14年ぶりに再演されるクランコの傑作『オネーギン』の公開リハーサルが行われた、東京バレエ団
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小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
東京バレエ団が、ジョン・クランコ振付『オネーギン』全3幕を再演。11月6日に開幕を控えたこの秋、クランコ作品の指導者ジェーン・ボーン氏が来日し、目黒の東京バレエ団にてリハーサルが特別公開された。
『オネーギン』はプーシキンの原作を題材に、ジョン・クランコが振付け1965年に初演された。物語の舞台は1820年代のロシアで、貴公子オネーギンとタチヤーナの悲恋と運命がチャイコフスキーの美しい音楽にのせ繰り広げられていく。バレエ史に残るドラマティック・バレエの傑作だ。
上演許可のハードルの高さで知られるが、東京バレエ団では2010年に現団長の斎藤友佳理らをメインキャストに上演を叶え、大きな評価を手にしている。今回は2012年の再演以来、実に14年ぶりの上演となる。
14年という長い時を経て、ダンサーも一新。オネーギンやタチヤーナをはじめメインキャストには、この春の団内オーディション(トライアウト)で選ばれたダンサーが配役されている。

秋山瑛、宮川新大 © Shoko Matsuhashi

秋山瑛、樋口祐輝 © Shoko Matsuhashi
公開リハーサルは、まずオネーギン役の宮川新大とタチヤーナ役の秋山瑛のパ・ド・ドゥからスタート。素朴な田舎娘のタチヤーナがオネーギンに恋し、幻想的に踊る、第1幕のブック・パ・ド・ドゥだ。クランコならではのドラマティックなリフトに、オフバランスと、宮川と秋山が音をいっぱいに使いキャラクターを表現していく。
次はタチヤーナとグレーミン公爵のパ・ド・ドゥ。沖香菜子と安村圭太のペアは堂々たる趣きで、笑顔で安村に寄り添う沖が、次第に開放され大胆になっていく。続いて同役を踊る秋山瑛と樋口祐輝のペアで、こちらはどこかしっとりとした雰囲気だ。踊り終わると、ジェーン・ボーン氏が調整に入り、ホールドや立ち位置を確認。「手を下げないで、大きな一歩を踏み込んで! 最後のジュッテをもっと高く、もっと跳んで!」と、より大きく、ダイナミックに、と導いていく。ジェーン氏の指導を受け、振りをさらう宮川新大に、タチヤーナ役の秋山瑛と沖香菜子が話し合う姿も。クランコの独特で難度が高いパに、戸惑いつつも食らいつかんとするプリンシパルたちの姿が新鮮だ。
リハーサル終了後は、本公演で主演をつとめる柄本弾、宮川新大、沖香菜子、秋山瑛による囲み取材を実施。記者からの質問にダンサーが答えた。

沖香菜子、安村圭太 © Shoko Matsuhashi

沖香菜子、安村圭太 © Shoko Matsuhashi
――ジェーン・ボーン氏が先週より指導に入った現時点の状況について。
柄本 現在は全幕を通しての振付をまだ終えておらず、パ・ド・ドゥなどメインどころの振りや、その基礎的なテクニックの内容を詰めている段階なので、感情の面までは全然進んでなくて。これから先テクニック的な内容が毎回クリアできるようになったら、そういうところも細かく教えていただけると思っています。
沖 前回ジェーン先生に振りを教わったのはトライアウトの時だったので、自分たちがこの役をやると決まっていたわけではなく、その場でもらった振りをなんとか自分なりに整理してお見せして、結果どうなるかという状況でした。今回はそのときのスタンスとはまた違い、自分がタチヤーナを演じるにあたり、この振りにどんな意味があるか考えながらやりたいという思いがあります。ただそれより今は、振りの難しさ、パ・ド・ドゥの難しさがあり、まずはそこをなるべくスムーズにクリアにしていけるようにできたらと思っています。
以前クランコ作品『ロミオとジュリエット』を踊ったとき、パ・ド・ドゥで同じ振りを繰り返すことが手法的によくありました。今回もまた同じ振りが出てくるところがあって、そうやってクランコさんは表現していたのかもしれない。『ロミオとジュリエット』のときに感じたことを生かしながらできたらと思っています。
秋山 トライアウトのときから役柄よりまずすることが難しく、アップアップしていました。いざリハーサルが始まると、アップアップしている中にも、パ・ド・ドゥでの2人のあり方や、役柄に向き合うにあたってのヒントをジェーン先生から少しずついただけるようになってきています。スタジオを離れてもずっと音楽が頭の中に流れて、作品のことを常に考えている状況です。それくらいやりがいしかないし、取り組めてうれしいです。ジェーン先生はメインのキャストだけではなく、作品の全てを知っていて、演技の部分もそう。ジェーン先生についていきながら、いいものができたらと思っています。
宮川 秋山さんと一緒に話し合いながら、試行錯誤しています。今日できたのに次はできなくなったり、できたと思って音で通したら全然間に合わなかったり、その繰り返し。まだ技術的なところで苦労している段階なので、感情をつけるレベルにいけていないのが今の現状。オネーギンというキャラクターを作り上げていくという課題が残っているけれど、今はパ・ド・ドゥで2人が組むところを1個1個クリアしています。今まであまり経験してこなかったパ・ド・ドゥだったり、普通のクラシックとは違った重心の置き方、組み方があって、毎日すごく勉強になっています。1つでも早くそれらをクリアして、オネーギンとしてのパ・ド・ドゥの在り方に行きつけるように頑張っていきたいです。

© Shoko Matsuhashi

© Shoko Matsuhashi
――斎藤友佳理団長の本作へかける想いについて。
沖 振りにとらわれてしまったら、演技が成り立たなくなってしまう。そのために基礎を磨いて、振りが自然にできるから演技ができるようになる。その最高潮の作品だ、というようなことを友佳理さんが以前お話されていました。ただ私自身基礎をこんなに頑張ってやっているはずだけど、今は振りに追われています(笑)。このテクニックがどうだ、この時の足の使い方はこうしたい、そうしたことにとらわれてしまうと、タチヤーナになりきって演じることにはきっと繋がらない。とにかくレッスンを大切に、リハーサルも大切にして、舞台に挑めたらと思っています。
秋山 友佳理さんの本に、「この身体では表現し足りないくらい表現したいことがある」というようなことが書いてあって、今はまだまだできないけれど、多分そういうことなのだと思います。振りをするために踊るのではなく、その時の自分の感情を表現するために振りがある。だから基礎がないと何も表現できない。この作品も表現したいことがありすぎて、でもステップはこれだから、そのステップをどうやるかで、自分の溢れる表現を伝えなければいけない。すごく振りも難しいし、話もすごく難しいけれど、溢れるものがありすぎて、だからこそそれを表現するために基礎をやっているのだと思っています。
――ジェーン・ボーン氏の指導について。クランコ作品『ロミオとジュリエット』でも指導を受けているが。
沖 決められている振付やカウントにとらわれすぎると、機械的に見えてしまう可能性があるのではないか、というのが自分の中の不安としてあって。でもジェーン先生の指導は、私自身の感情でタメを作っていいものでもない。振付のカウントに感情をのせるということに対して、自分の中で整理ができていればいいけれど、まだそこまで踊り込むような段階でもなく、そこを今構築してる段階かもしれません。
ジェーン先生は「ダンサーはここでたいていこういう気持ちになる、ここでこういう状況になるわよ」と、いろいろなダンサーの経験を教えてくださるので、ジェーン先生の言うことを飲み込むことができれば、迷いなく踊れるだろうという気がします。それは『ロミオとジュリエット』のときも感じていたことでした。ジェーン先生の教えを守り、自分の中に落とし込み、迷いなく踊れる状況で、かつ自分の、自分なりのものを足していきたいと思っています。
秋山 ジェーン先生がこだわるポイントで、「なんでだろう、こっちの方がやりやすいのにな」とたまに思うことがあって。例えば、ジュリエットが手をあげるとき、肘をバレエ的に外にまわさず、まっすぐすっと挙げてほしいといわれたことがありました。そのときも自分自身ではよくわからなかったけれど、他の人が指導されているのを見ていると、「だからなんだ、こういうことなんだ」とわかるんです。自分としては2センチくらいのわずかな差だけれど、観ているお客さまからすると、全然違う一瞬になる。そういう細かい積み重ねがクランコさんのこだわりであり、これだけ長く愛されてきた作品の要であり、踊り継いできた方々の積み重なりが全部ここあるのだと思う。それを『ロミオとジュリエット』のときも思ったし、今回もすごく感じています。

© Shoko Matsuhashi

© Shoko Matsuhashi
――オネーギンの独特の鬱屈と手をかざすポーズ、タチヤーナの手紙を破くラストはどういう感情で表現しているのか。
柄本 ジェーン先生からあのポーズの意味は教えてもらってはなくて。僕の中のイメージとしては、オネーギンは都会から田舎に来て周りの空気に馴染めない、馴染む気もあまりない。けれど、男性として女性をエスコートしなければいけないし、タチヤーナの相手をしなければいけない。そうした感情の一部の構造が入っているのではないかと、今は感じています。
宮川 あるシーンでジェーン先生に「そこはすごく重くやってくれ」と言われたことがありました。オネーギン自身すごく重たいものを自分で背負っていて、そこからああいうポーズが生まれたのではないかと思います。背中に何か大きなものをどんと乗せているような感じ、すごく重たい意味合いだと解釈していて、今の段階では自分なりにそう表現しているつもりではあります。オオネーギンの持っているものがいかに見えるかによって、ブック・パ・ド・ドゥでタチヤーナと明るいステップを踏んだときギャップに見える。そういう感情でやっています。
沖 タチヤーナのラストについても、表情のことはあまり言われてなくて。指定がないので、それをどうするのかというところにいきつけてない状況ではありますね。
宮川 ラストに関してもオネーギンもみんな違って、手紙を破られた後、悲しむ人もいれば、怒る人もいる。そのときによって変えている人もいるかもしれません。僕らは今回初めてですが、シュツットガルト・バレエ団の方たちは何十回とやっていて、そこで試行錯誤した1回の感情が出る場合もある気がします。
秋山 ここのラインをこう見せてほしいという指導はあっても、表情についての指導はあまりないんですよね。ここはこうしてはいけない、こうしなさいというのがない、指定がないからみんな違うのだと思います。

© Shoko Matsuhashi

© Shoko Matsuhashi

© Shoko Matsuhashi
東京バレエ団『オネーギン』全3幕
2026年11月6日~8日 全4回公演
新国立劇場オペラパレス
https://thetokyoballet.com/performance/onegin2026/
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