淡路島発のバレエ団「PASONA Awaji World Ballet」の東京初公演メディア会が開催された
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小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
「PASONA Awaji World Ballet」がこの秋、初の東京公演「with Love ~バレエ『鶴の恩返し』と和の鼓動~」を上演。「PASONA Awaji World Ballet」は針山愛美芸術監督のもと淡路島で誕生したバレエ団で、ウクライナより避難してきたダンサーを受け入れ、現地で芸術活動を続けてきた。東京公演初公演に先駆け、メディア会が開催され、針山と、振付家の宝満直也が本公演について想いを語っている。
ーー「PASONA Awaji World Ballet」創設の経緯についてお聞かせください。

針山 私自身ダンサーとして海外でずっと活動してきましたが、コロナ禍で戻れなくなったのをきっかけに、淡路島で活動をはじめました。それが2020年の夏頃のこと。そんななか2022年にロシアのウクライナ侵攻が起こり、いてもたってもいられなくなって、ウクライナの方のために何かできることはないか、という想いからスタートしています。
まずウクライナから2人のダンサーがやってきました。鞄一つで来たんです。その鞄の1番上にトウシューズが1足入れてあったのを見て、彼女たちの生き甲斐であるバレエを続けていける環境を作ることは、自分の役目の一つであると感じました。だからカンパニーを作ろうと計画したわけではなくて、自然とこうなった感じです。あれから月日が経ち、今では日本人も含めてカンパニーメンバーは17名になりました。
宝満 レジデンシャルカンパニーのような組織を作るのは日本では難しく、こうして誰かパワーのある企業が立ち上がってくれないとなかなかできないことではある、と思います。ウクライナの方々を受け入れたいというのが発端だとは思いますが、「PASONA Awaji World Ballet」を観に淡路島に来たり、たまたま淡路島にいらした方がバレエをやっているんだと観るようなことも起こり得るでしょう。地域と人をバレエが繋げている、すごく健全な芸術のあり方だと僕は思っていて。素晴らしい試みだと思うし、このプロジェクトの行く末をずっと見守っていきたいと思います。
ーー本公演では針山振付作『鶴の恩返し』を披露します。作品誕生の経緯とは。日本の昔話を題材にした理由は何だったのでしょう。
針山 淡路島では、99パーセントの方がバレエを観に行ったことがないと思います。日本のお客さん、それも一般の方に観てもらう上で、『鶴の恩返し』ならストーリーもみなさん知っているし、入りやすく、距離感を縮められるのではないかと考えました。加えて、私のなかで、いろいろな方に恩返しをしたい、何かリターンスをしていきたい、という気持ちもありました。
まず、淡路島で初演しています。全てが手作りで、淡路のスタッフでやり切ろう、というところからのスタートでした。和というものにこだわり、衣裳や音楽にも日本の要素を取り入れています。
鶴が織った帯で、世界を良くしていく。戦争や震災などで普通に生活することが叶わなくなった方々が、少しでも元気になれたらというメッセージを込めています。ウクライナのダンサーは実際にそうした体験をしてきており、想いが伝わるものがあるのではないかと思っています。あと自分は昔から自然が好きだったので、枯れていった木々が蘇り、鶴がもとの素晴らしい山に戻る、というシーンも残しています。

宝満 バレエが日本に入ってきてから100年が経ち、バレエが日本に根付いてきました。もともと模倣から始まったバレエでしたが、世界中で優秀な日本人ダンサーが活躍するようになって、日本の文化としてどうこれからバレエを発展させていくか、ということが問われるようになってきました。最近は、日本の振付家やダンサーが海外に行くと、「ジャパニーズテイストの作品はないのか」と言われることがよくあります。その一つとして、こういう日本の話がバレエと融合していく試みというのは、とても素晴らしいアイディアだと思います。
バレエはどうしても西洋のお話が多いので、自分の世界とは全く違う遠いもののように思えてしまう。けれど、身近な『鶴の恩返し』というお話で、着物や障子など自分の血に入ってる文化があるだけで、距離感は変わってくると思う。だからバレエを観たことがない人が観ても、楽しんでいただけるのではないかと思います。
ーー「PASONA Awaji World Ballet」初の東京進出というこで、意気込みのほどはいかがですか。
針山 正直なところ、東京だからという特別な想いはなくて。初の東京公演に向けてどうするということではなく、今までやってきたことを十分伝えられるかが大事、という心境です。1人のお客さんでも、小さいホールでも、1万人が入る海外の大劇場でも、そこは変わらないですね。
それは13歳の時に初めてソビエトに留学した時からの変わらぬ想いでもあります。バレエを通してたくさんの方に出会い、新たなお客さんに出会ってきました。生きるための勇気や喜びが、そこからずっと繋がっているのを感じます。今回の東京公演もそう。みんなが手を取りあい、全員が笑顔で過ごせるような世の中になったら、という大きなメッセージを内に秘め、パフォーマンスができたらいいなと思っています。


ーー宝満さんは新作を振付けされます。
宝満 まず今は、淡路島で8月末に上演する「Souls For Peace vol.5」のための作品の創作をしています。ウラジーミル・マラーホフさんと針山さんのデュエットです。9月の公演に取りかかるのは、またそれが終わってからになります。
僕がNBAバレエ団で『白鳥の湖』の世界初演作を創作していたとき、針山さんがゲストコーチとしていらしたのが出会いでした。そのとき「ゆくゆくは国際的に活動できるような振付家になりたいんです」とお伝えしたところ、「じゃあマラーホフさんとやってみる?」と言ってくださって。マラーホフさんという僕にとってはレジェンドのダンサーに振付けをする機会をいただき、彼も気に入ってくださったのか、以来創作を重ねてきました。そして再びこのような機会をいただけてうれしく思っています。
今回の作品に関しては、マラーホフさんの中で、こうやりたいということが明確にあって、音楽も提案していただいています。クリエーションをしていても、彼がピンとくるもの、それいいね、それいいね、という方向にかじ取りをされている感じです。普段の創作活動では、まず僕が作品のコンセプトを決めた上で進めていくけれど、彼とのクリエーションに関しては、彼がやりたいことを聞きつつ、どう膨らませていくか、という進め方になっています。
ただ、マラーホフさんがどんどんアイデアを出してくださるので、針山さんがたまに「それだと無理だと思うよ」と言ってくださることもあって(笑)。
針山 マラーホフさんは、こうと思ったら頑固なんですよね(笑)。これをやるとなったら、自分が倒れてでも、何回やってでもチャレンジしたい。絶対に簡単な方向には流れたくない。そうやっていくつもの壁を越えてきたのだと思います。私も「ここを変えたらうまくいきそうだけど」と彼に言ったりするのだけれど、そこは妥協されないですね(笑)。
ーーどんなスタイルの作品になりそうですか。
宝満 僕自身あまりジャンルにはこだわってなくて、ダンサーを見ているところがあります。そういう意味では、針山さんとマラーホフさん、今のお2人の身体的、そして感覚的なものを見ている感じです。ただ『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥのようになるかといったら、そういうわけではないですね。お2人が今までずっと使ってきた身体的言語はバレエなので、そこから派生していくようなものになる。ダンサーが新しい領域に踏み出している様は、僕が1番美しいなと思う瞬間の一つ。僕もやるからには、お2人にとって新しい瞬間やニュアンスを追求していきたいと思っています。


ーー宝満さんから見た針山さんは、どういうダンサーであり、リーダーだと感じますか。
宝満 日本人離れしたラインを持ち、基礎に裏付けされた身体がある。素晴らしいダンサーだと思います。バリバリのカンパニーダンサーを引退してもなお踊り続けるのは、すごく大変なんですよね。自身が教えに専念している中で踊られているといういう意味でいうと、マラーホフさんもすごいと思います。身体も変わってきますし、筋力だったり、柔軟性はどんどん失われていく。同時に培われてきているもの、人としての人生経験はパフォーマンスに反映される。とても大人な2人で、すごくこちらも学びがあるのを感じます。いっぱい動くことだけがダンスではなく、この2人にしかできないものというのを目指したい。彼らと共に重ねられる時間は、僕としてもすごくありがたい経験です。やるたび2人は変容していて、また僕自身も変容していくのを感じ、貴重な時間になっています。
リーダーとしての針山さんは、熱量があり、やっぱり勉強になります。針山さんは、直感がそう言っていたら、そう動かないと気が済まない方なのかなという気がしていて。打算のなさというのは、リーダーとして必要な部分というか、人を動かすのってそういう熱い部分だと思う。パフォーマーとしてお客さんに何かを受け取ってもらうのも、それは同じだとは思うけど。だから、今の状況は、なるべくしてなっているのかなと思います。

ーーカンパニーの将来をどう見据えていますか。
針山 カンパニーをもっと大きくしたいとか、何年後にはこういうことをして......、という計画はありません。ソビエト時代に留学して、戦車が街を走り、食料がない、そんな時代も経験してきました。計画してもできないかもしれない、明日はないかもしれない、という環境で私自身ずっと踊ってきて、またそれは私の大きな土台としてあります。
実際に、ウクライナの問題が解決して、明日みんな国に帰ることになるかもしれない。今の活動がいつ急に続けられなくなるかもしれない、そうずっと思ってきて、だからこうして続けられていることが奇跡です。なので、将来の野望を考えてる場合ではなくて。
とりあえず今日できることは、一生懸命ひたすら前に進んでいくということ。50年、100年先、どういう世界になっているかわからない。ただ、作品というのは残ると思う。私がこの世からいなくなっても、作品は残るかもしれない。作品を通して、私が好きだったバレエを通して、自然破壊や争いがなくなれば、というメッセージを込めています。バレエを通して、世界中の方の心を繋げるような作品になればという気持ちがあります。100年経っても、そのコンセプトは残っていくのではないかと思っています。


PASONA Awaji World Ballet
「 with Love ~バレエ『鶴の恩返し』と和の鼓動~ 」
2026年9月23日(水祝)
ニッショーホール
https://www.awajiballet.com/
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