新国立劇場バレエ団が『街の灯』を世界初演。チャップリンを踊る、水井駿介インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=小野寺悦子

喜劇王チャップリンの名作映画『街の灯』を、新国立劇場バレエ団が世界で初めてバレエ化。2026/2027シーズンの幕開け作品として、この秋、世界初演を迎える。
『街の灯』はチャップリン自身が監督・脚本・製作・主演した1931年のサイレント映画で、浮浪者と盲目の花売り娘との恋が描かれる。新国立劇場バレエ団『街の灯』の主演キャストは4組8名で、アラスター・マリオットの振付により、10月23日~上演。
ここでは、チャップリンが演じた放浪者(リトル・トランプ)役を務める水井駿介にインタビュー。リハーサルの様子と本作への想いを聞いた。

ーー放浪者(リトル・トランプ)役で主演します。振付のアラスター・マリオットさんからキャスティングされたとお聞きしました。

水井 アラスターさんとは『ジゼル』(吉田都版)の初演時にまだ僕は入団していませんでしたが、ロンドン公演の際に現地でご一緒しました。シーズンラインナップを吉田監督がダンサーに話してくださった時にアラスターさんの振付で『街の灯』をバレエ化すると知り、ワクワクしたのを覚えています。
チャップリンのことはもちろん知っていたけれど、正直なところ彼の映画は観たことがなくて。『街の灯』にしても、プログラムが決まってから初めて配信動画で観ています。たぶん僕が10代だったらあまりわからなかったことも、30代になった今観たことで、その面白さに気づけた気がします。ただそれをどうバレエにするのか、全く想像もつかない状態からのスタートでした。

ーーチャップリン役を演じる心境はいかがですか。

水井 やはり何より、チャップリンという偉大な人物を演じるということ自体が大きなプレッシャーです。映画を観たとき、チャップリンの役者としてのすごさはもちろん、喋らずにあんなに笑いを取るパントマイムや動きの巧みさ、その多才さにおののいてしまって。どちらかというと自分は動きで見せちゃうタイプで、演技でみせるような役はこれまであまり経験がないので、内心とってもドキドキしています(笑)。
『モダン・タイムズ』など作品によってはチャップリン自身が踊っている映画もあるけれど、『街の灯』の場合はお芝居がメインですよね。なので舞台も芝居が多くなるのかと思っていたら、トランプの踊るシーンがかなり多い印象です。舞台ではいろいろな場面を演技で繋いでいく役割もあって、すごく大変な役ではあるけれど、やりがいがありますね。

Shunsuke-MahoA.jpg

提供:新国立劇場

Shunsuke-MahoB.jpg

提供:新国立劇場

ーーアラスターさんのクリエイションはいかがですか。リハーサルはどのように進められているのでしょう。

水井 リハーサルは9月初旬に始まりました。振り移しはもうだいぶ終盤に差し掛かっていて、10月の初めにはシーンごとの稽古に入ります。あまり時間がないということもあり、いちから現場でクリエイションをしていくのではなく、アラスターさんと助手のジョナサン・ハウエルズさんがあらかじめ決めた振りを持ってきて、振り移ししてくださっています。勿論、実際に踊ってみて調整したりするのですが、とてもスムーズに進んでいます。
チャップリンは最初から最後までずっと舞台に出ていて、ソロもあれば、パ・ド・ドゥもある。コール・ド・バレエも難しいパや踊り慣れないユニークなステップを組み合わせたエネルギッシュなシーンがあって、バレエとしての見応えもあります。バレエでありつつ、『街の灯』の普遍的なテーマが核にあって、ストーリーバレエとして素敵な作品だと感じます。

ーー映画『街の灯』は映画史に残る名シーンが多く登場しますが、舞台ではどの程度再現されるのでしょう。

水井 とても映画に忠実につくられているので、富豪とのやり取りで川に落ちるシーンや、ボクシングシーンなども出てきます。ボクシングシーンは音楽と一緒に動いていてダンスのようですし、かなり映画が再現されていますね。あと、舞台上を実際に車が走ります。舞台で使うのは電気自動車で、僕たちも実際に運転します。そのために、近々運転の練習をすることになっています(笑)。

ーー独特の動きや仕草など、いわゆるチャップリンらしさはどう表現していくのでしょうか。

水井 チャップリンの場合、バレエのステップはしていても、チャップリン風の動き方というものも出てきます。動きとしては、ジャズダンスとか、ちょっと崩した感じのステップもあったり、ピュアなクラシックバレエとはまた違った感じです。トランプ役は僕を含めて4人いるけれど、個性も、体型も、顔の造りも、いろいろなものが全然違う。アラスターさんの指示も完全に「こうして」というのではなく、シーンごとにニュアンスを伝えつつ、各々のダンサーの解釈に任せる幅を設けてくださっています。同じ振りをやっていても、みんなそれぞれ違ったりするし、クラシックバレエより見え方に差が出ているように思います。これが正解というのはない分、それがまた難しいです。
一般的なクラシックバレエのパ・ド・ドゥでは、男性は女性をサポートしつつ、自分も後ろで綺麗なポーズを取るようにしますよね。けれどそれをしてしまうとチャップリンではなくなってしまうので、後ろでサポートするときも、ちょっと崩した姿勢だったり、足をアンデオールにせず普通の感じで立っていたり、時にはチャップリン特有の外足で立ってみたり。力の入れ具合もいつもとは変わってきてしまうのが難しいのですが、そういうところを気を付けながらポーズを取るようにしています。
見た目もチャップリンに寄せていくつもりですし、歩き方や、杖の使い方はもちろん、トレードマークの帽子にしても、いろいろ意識して、どうすればチャップリンっぽくなるか、自分なりに試しています。
誰もが知っているキャラクターだけに、チャップリンをただコピーすると違和感が出てきてしまう。目指すのは、自分の中にあるものを、いかにチャップリンっぽく作っていくか。あとは、パートナーやいろいろな人との掛け合いの中で、1つの作品として成立させられればと考えています。それをお客さまが見た結果、僕のチャップリンだったねと感じてくださったら嬉しいです。

IMG_8550.jpg

水井駿介 © DANCE CUBE

Shunsuke-MahoC.jpg

提供:新国立劇場

ーー動きの中での表現、お芝居の部分はどう取り組んでいますか。

水井 チャップリンの『街の灯』自体無声映画で台詞がないので、そこはバレエに通じる部分があるのかなと、映画を観ながら考えていました。ただ言葉がないからこそ、ちゃんと伝えようとしなければ伝わらないし、そこがすごく難しい。映画だとヨリで撮っているものを、僕たちは新国立劇場の一番後ろのお客さままで伝えなければいけません。舞台に乗ったとき、どのくらい大きく伝わるようにするかがポイントなのかなと思っていて。演技の部分は、どう見えているか特に自分ではわからないので、アラスタ―さんやコーチ陣に指摘していただきながら、ぱっと見た時に、今、何をしていたのか、ということを伝えられる動きを模索中です。

ーーパートナーの花売り娘役は東真帆さん。2024年入団の同期で、バレエ・コフレ2026『A Million Kisses to my Skin』で初めてペアを組んでいます。パートナーとしての東さんはどんな印象ですか。

水井 彼女の持っているポテンシャルは入団した時から感じていました。コール・ド・バレエを踊っていても、すごく際立つものがあるし、光るものがあって。身体のラインやクラシックの丁寧さ、動き方もしなやかで、すごく好きな踊りです。『A Million Kisses to my Skin』で初めてペアを組みましたが、身長のバランスやどういう風に力を入れるかといった動き方のニュアンスも近いものを感じて、相性の良さを感じました。
リトル・トランプと花売り娘のパ・ド・ドゥがいくつかあるのですが、花売り娘は目が見えない設定なので、パ・ド・ドゥでも目を合わせません。目の見えない女性をサポートしているということで、こちらに身を委ねてもらい、エスコートしていく必要があって。そのサポートの仕方によって、女性が目の見えない状態の動きをいかに出せるかも変わってきます。それがうまく表現できればお客さまに伝わるだろうし、逆にそこをお互いに工夫しながらやらないと、ただ単にパ・ド・ドゥを踊るだけになってしまう。
女性は特に大変で、僕はずっと彼女に視線を送りながらエスコートしていくけれど、彼女の視界には僕がどこにいるのかわからない。
目が合わない難しさというのは初めての経験で、真帆ちゃんと一緒にいろいろ研究しています。先ほども触れましたが、面白いことに、キャストは4組いるけれど、カップルによって見え方が違うんです。なので1回だけではなく、違うキャストで観てもらうと楽しいかもしれません。

ーーハッピーエンドかバッドエンドか、『街の灯』のラストについての解釈はさまざまありますが、水井さんはどう受け止めていますか。

水井 とても難しい質問ですね。僕はチャップリン目線で見ているから、どちらとも言えないというか......。きっと誰目線で見るかによっても、解釈がだいぶ変わってくると思っていて。客観的に見ると、バッドエンドという人の方が多いのかもしれません。社会的な地位もいろいろひっくるめて、結ばれるわけないよねって思う人が多いだろうし。ただチャップリン演じるトランプにとって、誰も気に留めようとしない彼の日常のなかで、花売り娘だけが、彼の持っている優しさ、無邪気さ、人間性をわかってくれた。トランプはこの女性に恋をして、色々空回りしながらも彼女のためにお金を作ろうと動いた時間は、たぶん彼の中ですごく充実したものだったと思うんです。彼女の目が見えるようになり、人生の中で一つ成し遂げた。自分の姿を見られても、彼の中ではでもそれもたぶんわかった上での行動だったから、別によかったのだと思う。人によってはそれがバッドエンドになるかもしれないけれど、チャップリン目線で見ると、決してバッドエンドではないと思うんです。けれど、ハッピーエンドでもなくて......。
ラストのシーンでは、チャップリンの中ではいろいろな感情がぐわっと渦巻いていて、花売り娘を踊る女性もまたチャップリンとは違う感情がある。バレエ版ならではの見せ方であり、大きな見どころになると思います。
ぜひ、劇場でこのラストを観ていただき、それぞれの解釈でこの作品を味わっていただけたら嬉しいです。

Shunsuke-MahoD.jpg

提供:新国立劇場

Shunsuke-MahoE.jpg

提供:新国立劇場

新国立劇場バレエ団『街の灯』

026年10月23日[金]~11月1日[日]
新国立劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/citylights/

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る