最新作『街の灯』、新国立劇場バレエ団が公開リハーサル&振付家会見を行った
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
新国立劇場バレエ団が、新シーズンの幕開け作品として『街の灯』を世界初演する。喜劇王チャールズ・チャップリンによる1931年の同名のサイレント映画を題材に、チャップリン財団からの許可のもと、世界で初めて全幕バレエ化を果たす。開幕を前に公開リハーサル&記者会見が開催され、主演の奥村康祐、米沢唯により一部シーンが披露された。

撮影:奥田祥智

撮影:奥田祥智
まずは、公開リハーサルから。
映画『街の灯』は放浪者と盲目の花売り娘との切ない恋を描いた物語で、チャップリン自身が主演を務めた映画史に残る名作の一つ。奥村康祐はチャップリン扮する放浪者(リトル・トランプ)を、米沢唯はリトル・トランプが恋に落ちる盲目の花売り娘を演じる。
この日のリハーサルは、リトル・トランプと花売り娘が初めて出会う物語の冒頭のシーン。盲目の花売り娘は当時まだ高級だった自動車の扉が閉まる音を聞き、側にいたチャップリンを大富豪だと勘違いしてしまう。一方、リトル・トランプはなけなしのコインで花を買う。花売り娘がリトル・トランプの胸に一輪の花を挿し、感謝の想いを伝える。リトル・トランプは花売り娘の目が見えないと気づき、そこからパ・ド・ドゥが始まる。
トレードマークのステッキとハットでチャップリンに扮する奥村は、所作も表情も飄々として何ともチャーミング。花売り娘が放つバケツの水をかぶり、わっと飛び上がる名場面をユーモラスに再現し、記者たちの笑いを誘う。奥村が花売り娘の米沢を優しくエスコートし、その手に導かれ、米沢が世界へ一歩を踏み出していく。花売り娘の心を解放していく様が印象的だ。
音楽はチャップリンが作曲したオリジナル曲をアレンジし、ロマンティックかつ美しくシーンを彩っていく。振付のアラスター・マリオットが「オリジナル(映画)を尊重した」と言うとおり、映画をかなり踏襲してのバレエ化である。

撮影:奥田祥智

撮影:奥田祥智

撮影:奥田祥智
続いて、会見を実施。奥村、米沢に、振付のアラスター・マリオット、ジョナサン・ハウエルズが加わり、記者からの質問に答えた。
「小さい頃よくジョナサンと一緒にバレエのコンクールに出ていました。当時は小さい男の子がやる役は限られていて、二人ともチャップリンを踊っています。あの頃はテレビのチャンネルも少なくて、古い映画が繰り返し流れていました。そこでチャップリンに親しんで育った背景がありました」というのは、振付のアラスター。『街の灯』をバレエ化する構想が浮かんだのは、コロナ禍のことだったと話す。
「振り返ると、100年前にスペイン風邪がはやり、戦争が起こり、人々は刹那的になり、ついに大恐慌が起こり、破産し、明日の命がわからないような状況になった。そうした過去を見ていくと、今、私たちが生きている世界と共通項があるのではないかと思った。小さな市井の人に焦点をあて、それをオペラティックに表現したらどうだろうと考えた。そうした人間性のある物語はないかと思った。億万長者がお金で何かを為し遂げるのではなく、小さな人が、リトル・トランプが為し得るものの大きさです。彼は何も持ってないけれど、浮浪者のままで人生を変えてしまうことができる。そこに大きなドラマがあるのではないか、市井の人々が起こし得るドラマを描きたいと思ったのです」
アラスターは吉田都演出『ジゼル』で改訂振付を手がけ、その後ロンドン公演にも携わるなど、新国立劇場バレエ団との関わりは深い。
「『ジゼル』で会ったときから新国立劇場バレエ団とは恋に落ちていて(笑)、作品の創作に取りかかる段階から誰が何をやったらいいいだろう、と考えていました。もともと歌舞伎や浄瑠璃といったものを日本人は持っており、物語を語り、繊細かつ正確にお客さまに伝える力がある。振付のアイデアを出す時もそれが念頭にあり、それで形づくられてきた。『街の灯』はコメディでありペーソスある物語で、それは日本人だから表現できると考えました」
楽曲はチャップリン作曲のスコアをもとに、サイレント映画音楽の専門家ティモシー・ブロックが編曲を担当。チャップリンのオリジナル楽曲を尊重したというが、映画とバレエではシーンの尺も必要とされるテンポも違う。「スコア作りは挑戦でした」とジョナサンが振り返る。「映画では2分の場面を10秒にしたり、その逆にしたり。ここはもっと盛り上げたい、ここは静かになど、一つ一つリクエストをしていきました。最終的に、目の見えない少女の感覚や、トランプはじめキャラクターを表現できる、美しい曲ができたと自負しています」

撮影:奥田祥智
主演の奥村が、チャップリンに挑む心境を語った。
「まずはチャップリンの映画をたくさん観ました。彼は監督、演出、音楽、主演と、全部自分で手がけている。映画を観れば観るほど偉大さを感じています。みんながぱっとイメージするチャップリンはコメディの要素が強いけれど、実際に映画を観ると、哀愁や寂しさ、弱さ、繊細な面があり、それを際立たせるためのコメディだと感じて。ただ、バレエと映画ではでみえ方がまた違う。映画だとアップになっていたり、カットでリトル・トランプの顔だけが見えたりするけれど、バレエはフラットになってしまうので、身体の角度であったり、表現の難しさを感じています」
演技派で知られる奥村だが、喜劇王役ともなるとハードルはなかなか高いようだ。リトル・トランプの人物造型については「あくまで紳士であり、汚れた身なりであっても心はきれい、というのがまず一つ。イメージとして、ジェントリーな感じを心がけています。加えて、チャップリン独特の歩き方、目の使い方、眉の使い方も研究中です。アラスターさんとジョナサンさんは演技がすごく上手なので、それをキャッチしていれば良くなると感じます。振付が始まる前は不安要素があったけれど、最初の2回でこれはすごい作品になると思いました。この作品に巡り会えて良かった。作品のラストはアラスターさん独特の終わり方になるので、そこも見所になると思います」と述べた。

撮影:奥田祥智
ヒロインの米沢は、目の見えないキャラクターという難役を踊る。「難しいのは、目線を外したままクラシックの正確なポワントワークをするところ。ただそれ以上に私がしなくてはならないのは、彼女の感情や揺れ動くセリフをお客さまに伝えること。それが一番大切で、正確なポワントワーク、クラシックのラインを守りつつ、目が見えないということを伝えながら、お客さまにどうドラマを伝えるか、楽しみながら試行錯誤しているところです。奥村さんと毎日いろいろ研究して、アップデートしています」と米沢。「是非いろいろな人に観ていただきたい」と、作品への想いを口にする。「最初の振りをもらったとき、これは素敵なバレエになると確信しました。私にとって大切な役であり作品になると思います。映画を観たとき、私は花売り娘のことを、目が見えなくて不幸な人ではない、と思いました。自分の足で立って、自分の手で生活して、前向きに生きている女性であると思ったんです。その部分は大切にしたい。盲目の少女があげた花を、トランプはずっと胸に挿し、大事にし続ける。私自身は、一輪の花を差し出す、そんな存在であれたらいいなと思います」
新国立劇場バレエ団『街の灯』は、2026年10月23日開幕。キャストは奥村康祐&米沢唯ペアをはじめ、計4組8名が回代わりで主演を務める。

撮影:奥田祥智

撮影:奥田祥智
新国立劇場バレエ団『街の灯』
2026年10月23日[金]~11月1日[日]
新国立劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/citylights/
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。