母を喪ったシンデレラと王子の心の動きを追ったメルヘン――『シンデレラ』(全2幕)牧阿佐美バレヱ団

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団

『シンデレラ』田切眞純美:台本・構成・演出振付、清瀧千晴:振付補佐

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西山朱里(シンデレラ) 撮影/鹿摩隆司

牧阿佐美バレヱ団が8月22日、23日に子供のためのバレエ『シンデレラ』(田切眞純美振付、全2幕)を上演した。田切眞純美は「クリエーションを志す団員の創作の場として」、牧阿佐美バレヱ団が2023年に始めた
<DANCE ALOUD>でも小品を発表しているが、『シンデレラ』は子供のためのバレエとして2025年に振付けた初の全幕作品である。
『シンデレラ』は英国ロイヤル・バレエのアシュトン版を始め、いくつかの優れたヴァージョンが現在もしばしば上演されている人気のある古典バレエだ。しかし、田切版は過去の『シンデレラ』の舞台から大きな影響を受けることなく、なかなか特徴的におもしろく作られていた、と思う。
物語は公演パンフレットに詳しく書かれているが、私の言葉でも少し記しておくと、シンデレラ(西山珠里)は、義母(土川世莉奈)や義姉妹(大崎結華・佐野まひる)からひどく虐げられているわけではないが、最愛の母(久保茉莉恵)の死という現実を乗り越えることがどうしてもできない。そのためシンデレラは、若い女の子らしく溌剌として日々を楽しむことはできず、身近にいるトカゲ(度會慶)や猫(小笠原征論)、リス(岡本尚之)、鳥(細野生)などの動物たちと仲良く過ごしている。だが、義母たちと親しく馴染むことはできなかった。
そして、シンデレラが何よりも大切にしているのは、生前の母から贈られた美しいガラスの靴。キラキラと輝くこの靴を履いて、華やかな舞踏会で踊ることを夢見て生きていた。この美しい靴はシンデレラの生きる(踊る)ための必須アイテムだっだ。
するとある時、魔法の時が訪れる。春(髙橋万由梨)夏(鈴木佑菜)秋(上中穂香)冬(秦悠里愛)という四季の精たちが現れて踊り、シンデレラを励まして背中を押した。たくさんの勇気をもらったシンデレラは、夜空の星々の精たちや動物たちとともに夢見ていた世界へ、その一歩を踏み出した。
一方、お城には母を亡くし、窮屈な王宮の規律の中で孤独に陥った王子(清瀧千晴)がいた。妻を亡くして寂しさを知る王(坂爪智来)は、愛する王子の孤独を癒すために、盛大な舞踏会を催して美しい花嫁を迎えてやろう、と強く願った。
宮殿の大ホールで華やかに開催された舞踏会で王子は、美しく生き生きとしたシンデレラと出会い、母の遺品のネックレスを巡って、二人の心と心が溶け合った。しかし、大時計が真夜中の12時を告げる時を打ち、魔法の時間は終わった・・・。

「シンデレラ」西山珠里(シンデレラ)、土川世莉奈(義理のお母さん)、細野生(鳥)、渡會慶(トカゲ)、岡本尚之(リス)、小笠原征諭(猫)_撮影・鹿摩隆司_CD26-0048_tok.jpg

西山朱里(シンデレラ)土川世莉奈(義理のお母さん)細野性(鳥)渡會慶(トカゲ)岡本尚之(リス)小笠原征諭(猫)
撮影/鹿摩隆司

「シンデレラ」上左から佐野まひる(義理の妹)、土川世莉奈(義理のお母さん)、大崎結華(義理のお姉さん)、西山珠里(シンデレラ)_撮影・鹿摩隆司_CD26-0147_tok.jpg

上左から佐野まひる(義理の妹)土川世莉奈(義理のお母さん)大崎結華(義理のお姉さん)西山珠里(シンデレラ)
撮影/鹿摩隆司

「シンデレラ」左から鈴木佑菜、秦悠里愛、西山珠里、上中穂香、高橋万由梨_撮影・鹿摩隆司_CD26-0458_tok.jpg

左から鈴木佑菜(夏)秦悠里愛(冬)、西山珠里、上中穂香(秋)、高橋万由梨(春)
撮影/鹿摩隆司

「シンデレラ」カバリエール_左から正木龍之介、石山陸、石田亮一、近藤悠歩_撮影・鹿摩隆司_CD26-0224_tok.jpg

カバリエール_左から正木龍之介、石山陸、石田亮一、近藤悠歩
撮影/鹿摩隆司

母の慈愛を喪ったシンデレラと王子の心の動きを丁寧に追い、出会いとその心の交流をメルヘンとして描いている。
音楽はプロコフィエフの曲を使っているが、意地悪な義母や姉妹を戯画的に描いてシンデレラの純真さを際立たせるシーンはなく、お城の舞踏会には道化も登場しないし、個性的なゲストもいない。登場人物を多く登場させながら、速いテンポで展開し、マイムを多用したおもしろい語り口で物語の成り行きを表していた。カボチャの馬車らしき豪華な乗り物は現れないが、動物たちは本物のカボチャとともに舞台を移動していた。舞台美術は、幼い頃に遊んだとび出す絵本の宮殿のようで手作り感があり、演出のタッチとも合っており、温かみのあるメルヘン世界を創っていて感心した。(装置デザイン:安藤基彦)
演出は、舞台の背後に何枚かの黒いパーテーションを左右に動かして魔法の時間を表して場面変換をしたり、時折、シンデレラの母が幼い日の彼女の手を引いて舞台を横切る、といった表現が効果的だった。ダンスシーンはそれぞれ楽しく踊られており、マイムとも馴染んでいて良かった。ただ、お城の舞踏会のシンデレラのヴァリエーションは、もっとたっぷりと見せて欲しかった。ここはやはり、母の喪失から立ち直ったシンデレラのすべてをダンスで表現し、観客を圧倒するくらいのチャレンジが欲しかった。続いて踊られた王子とシンデレラのデュエットも少し淡白に感じられてしまった。
しかし古典バレエの名作としっかりと向き合って、納得がゆくように自由に舞台を創ったことは素晴らしい。振付家をはじめとしてスタッフ、ダンサーたちのすべてが、この舞台創造を理解して良い舞台に仕上げようとする気持ちが、観客に直接伝わっていたと思う。こうした創作ということに対するしっかりとした向き合い方に、牧阿佐美バレヱ団の良き伝統が感じられたバレエだった。
(2026年8月22日 なかのZERO 大ホール)

「シンデレラ」西山珠里、清瀧千晴_撮影・鹿摩隆司_CD26-0481_tok-2.jpg

西山朱里(シンデレラ)清瀧千晴(王子)
撮影/鹿摩隆司

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清瀧千晴(王子)
撮影/鹿摩隆司

「シンデレラ」久保茉莉恵、米森結真(橘バレヱ学校)_撮影・鹿摩隆司_CD26-0034_tok.jpg

久保茉莉(シンデレラのお母さん)米森結真(橘バレヱ学校)
撮影/鹿摩隆司

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「シンデレラ」撮影/鹿摩隆司

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