込むスタジオに変わる。バー・レッスンをする少女たち。照明が切り替わるたびに、少女たちは成長してゆき......。歌は日本語から英語の歌詞「Goin'Home」に変わる。ダンサーにとってはバレエ学校や劇場が「帰る家」だ。ことに、刻一刻と変化する身体が資本のダンサーたちにとって、「帰れない」4年間はなんて長いのだろう。
緊迫した序奏に続き、4楽章の勇壮なテーマが鳴り響くと共に、男性ダンサーたちが一斉に、火を噴く勢いで跳躍する。背景に次々と映し出されるのは、黄金色の麦畑、正教会、沃野を流れる川、帝政時代の宮殿など、ウクライナの風景。19世紀風の衣装を身にまとったダンサーたちが、熱く駆り立てる音楽と渡り合うように、超絶技巧を見せる。高いリフト、回りながら空を切るジャンプ、女性が後ろ向きに、男性の腕めがけて飛び込むダイブ。
激しい望郷の念と平和への願いが、踊りと音楽の力でストレートに伝わってきた。「平和」は抽象的な概念ではなく、家族や友人との安全で穏やかな「普通の暮らし」、ダンサーたちが安心してバレエに打ち込める生活だと感じさせられた。

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© Sotoma Mitsuki

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© Sotoma Mitsuki

「小さな灯」は、マラーホフのアイデアを受けて、宝満直也が振付けた新作。背景にはろうそくの灯の映像。上田秀一郎が、ばちだけでなく手のひらも使って繊細に奏でる太鼓は、鼓動のようにも聞こえる。灰色のコートをまとったマラーホフは、命の灯を自由にできる悪魔のような存在らしい。針山演じる白いドレスの少女は悪魔に抗おうとするが、ついにその命を奪われてしまう。マラーホフは、王子とは正反対の闇深い存在を印象づけた。

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© Sotoma Mitsuki

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© Sotoma Mitsuki

針山振付の『四季舞奏~暁月』は、上田秀一郎率いる太鼓集団「鼓淡」の演奏に乗せて、カンパニーのメンバーと子どもたちが踊る壮大な作品。舞台に桜、紅葉、雪、祭りのかがり火......四季の映像が次々と映り、太鼓とバレエの妙技がぶつかりあう。
正直、観るまでは太鼓とバレエって合うのかな、と思っていた。これが、ものすごく合う。
気合いを込めて太鼓を「打つ」、強く踏み込んでトウで「立つ」、「跳ぶ」呼吸がぴたりと合って、腹に響く太鼓の余韻とともに、ダンサーたちのジャンプやリフトが花火のように打ち上がる。手のひらを強く押し出すような特徴的な決めポーズも、太鼓とぴったりだ。土にエネルギーをもらって空に放つ感覚は、先ほどのゴパックとも通じる。優雅さや浮遊感だけでなく、こういう血がたぎるような民族舞踊の要素も、バレエの大切な一面だったとあらためて感じた。

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© Sotoma Mitsuki

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© Sotoma Mitsuki

フィナーレは『ジュピター』。ホルストの『惑星』より「木星」の壮大なメロディとともに出演者全員が舞台に登場すると、会場は大きな拍手に包まれた。マラーホフのサイン入り写真集など、豪華特典のあたる抽選会まであり、『小さな灯』の悪魔メイクのままメッセージを述べるマラーホフと、通訳を務める針山の優しい表情が印象的だった。
カンパニーのマネジメント、振付、演出、ダンサーへの指導やコンクール審査、観客の育成......自身も踊りつつ、バレエやダンサーたちのために良いと思われることはすべて実行する針山監督の情熱とエネルギーには、深い敬意を覚えずにはいられない。
尚、9月23日にはAwaji World Balletのオリジナル作品『with Love ~バレエ「鶴の恩返し」と和の鼓動~』の東京公演が行われる予定だ。
https://www.awajiballet.com/performance/tsuru2609
(2026年8月23日 アソンブレホール)

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