一緒に歌って、動いて楽しむバレエとの出会い、ファミリーバレエショー「おもちゃ箱 パ☆パーン!」

ワールドレポート/東京

坂口香野 text by Kaya Sakaguchi

地域子供舞台芸術普及啓発公演

ファミリーバレエショー「おもちゃ箱 パ☆パーン!」

劇場でのバレエ鑑賞は、小さな子どものいるファミリーには敬遠されがちだ。言葉がないから子どもが退屈しそう、長時間お行儀良く座っていられない、何よりチケットが高め、など保護者にとっての不安要素は多い。近年はわかりやすいナレーションを入れるなど、ファミリーを意識したバレエ公演も増えている。
そんな中、バレエに初めてふれる3歳~6歳程度の子どもたちをメインターゲットとした公演「ファミリーバレエショー おもちゃ箱 パ☆パーン!」が、神奈川県相模原市のほねごり杜のホールはしもと(杜のホールはしもと)・ホールで9月12日(土)に開催された。

会場のホールは、JR・京王線の橋本駅に直結し、相模原市立図書館なども入った商業施設の上にある。橋本は自宅に近くなじみのある街なのだが、市内の相模湖沿岸地域に「相模湖 芸術・文化のまちづくり(バレエのまち 相模湖)」という取り組みがあることを、今回はじめて知った。劇場ロビーには「バレエのまち 相模湖」のコーナーがあり、2025年10月、相模湖畔で開催された相模湖野外バレエフェスティバルの映像が流れていた。野外劇場での幻想的な『白鳥の湖』公演、コンテ公演などの様子が次々と映る。ロビーにはバレエグッズ売り場や記念写真撮影コーナーもあり、小さなバレエ祭りといった雰囲気だ。通常のバレエ公演のように、いかにもバレエを習っていそうな子とその保護者ばかりではなく、観劇後のランチや買い物を楽しみにきた感じのファミリーも多い。チケットも一般2000円、3歳から小学生で1000円と、バレエ公演としては非常にリーズナブルだ。今回の公演は、「バレエのまち 相模湖」の取り組みの一環であり、「地域子供舞台芸術普及啓発公演」として開催されている。

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「海賊」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎
(※「吉」の字は正しくは「土」に「口」/すべて)

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「さんぽ」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

なぜ「相模湖でバレエ」なのだろう?
そもそも神奈川県は、1919年に来日したエリアナ・パブロヴァが鎌倉・七里ヶ浜に日本初のバレエ学校を開いたことから「日本バレエ発祥の地」といわれる。中でも相模湖畔では、株式会社アトリエヨシノがあり、2007年、2009年、2016年、2025年と過去4回にわたって野外バレエフェスティバルが開催されている。アトリエヨシノは、全幕公演のプロデュースや新作バレエ制作のほか、学校や福祉施設への出張バレエ公演、健康バレエ体操、市民まつりのパレード参加など、様々なバレエ普及活動を行っている。
人口減少や高齢化が課題となる中、バレエを核としたあらゆる芸術・文化を通じて地域を活性化し、相模湖地域の新たな魅力を発信する。そんな理念のもと2023年に「相模湖 芸術・文化のまちづくり実行委員会」が結成された。
バレエは観光振興、人材育成、国際交流を結びつける「地域創生の拠点」となりうる―――その道のりは長そうだけれど一過性の企画に終わらず、実現するとよいなあと思いつつ、席に着く。客席には相模原市長をはじめ、地元の行政や教育関係者の姿も多い。

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「まほうのことば」を唱える様子
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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「おもちゃのチャチャチャ」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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「おもちゃのチャチャチャ」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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お話のお姉さんとガチャピン
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

幕が開くと、特別ゲストのガチャピン、アトリエヨシノの公式キャラクター「ヨシノちゃん」、そしてお話のお姉さん(横山茉美)が登場する。有名なガチャピンが等身大で出てきたので、食い入るように見ている子が多い。舞台上には、触れそうにリアルな宝箱の映像が映し出されている。この箱を開くには、「まほうのことば」が必要だ。両手をグーに握って甲どうしを打ち付けてから、目の前で花火みたいに開きながら唱える。「パ・パーン」!
横山と、演出・振付も務める魔法使い役の三浦太紀のリードで、客席一同、ジェスチャーとともに呪文を唱えた。「パ・パーン!」すると、宝箱の映像がどくどくと脈打ちはじめ、パーンと開いて、色とりどりのおもちゃや人形に扮したダンサーたちが飛び出してきた。「おもちゃのチャチャチャ」に合わせて、総勢22名のダンサーがにぎやかに踊り出す。子どものダンサーたちが一斉にリフトされて、スカートがふわっと花開く。『花のワルツ』に乗せた「お花の踊り」、『犬のおまわりさん』『山の音楽家』など有名な童謡に乗せた「動物たちの踊り」と、親しみやすく楽しい作品がテンポ良く続く。

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「花のワルツ」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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「山の音楽家」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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「さんぽ」振付の様子
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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「不思議の国のアリス」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

面白かったのは、振りと舞台効果も相まって、宝箱を開く呪文「パ・パーン!」にちゃんと魔法の手応えが感じられること。舞台が進むたびに、呪文のリズムは少しずつ複雑化してレベルアップしていくのだけれど、客席の子どもも大人もゲーム感覚でついていく。「フロリナ姫」「オーロラ姫」、「長靴を履いた猫と白い猫」など、古典のヴァリエーションや全幕の抜粋も見せつつ、子どものダンサーにバレエの魅力を尋ねる短いインタビューや、客席で一緒に踊れる久石譲の名曲「さんぽ」などの演目を組み込んで飽きさせない。
「さんぽ」の振りは、バレエのポール・ド・ブラ(腕の動き)をアレンジしつつ、歌のイメージにぴったりの動きで、劇場中に「あ・る・こう~♪」の歌声が響いた。パンフレットによれば、この公演自体が、小さな子どもたちが、ある時は歌い、ある時は一緒に身体を動かしながら楽しめる「ひらけ! ポンキッキ」のような幼児教育番組のバレエ版をイメージしているという。だから「ポンキッキ」の人気キャラクター、ガチャピンがゲスト出演しているのか!と合点がいく。構成・脚本を手がけた脚本家・作詞家で絵本も手がけている佐藤万里は、パンフレットの挨拶で「今日の舞台が、みなさんのたからもののひとつになればうれしいです」と語っている。お姉さん(横山)の子どもたちへの語りかけはやさしく、ガチャピンとヨシノちゃんの反応も自然でほほえましい。

しめくくりは、相模原市出身で新国立劇場バレエ団のソリスト・花形悠月と、同団所属の森本晃介による『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ。花形が森本に高々とリフトされて、宙を舞うと、劇場は静まりかえった。リフトされた花形のつま先が、空中にのびやかなアーチを描く。森本の豪快なジャンプ、鮮やかに決まる技の一つひとつに子どもたちの意識が集中しているのがわかる。出演者全員が登場してのフィナーレには、子どもも大人もおしみない拍手を送り、終演後の劇場ロビーもいきいきとした熱気に包まれていた。
「音楽と共にある」ことは、バレエの本質だと思う。小さな子が劇場で、自分も歌ったり踊ったりしながら生のバレエにふれる――もしかしたらこれは、バレエとの最初の出会いとして、きわめて望ましいかたちなのではないだろうか。
敷居は思い切り下げるけれど、志は下げない。そんな意志を感じさせる公演だった。
(2026年9月12日 ほねごり杜のホールはしもと・大ホール)

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「長靴をはいた猫と白い猫」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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「赤ずきんと狼」
©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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フィナーレ ©STAGE PHOTO blanc 吉川幸次郎

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